公爵家の次男は北の辺境に帰りたい

あおい林檎

文字の大きさ
24 / 64
二章 士官学校

新学期④

しおりを挟む





2人が大講堂に着いた時には、もう建物の外には誰もおらず、すでに生徒たちは中で着席をしているようだった。

「もう始まりそうだね。間に合ってよかった」
「そうですね」

お互いほっとしながら、ルイスとジェイデンは大講堂へと入る。

「ちょっと待って」

ルイスがふと思い出したように入り口で立ち止まり、ジェイデンの襟元に手を伸ばした。

「結び直してあげようと思ってたのに、忘れてた」
「ああ、そういえば・・・」

式典用の結び方があると、ユージーンが言っていたことを思い出した。生徒達は、皆同じ形にきれいに結っている。

「とりあえず、今は僕がやるから後で教える」

ルイスは大雑把に結われていた紐を解き、きれいなループノットの形に整えていった。あっという間に結い終えた指が、ジェイデンからすっと離れていく。

「ありがとうございます」
「行こうか」

大講堂は前に壇上があり、席は後方が広がった扇のような形をしていた。
天井は高く吹き抜け、頭上には大きなシャンデリアが等間隔で並んでいる。生徒全員が揃った光景はなかなかに圧巻だ。

「ジェイデン、こっちよ」
「アマーリエ?」

ルイスの後ろをついていき、クラスの席に近づいたところでアマーリエの呼ぶ声がした。
彼女の横の席が空いている。

「同じクラスって先生に聞いたから席を取っておいたの」

ルイスに会釈をし、アマーリエがジェイデンの手を引いた。
それに相槌を返しながら、ルイスは前方の壇上の方へと離れていく。

「あの、ありがとうございました」

慌ててルイスに礼の言葉をかけると、彼は片手を軽く上げてそのまま教師が集まる一角へと向かって行く。

その後ろ姿を見送りながら、ジェイデンはルイスの無駄のない、しなやかな動きに目を奪われた。遠くなる彼の背中で、銀髪が淡く輝いている。

(なんだ?見覚えがある気がする…)

「早く座って。ただでさえ、あなた目立つんだから」
「・・・ごめん」

ルイスの後ろ姿に既視感を感じて目で追っていたジェイデンは、アマーリエの言葉に我に返って椅子を引いた。
左隣にアマーリエが、右側には知らない女生徒が座っている。

「始めまして。失礼」

ジェイデンは隣の女生徒に声をかけて着席した。

これまでの女難の経験から、初めて会う女性には少し緊張してしまうジェイデンである。
ちょっと近寄り難さを感じさせる距離感を持つことが大切だ、とディアに釘を刺されているが、彼は自分の振る舞いにはいまいち自信がなかった。
そんなジェイデンを見て、アマーリエがくすくすと笑う。

「美形すぎるのも大変よね。でも、彼女は大丈夫よ」

「はじめまして、ジェイデン。アマーリエから話は聞いていたけど、本当に素敵な方ね。あなたに恋してしまう女性の気持ちがとってもわかるわ」

そう言いながらも、彼女の眼には友人に向ける程度の好意しか浮かんでいない。
小柄な少女だ。まっすぐな黒髪で、前髪は眉上で切りそろえられている。華奢なその姿は、迫力美人のアマーリエと一緒にいると、両極端で一際可憐に見えた。

「彼女はソフィア。ソフィア・カルテスよ」

カルテス家の娘。
ジェイデンの脳裏にユージーンとリルバの顔が浮かぶ。

「リルバ叔父様はご存知でしょう? 」

そう言って、ソフィアが微笑む。

「ソフィアはリルバ様に憧れているの。うんと年上の男性にしか興味がないのよ」

そうアマーリエが小声で耳打ちすると、ソフィアは恥ずかしそうに頬に両手を当てた。

「いやだわ、アマーリエったら」

頬を染めてもじもじする様子に、アマーリエは「彼が初恋の人なのよ」と続けた。
暗に、お前には興味がないから安心しろというアマーリエに、ジェイデンは過剰に身構えていた自分に気恥ずかしくなりながらも、新しいクラスメイトに心からの笑顔で答えた。

「よろしく、ソフィア」
「私こそ、仲良くしてもらえたら嬉しいわ。貴方、休み中に叔父様に会ったって本当?」
「ああ、騎獣の登録の時に少し」

アマーリエは、彼女を紹介するためにこの席をわざわざ空けておいてくれたのだろう。彼女の気遣いを嬉しく思いながら小声で話をしていると、大講堂に式典開始の鐘の音が響いた。
アマーリエが、笑いながら腕を突く。

「ほら、始まるわよ。静かにしなきゃ怒られちゃうわ」




しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

転生したようだけど?流れに身を任せていたら悪役令息?として断罪されていた――分からないまま生きる。

星乃シキ
BL
発作の後に目覚めたら、公爵家嫡男の身体だった。 前世の記憶だけを抱えたまま生きるレイは、ある夜、男の聖女への嫌がらせの罪で断罪される。 だが図書室の記録が冤罪を覆す。 そしてレイは知る。 聖女ディーンの本当の名はアキラ。 同じ日本から来た存在だった。 帰りたい聖女と、この身体で生きるレイ。 秘密を共有した二人は、友達になる。 人との関わりを避けてきたレイの人間関係が、少しずつ動き始める。

無能の騎士~退職させられたいので典型的な無能で最低最悪な騎士を演じます~

紫鶴
BL
早く退職させられたい!! 俺は労働が嫌いだ。玉の輿で稼ぎの良い婚約者をゲットできたのに、家族に俺には勿体なさ過ぎる!というので騎士団に入団させられて働いている。くそう、ヴィがいるから楽できると思ったのになんでだよ!!でも家族の圧力が怖いから自主退職できない! はっ!そうだ!退職させた方が良いと思わせればいいんだ!! なので俺は無能で最悪最低な悪徳貴族(騎士)を演じることにした。 「ベルちゃん、大好き」 「まっ!準備してないから!!ちょっとヴィ!服脱がせないでよ!!」 でろでろに主人公を溺愛している婚約者と早く退職させられたい主人公のらぶあまな話。 ーーー ムーンライトノベルズでも連載中。

悪役令息ですが破滅回避で主人公を無視したら、高潔な態度だと勘違いされて聖人認定。なぜか溺愛ルートに入りました

水凪しおん
BL
BL小説『銀の瞳の聖者』の悪役令息ルシアンに転生してしまった俺。 原作通りなら、主人公ノエルをいじめ抜き、最後は断罪されて野垂れ死ぬ運命だ。 「そんなの絶対にお断りだ! 俺は平和に長生きしたい!」 破滅フラグを回避するため、俺は決意した。 主人公ノエルを徹底的に避け、関わらず、空気のように生きることを。 しかし、俺の「無視」や「無関心」は、なぜかノエルにポジティブに変換されていく。 「他の人のように欲望の目で見ないなんて、なんて高潔な方なんだ……!」 いじめっ子を視線だけで追い払えば「影から守ってくれた」、雨の日に「臭いから近寄るな」と上着を投げつければ「不器用な優しさ」!? 全力で嫌われようとすればするほど、主人公からの好感度が爆上がりして、聖人認定されてしまう勘違いラブコメディ! 小心者の悪役令息×健気なポジティブ主人公の、すれ違い溺愛ファンタジー、ここに開幕!

結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした

BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。 実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。 オメガバースでオメガの立場が低い世界 こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです 強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です 主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です 倫理観もちょっと薄いです というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります ※この主人公は受けです

【完結 一気読み推奨】片想いの相手が「そろそろ恋愛したい」と言ったので、用済みの俺はニートになることにしました。

はぴねこ
BL
 高校生の頃、片想いの親友に告白した。  彼はノンケだったから玉砕して友人関係も終わるものだと思っていた。  もしかすると気持ち悪いと軽蔑される覚悟までしていたのに、彼は「今は恋愛をしている時間がないんだ」と自分の夢を語ってくれた。  彼は会社を興した祖父のことをとても尊敬していて、自分も起業したいと熱く語ってくれた。  そして、俺の手を握って「できれば親友のお前には俺の右腕になってほしい」と言われた。  同性愛者の俺のことを気持ち悪いと遠ざけることもせずに、親友のままでいてくれた彼に俺は感謝して、同じ大学に進学して、大学の頃に彼と一緒にゲームを作成する会社を起業した。  あれから二十年間、本当に二人三脚で駆け抜けてきた。  そして、昨年売り出したVRMMOが世界的に大ヒットし、ゲーム大賞を取ったことを祝うパーティーで親友が語った言葉に俺の覚悟も決まった。 「俺もそろそろ恋愛したい」  親友のその言葉に、俺は、長年の片想いを終わらせる覚悟をした。  不憫な拗らせアラフォーが”愛”へと踏み出すお話です。

悪役の僕 何故か愛される

いもち
BL
BLゲーム『恋と魔法と君と』に登場する悪役 セイン・ゴースティ 王子の魔力暴走によって火傷を負った直後に自身が悪役であったことを思い出す。 悪役にならないよう、攻略対象の王子や義弟に近寄らないようにしていたが、逆に構われてしまう。 そしてついにゲーム本編に突入してしまうが、主人公や他の攻略対象の様子もおかしくて… ファンタジーラブコメBL シリアスはほとんどないです 不定期更新

処理中です...