公爵家の次男は北の辺境に帰りたい

あおい林檎

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二章 士官学校

新学期④

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2人が大講堂に着いた時には、もう建物の外には誰もおらず、すでに生徒たちは中で着席をしているようだった。

「もう始まりそうだね。間に合ってよかった」
「そうですね」

お互いほっとしながら、ルイスとジェイデンは大講堂へと入る。

「ちょっと待って」

ルイスがふと思い出したように入り口で立ち止まり、ジェイデンの襟元に手を伸ばした。

「結び直してあげようと思ってたのに、忘れてた」
「ああ、そういえば・・・」

式典用の結び方があると、ユージーンが言っていたことを思い出した。生徒達は、皆同じ形にきれいに結っている。

「とりあえず、今は僕がやるから後で教える」

ルイスは大雑把に結われていた紐を解き、きれいなループノットの形に整えていった。あっという間に結い終えた指が、ジェイデンからすっと離れていく。

「ありがとうございます」
「行こうか」

大講堂は前に壇上があり、席は後方が広がった扇のような形をしていた。
天井は高く吹き抜け、頭上には大きなシャンデリアが等間隔で並んでいる。生徒全員が揃った光景はなかなかに圧巻だ。

「ジェイデン、こっちよ」
「アマーリエ?」

ルイスの後ろをついていき、クラスの席に近づいたところでアマーリエの呼ぶ声がした。
彼女の横の席が空いている。

「同じクラスって先生に聞いたから席を取っておいたの」

ルイスに会釈をし、アマーリエがジェイデンの手を引いた。
それに相槌を返しながら、ルイスは前方の壇上の方へと離れていく。

「あの、ありがとうございました」

慌ててルイスに礼の言葉をかけると、彼は片手を軽く上げてそのまま教師が集まる一角へと向かって行く。

その後ろ姿を見送りながら、ジェイデンはルイスの無駄のない、しなやかな動きに目を奪われた。遠くなる彼の背中で、銀髪が淡く輝いている。

(なんだ?見覚えがある気がする…)

「早く座って。ただでさえ、あなた目立つんだから」
「・・・ごめん」

ルイスの後ろ姿に既視感を感じて目で追っていたジェイデンは、アマーリエの言葉に我に返って椅子を引いた。
左隣にアマーリエが、右側には知らない女生徒が座っている。

「始めまして。失礼」

ジェイデンは隣の女生徒に声をかけて着席した。

これまでの女難の経験から、初めて会う女性には少し緊張してしまうジェイデンである。
ちょっと近寄り難さを感じさせる距離感を持つことが大切だ、とディアに釘を刺されているが、彼は自分の振る舞いにはいまいち自信がなかった。
そんなジェイデンを見て、アマーリエがくすくすと笑う。

「美形すぎるのも大変よね。でも、彼女は大丈夫よ」

「はじめまして、ジェイデン。アマーリエから話は聞いていたけど、本当に素敵な方ね。あなたに恋してしまう女性の気持ちがとってもわかるわ」

そう言いながらも、彼女の眼には友人に向ける程度の好意しか浮かんでいない。
小柄な少女だ。まっすぐな黒髪で、前髪は眉上で切りそろえられている。華奢なその姿は、迫力美人のアマーリエと一緒にいると、両極端で一際可憐に見えた。

「彼女はソフィア。ソフィア・カルテスよ」

カルテス家の娘。
ジェイデンの脳裏にユージーンとリルバの顔が浮かぶ。

「リルバ叔父様はご存知でしょう? 」

そう言って、ソフィアが微笑む。

「ソフィアはリルバ様に憧れているの。うんと年上の男性にしか興味がないのよ」

そうアマーリエが小声で耳打ちすると、ソフィアは恥ずかしそうに頬に両手を当てた。

「いやだわ、アマーリエったら」

頬を染めてもじもじする様子に、アマーリエは「彼が初恋の人なのよ」と続けた。
暗に、お前には興味がないから安心しろというアマーリエに、ジェイデンは過剰に身構えていた自分に気恥ずかしくなりながらも、新しいクラスメイトに心からの笑顔で答えた。

「よろしく、ソフィア」
「私こそ、仲良くしてもらえたら嬉しいわ。貴方、休み中に叔父様に会ったって本当?」
「ああ、騎獣の登録の時に少し」

アマーリエは、彼女を紹介するためにこの席をわざわざ空けておいてくれたのだろう。彼女の気遣いを嬉しく思いながら小声で話をしていると、大講堂に式典開始の鐘の音が響いた。
アマーリエが、笑いながら腕を突く。

「ほら、始まるわよ。静かにしなきゃ怒られちゃうわ」




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