公爵家の次男は北の辺境に帰りたい

あおい林檎

文字の大きさ
43 / 64
二章 士官学校

ベイルート⑧

しおりを挟む





応接間に、控えめなノックの音が響く。
開いた扉から、ゲイルが顔を覗かせた。

「ジェイデン様からの贈り物を運び入れてもよろしいでしょうか」

「ああ、頼む」

ベイルートの承諾を受けて、召使いが部屋に荷物を運び入れる。

ジェイデンが持ち込んだ、北からの手土産だ。
あっという間に箱が高く積まれ、部屋の端を占領してしまった。

「セオドア」

「はい。では失礼して」

セオドアは懐から小さな箱を取り出して、それをベイルートの前に置く。

「こちらがジェイデン様から、ベイルート様へのお土産です。あとの物は北のお屋敷から、王都のロンデナート家への贈り物ですので、別に梱包させていただきました」

ジェイデンからの個人的な土産は、小さな黄色の箱だけだ。
その場で渡せるよう、セオドアが包んで小さなリボンまでつけてくれている。

「ありがとう。開けていいか」

ベイルートが受け取って蓋を開けると、中には手のひらほどの石が収まっていた。

やや透き通った黄金色をした見事な魔石だ。この大きさのものはかなり希少である。
ジェイデンがセオドアと共に狩った魔獣の魔石のひとつだ。

「土蜥蜴の魔石です。変異した希少な個体だったので、魔石も珍しい物が出ました」

まだ研磨加工されていないその石は、これからどんな武具や装飾品にも使うことができる。
魔石を眼前に掲げ、照明の明かりを透かすように眺めているベイルートに、セオドアが付け加える。

「鱗が硬く変異し、防御力が高い土蜥蜴でした。土魔法とも相性が良く、防御系の武具や装飾品に加工することをお勧めします。…ただ、おそろしく硬いので加工には手間がかかりそうですが」

「なかなか面白い素材だな。お前が採ってきたものだと思えば愛着も湧くだろう。残りの土産は、すべて私から王都の屋敷へと渡しておく。心配するな」

そう言って嬉しげに魔石を受け取ったベイルートは、弟へと礼の言葉を述べて残りの荷物を引き取った。主人の合図に、ゲイルが荷物の移動を手配していく。
それを手伝うために、セオドアもその場を離れて退室していった。



兄弟はゲイルが次の予定をベイルートに告げに来るまで、兄弟水入らずの時間を過ごすことができたのである。








♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎





帰り道。

東寮までの道を並んで歩きながら、ジェイデンは少しきまりが悪そうに隣の男を見る。
すでに日は暮れていて、街路灯がぽつぽつと道を照らしてくれていた。
橙色の灯りに照らされた親友の横顔はいつも通りで、それがジェイデンの胸中をざわめかせる。

「意外と驚かないんだな」

「いいえ、充分に驚いていますよ」

実際、セオドアは兄弟仲が良いでは済まされないほどのベイルートの様子に驚いていたが、その涼しい顔には一切の変化がない。

従者の顔を崩さずに返事をしたセオドアに、ジェイデンは少しむくれた顔を向けた。
少しの照れ隠しと、隠していた秘密がばれた子供の顔だ。

それを見返しながら、こいつは自分が今どんな顔をしているか気づいているのかと、セオドアは思う。
他人に侮られないよう常に気を張っているこの年下の親友は、他人がいる場所ではこんな顔はしない。だが、先ほど兄へ見せた表情も、こんな風ではなかったか。
同年代の友人に対しては冷めたところのあるジェイデンが、自分には時折甘えた顔をを見せることが不思議だったが、物心ついた時から兄がああだったのなら合点がいく。

そんなことをつらつらと考えていたら、隣にいたジェイデンがついに足を止めてしまった。
ちょうど街路灯の真下だ。お互いの表情がよく見え、周りに人影はなかった。
仕方なくセオドアも足を止めた。

口から出る言葉は、いつもとは違い従者の口調のままだ。

「なんですか」

「その物言い、もういいだろう。ここまで来たら聞いている者もいない」

慇懃無礼で落ち着かない。
そう言いながら、ジェイデンは首元に巻かれたタイを無造作に引き抜いた。そのまま襟元も緩ませ、髪をまとめていた細紐まで取ってしまった。
肩に金髪がはらりとかかって、街路灯を受けて煌めく。

「せっかく結ってもらったのに悪いな」

「夜道だからと気を抜かないでください。ほら、通行人の方がいらっしゃいますよ」

悪びれない様子のジェイデンがにやりと笑っても、セオドアは叱りもせずに淡々と言葉を返した。邪魔だと解いたタイや髪紐はそのままに、襟元だけを正してやって、セオドアはさっさと歩き出す。
触れる指は優しいが、いつもと違って義務的だ。

慌てて後ろをついて行きながら、ジェイデンは戸惑いつつ口を開いた。

「お前、なんか変だぞ。どうした?」

「いいえ、なんとも。これっぽっちも変わりありませんよ」

そう言って正面を向いて歩く男は、自分の胸中に現れた感情に蓋をするよう、きっぱりと言い切って、東寮へと戻る足を早めた。





しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

無能の騎士~退職させられたいので典型的な無能で最低最悪な騎士を演じます~

紫鶴
BL
早く退職させられたい!! 俺は労働が嫌いだ。玉の輿で稼ぎの良い婚約者をゲットできたのに、家族に俺には勿体なさ過ぎる!というので騎士団に入団させられて働いている。くそう、ヴィがいるから楽できると思ったのになんでだよ!!でも家族の圧力が怖いから自主退職できない! はっ!そうだ!退職させた方が良いと思わせればいいんだ!! なので俺は無能で最悪最低な悪徳貴族(騎士)を演じることにした。 「ベルちゃん、大好き」 「まっ!準備してないから!!ちょっとヴィ!服脱がせないでよ!!」 でろでろに主人公を溺愛している婚約者と早く退職させられたい主人公のらぶあまな話。 ーーー ムーンライトノベルズでも連載中。

当て馬だった公爵令息は、隣国の王太子の腕の中で幸せになる

蒼井梨音
BL
箱入り公爵令息のエリアスは王太子妃候補に選ばれる。 キラキラの王太子に初めての恋をするが、王太子にはすでに想い人がいた・・・ 僕は当て馬にされたの? 初恋相手とその相手のいる国にはいられないと留学を決意したエリアス。 そして、エリアスは隣国の王太子に見初められる♡ (第一部・完) 第二部・完 『当て馬にされた公爵令息は、今も隣国の王太子に愛されている』 ・・・ エリアスとマクシミリアンが結ばれたことで揺らぐ魔獣の封印。再び封印を施すために北へ発つ二人。 しかし迫りくる瘴気に体調を崩してしまうエリアス…… 番外編  『公爵令息を当て馬にした僕は、王太子の胸に抱かれる』 ・・・ エリアスを当て馬にした、アンドリューとジュリアンの話です。 『淡き春の夢』の章の裏側あたりです。 第三部  『当て馬にされた公爵令息は、隣国の王太子と精霊の導きのままに旅をします』 ・・・ 精霊界の入り口を偶然見つけてしまったエリアスとマクシミリアン。今度は旅に出ます。 第四部 『公爵令息を当て馬にした僕は、王太子といばらの初恋を貫きます』 ・・・ ジュリアンとアンドリューの贖罪の旅。 第五部(完) 『当て馬にした僕が、当て馬にされた御子さまに救われ続けている件』 ・・・ ジュリアンとアンドリューがついに結婚! そして、新たな事件が起きる。 ジュリアンとエリアスの物語が一緒になります。 S S 不定期でマクシミとエリアスの話をあげてます。 この2人はきっといつまでもこんな感じなんだと思います。 エリアス・アーデント(公爵令息→王太子妃) マクシミリアン・ドラヴァール(ドラヴァール王国の王太子) ♢ アンドリュー・リシェル(ルヴァニエール王国の王太子→国王) ジュリアン・ハートレイ(伯爵令息→補佐官→王妃) ※扉絵のエリアスを描いてもらいました ※本編はしばらくお休みで、今は不定期に短い話をあげてます。

悪役の僕 何故か愛される

いもち
BL
BLゲーム『恋と魔法と君と』に登場する悪役 セイン・ゴースティ 王子の魔力暴走によって火傷を負った直後に自身が悪役であったことを思い出す。 悪役にならないよう、攻略対象の王子や義弟に近寄らないようにしていたが、逆に構われてしまう。 そしてついにゲーム本編に突入してしまうが、主人公や他の攻略対象の様子もおかしくて… ファンタジーラブコメBL 不定期更新

主人公の義弟兼当て馬の俺は原作に巻き込まれないためにも旅にでたい

発光食品
BL
『リュミエール王国と光の騎士〜愛と魔法で世界を救え〜』 そんないかにもなタイトルで始まる冒険RPG通称リュミ騎士。結構自由度の高いゲームで種族から、地位、自分の持つ魔法、職業なんかを決め、好きにプレーできるということで人気を誇っていた。そんな中主人公のみに共通して持っている力は光属性。前提として主人公は光属性の力を使い、世界を救わなければいけない。そのエンドコンテンツとして、世界中を旅するも良し、結婚して子供を作ることができる。これまた凄い機能なのだが、この世界は女同士でも男同士でも結婚することが出来る。子供も光属性の加護?とやらで作れるというめちゃくちゃ設定だ。 そんな世界に転生してしまった隼人。もちろん主人公に転生したものと思っていたが、属性は闇。 あれ?おかしいぞ?そう思った隼人だったが、すぐそばにいたこの世界の兄を見て現実を知ってしまう。 「あ、こいつが主人公だ」 超絶美形完璧光属性兄攻め×そんな兄から逃げたい闇属性受けの繰り広げるファンタジーラブストーリー

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /チャッピー AI比較企画作品

【本編完結】死に戻りに疲れた美貌の傾国王子、生存ルートを模索する

とうこ
BL
その美しさで知られた母に似て美貌の第三王子ツェーレンは、王弟に嫁いだ隣国で不貞を疑われ哀れ極刑に……と思ったら逆行!? しかもまだ夫選びの前。訳が分からないが、同じ道は絶対に御免だ。 「隣国以外でお願いします!」 死を回避する為に選んだ先々でもバラエティ豊かにkillされ続け、巻き戻り続けるツェーレン。これが最後と十二回目の夫となったのは、有名特殊な一族の三男、天才魔術師アレスター。 彼は婚姻を拒絶するが、ツェーレンが呪いを受けていると言い解呪を約束する。 いじられ体質の情けない末っ子天才魔術師×素直前向きな呪われ美形王子。 転移日本人を祖に持つグレイシア三兄弟、三男アレスターの物語。 小説家になろう様にも掲載しております。  ※本編完結。ぼちぼち番外編を投稿していきます。

拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。 状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。 「これ…俺、なのか?」 何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。 《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》 ──────────── ~お知らせ~ ※第3話を少し修正しました。 ※第5話を少し修正しました。 ※第6話を少し修正しました。 ※第11話を少し修正しました。 ※第19話を少し修正しました。 ※第22話を少し修正しました。 ※第24話を少し修正しました。 ※第25話を少し修正しました。 ※第26話を少し修正しました。 ※第31話を少し修正しました。 ※第32話を少し修正しました。 ──────────── ※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!! ※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。

すべてを奪われた英雄は、

さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。 隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。 それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。 すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

処理中です...