公爵家の次男は北の辺境に帰りたい

あおい林檎

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二章 士官学校

マールのおつかい⑥








あっという間に昼食を食べ終えて、マールが淹れなおしたお茶を飲んで一息つく。

「これが隠し財布」

マールは自室から約束していた隠し財布を取ってきて、アシェの前に並べた。
形の違うものが3種類。

「それぞれ、つける場所が違うんだ。俺は何かあったときのために、最低ふたつは身につけてる」

物珍しそうに覗き込むアシェの衣服を見ながら、マールはその中の一つを手に取る。

「ひとつはこれかな」

アシェはゆったりとした貫頭衣の下に、同じ生地の下衣を履いていた。下衣の裾はムートンのブーツに入れているが、膝辺りまでは上から着ている貫頭衣で覆われている。

マールが手に取ったのは、太腿に巻きつけるものだ。

「これならつけてるのがわからない。後は、首にかけるよくあるやつだな」

長い革紐でできた首飾りに小物入れのような小さな財布がついている。

「誰かに襲われて金を出せと言われたら、大人しく首から下げてる方を渡せよ」

そのために、そちらにはあえて少額入れておくのだ。
もちろん本命は大腿にくくりつけている方だ。

「わかった」

アシェは大人しく頷いて、ふたつの隠し財布を受け取った。

「さっとと銀貨を隠しちまえ。あっちの部屋使って良いから」

「ありがとう」


そう言われ、アシェは有り難く隣室を借りることにした。
隣室へ入り、言われた通りに首から下げる財布には銀貨を2枚だけ入れて肌着の下に隠す。

「…これ、どうつければいいんだ?」

下衣を脱いで太腿につけろと言われた財布に、残りの銀貨を詰めてから装着してみたが、うまくいかない。
何とかくくりつけてみたが、このまま歩けばすぐに落ちてしまいそうだった。

「…マール、足につける方がうまくできない」

アシェは困って隣室のマールを呼んだ。

「どうした?」

すぐにマールは来てくれた。
部屋の入り口からマールの視線を感じて、アシェはそういえば下衣を脱いだ姿だったことを思い出した。

アシェは男女関係なく、今まで家族以外の前で服を脱いだことがない。
じわじわとアシェの中で羞恥心が湧き上がってきた。
しかしマールは気にする様子もなく、アシェに近づいて足元に蹲み込んだ。ちょうど股間のところに目線がきて、アシェは焦って声を上げた。

「わぁ!」

「何だよ。男同士なんだから恥ずかしがることないだろ」

「そういうものか?」

「そうだよ。…銀貨が多すぎて財布が重くなってるから上手く留まらないんだな」

マールは気にする様子もなく、アシェの太腿についている財布のベルトを緩めて取り外した。
触れた手が冷たくて、アシェがびくりと震える。

「お前、着痩せするんだな。脚ががっしりしてるから、革紐のベルトもぎりぎりだ」

マールは冷静に見分するような声音でそう言い、太さを測るようにアシェの太腿を触った。

アシェは羊の世話で一日中山を歩く。
山は場所によっては険しく、羊飼いには筋肉質な者が多い。現にアシェの父親は熊のような大男だ。
アシェはまだ子供だが、成長したら父親のような体躯になるだろうと思っている。

「…財布が重くて無理なら、別の形のものにしたほうがいいのか?」

まだ財布の革紐の長さと比べるように太腿を触っているマールに、アシェは困った声でそう言った。男同士なのだからと言われた手前、過剰に反応するのは逆に恥ずかしい。

その言葉にマールが手を止めたことにアシェは内心ほっとする。

「ああ。腰に留める方が重くても大丈夫だと思う。ちょっと待ってろ」

そう言ってマールは立ち上がり、踵を返して先ほどの客間に別の財布を取りに戻った。

新しく渡された財布は腰紐で固定する種類のもので、肌着の下につければ目立たず重みも問題なかった。
上から服をきっちりと着込んで、アシェはマールに礼を言う。

「ありがとう。帰ったら母さんに作ってもらって、早く返しにくる」

アシェの母親は内職で皮小物作りをしており、隠し財布くらいは簡単に作れるはずだ。



マールは町に来るついてでいいと返事をして、客間へ戻ろうとアシェを促した。







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