ワガママで意地悪で、どうしようもなく純愛。

亜衣藍

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Worrisome person

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 我ながら兄らしい事を言ったなと思ったら、更に物凄い目で睨み返されてしまった。

「はぁ? なんだよそれ」

「い、いや、だから――」

 思わずたじろいで口籠ると、達実は火を噴くような勢いで言い返してきた。

「奏は、、オメガなんだぞ・・・・・・・! 昔と違って今はヒートを完全制御できるから、オメガは襲われる心配は無いって言いたいのか!? 」

 ドンっとローテーブルを拳で叩くと、達実はギリギリと歯軋りをしながら言い募る。

「僕は、アルファだ! だから分かるんだ! どんなに奏が魅力的なのかを!! 」

「――――まぁ、確かに……オレもアルファだから、お前の言い分も分からんでもないが……」

 そう言うと、今度は、達実は采をケダモノを見るような眼で睨んできた。

「お前、まさか奏を狙ってないだろうな!? 」

「ふっ……」

 一瞬言葉を失うが、直ぐに采は烈火のように言い返す。

「ふざけんな! そんなバカな話があるか!! 」

 采も、ローテーブルを手の平でバンっと叩き、達実を正面から見据える。

「こっちはいい加減に、お前の自分勝手な妄想にはウンザリしているんだ。オレはオメガを娶るなら、血筋が良くて大人しい女を選ぶつもりなんだ。それがどうして、オレよりも年上のオメガ男体に手を出すかっていうんだよ!? 目を覚ませ! 」

 そう言うと、達実は不満そうに眼を逸らした。

「…………ふぅん、つまんねーの」

「なに? 」

「結局、あんたも古臭い事しか考えないんだな」

「?? 」

 何やら達実は、采の言い分にまだ不満がありそうだ。

 しかし采は、何もおかしなことは言っていない筈だ。

 訳が分からなくて、采は腕組みをして達実を見遣る。

「なんだ? 何かまだ文句があるのか? 」

「――――血筋が良くて、大人しい女のオメガねぇ」

 フンっと鼻で笑い、達実は挑戦的な眼差しで采を見返す。

「そんなカタイことを言っているから、いつまでも独身なんじゃないのか? 」

「なっ――」

「あんた、42だろう? 普通なら番の一人もいる筈の年じゃないか。見た目年齢だけは30代をキープしているけど、中身はとっくに年寄りだ。のんきに構えていたら、番はおろか結婚も出来ないぜ」

 グサリと突き刺さる言葉に、采は『うっ』と呻いて押し黙る。

 達実はそんな采を小馬鹿にしたように見遣ると、スッと立ち上がった。

「生憎と僕は、のんきに構えてどこにいるんだか分からない『運命の番』を待つ気はないんだ。どんどん積極的にアタックして、最高の相手をゲットするつもりさ。あんたと違ってね」

「――」

「それに僕は、ダディが亡くなった今、奏の為にも行動しないとダメになったんだ。奏みたいに可愛いくて魅力的なオメガ、放って置いたら大変な事になっちまう。――――ダディの事は本当に残念だったけど……ダディの分まで、アルファである僕が傍に居て奏を守ってやらないと」

「だから、それが! 」

 采は、顔を真っ赤にして怒鳴り声を上げる。

「余計なお世話だっていうんだよ、このクソガキ! 」

「なに? 」

「親父が好きだったのは、奏じゃなくて七海達樹だ! だから親父は……七海のDNAを受け継いだお前のことを大切にして可愛がっていたんだ。実際お前は、七海によく似ているしな」

 采の父親である九条凛は、実の息子である采の事は、そのほとんどを教育係と乳母に託し、長じてからは、年の離れた妹である恵美に任せっきりにしていた。

 それに対して、達実のことは溺愛と言ってもいいくらいに可愛がり、たとえ遠く離れた場所でも、毎日ネットを介して様子を伺っていた。

 これは、ずいぶんな格差であろう。

 采は反発して、凜と何度も衝突した。

 しかしその度に言われたのは、
『お前は達実よりもずっと年上なんだから、ワガママな子供のような事を言うのではない』
 であった。
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