15 / 116
Liar and liar
7
しおりを挟む
(僕は、皆から敬遠されて嫌われるタイプだってのはよく分かったよ。――――采だって、いつも僕の事を目の敵にして突っ掛かって来るし。他の家の兄弟は、歳が離れていても仲がいいってのにさ! 僕たちは顔を合わせる度にケンカばっかりだ)
もしや、それはやはり自分に原因があるのだろうか?
自分は、とにかく人に嫌われるので、今までの事を鑑みると全てこっちが悪かったように思えてくる。
しかしそれならば何故、采はキスをしてきたのだろう?
結局は、そこに行き当たる。
普通は、嫌いな相手にはキスなどしない筈だ。
では、采は達実の事が好きなんだろうか?
(なんか、采の事を考えると本当に頭がグチャグチャになるんだよな。あいつ、僕のことが嫌いなのか好きなのか――――男だったら、ハッキリしろってんだ! )
考え出すと、イライラが止まらずむしゃくしゃする!
達実は先程のオメガの一件も思い出し、チッと舌打ちをした。
そんな不機嫌な様子の達実をおどおどと見遣りながら、コホンと軽く咳払いをして、コンシェルジュが遠慮がちに声を掛ける。
「結城様、到着いたしました――どうぞ」
「……うん」
達実は小さく返事をして、開いたエレベーターから一歩踏み出した。
◇
コンコンとノックの音の後に、『お客様をお連れしました』と扉の向こうから声が発せられた。
采は一つ息をつくと「どうぞ」と、返答する。
すると、ガチャリと扉が開いた。
そこには、恭しく頭を下げたコンシェルジュと、険しい表情で仁王立ちする達実がいた。
一昨日別れたばかりなのに、その美しさには息が止まりそうだ。
真紅の薔薇の棘に突き刺されたような気分になり、采は思わず苦痛を堪えるような表情になる。
(くそ! こいつは本当に――ツラだけは良過ぎなんだよっ)
長いまつげも、柔らかそうな頬も、ピンク色の唇も、采の眼には全てがキラキラと輝いて見える。
達実がオメガだったら納得するのだが、彼は自分と同じアルファだというのに――――それなのに、どうしてこんなに魅力的に見えるのだろうか?
(まったく、サギみたいなもんだよな……)
言葉が詰まらないように気を付けながら、采は口を開いた。
「――よく来たな」
とりあえず、そう声を掛けたところ、
「くせぇ」
と、吐き捨てられた。
次に、達実は形のいい鼻を指でつまんで、不快そうな表情を浮かべる。
「嫌な臭いがプンプンする。ここは最悪だな」
「嫌な臭い、だと? 」
采はその指摘に首を傾げ、達実の背後に控えているコンシェルジュに視線を向ける。
「君は、何か感じるか? 」
「え……い、いいえ。申し訳ございません、私には分かりません。気になるようでしたら、クリーニングをお呼び致しましょうか? 」
「いや――――オレも不快なにおいなど感じない。達実、お前、言い掛かりも――」
いい加減にしろよと言いかけたところ、達実の方が先に口火を切った。
「ここ、オメガのフェロモンの臭いがする。この残り香……やっぱり、エントランスで会ったヤツと同じだ」
達実の指摘に、采とコンシェルジュは『ああ』と納得した。
「そうか、あいつと下で会ったのか」
あいつという采の親し気な言い方に、達実の眦がピクリと反応する。
だがそれに気付かず、采は呑気に口を開いた。
「たった今、帰ったところだったからな――――しかし、よく残り香なんて分かったな? 」
「そこらじゅうプンプンしているじゃないか。気付かない方がどうかしているよ」
フンっと不愉快そうに鼻を鳴らすと、達実は『窓を開けて空気の入れ替えをしたい』と言い出した。
もしや、それはやはり自分に原因があるのだろうか?
自分は、とにかく人に嫌われるので、今までの事を鑑みると全てこっちが悪かったように思えてくる。
しかしそれならば何故、采はキスをしてきたのだろう?
結局は、そこに行き当たる。
普通は、嫌いな相手にはキスなどしない筈だ。
では、采は達実の事が好きなんだろうか?
(なんか、采の事を考えると本当に頭がグチャグチャになるんだよな。あいつ、僕のことが嫌いなのか好きなのか――――男だったら、ハッキリしろってんだ! )
考え出すと、イライラが止まらずむしゃくしゃする!
達実は先程のオメガの一件も思い出し、チッと舌打ちをした。
そんな不機嫌な様子の達実をおどおどと見遣りながら、コホンと軽く咳払いをして、コンシェルジュが遠慮がちに声を掛ける。
「結城様、到着いたしました――どうぞ」
「……うん」
達実は小さく返事をして、開いたエレベーターから一歩踏み出した。
◇
コンコンとノックの音の後に、『お客様をお連れしました』と扉の向こうから声が発せられた。
采は一つ息をつくと「どうぞ」と、返答する。
すると、ガチャリと扉が開いた。
そこには、恭しく頭を下げたコンシェルジュと、険しい表情で仁王立ちする達実がいた。
一昨日別れたばかりなのに、その美しさには息が止まりそうだ。
真紅の薔薇の棘に突き刺されたような気分になり、采は思わず苦痛を堪えるような表情になる。
(くそ! こいつは本当に――ツラだけは良過ぎなんだよっ)
長いまつげも、柔らかそうな頬も、ピンク色の唇も、采の眼には全てがキラキラと輝いて見える。
達実がオメガだったら納得するのだが、彼は自分と同じアルファだというのに――――それなのに、どうしてこんなに魅力的に見えるのだろうか?
(まったく、サギみたいなもんだよな……)
言葉が詰まらないように気を付けながら、采は口を開いた。
「――よく来たな」
とりあえず、そう声を掛けたところ、
「くせぇ」
と、吐き捨てられた。
次に、達実は形のいい鼻を指でつまんで、不快そうな表情を浮かべる。
「嫌な臭いがプンプンする。ここは最悪だな」
「嫌な臭い、だと? 」
采はその指摘に首を傾げ、達実の背後に控えているコンシェルジュに視線を向ける。
「君は、何か感じるか? 」
「え……い、いいえ。申し訳ございません、私には分かりません。気になるようでしたら、クリーニングをお呼び致しましょうか? 」
「いや――――オレも不快なにおいなど感じない。達実、お前、言い掛かりも――」
いい加減にしろよと言いかけたところ、達実の方が先に口火を切った。
「ここ、オメガのフェロモンの臭いがする。この残り香……やっぱり、エントランスで会ったヤツと同じだ」
達実の指摘に、采とコンシェルジュは『ああ』と納得した。
「そうか、あいつと下で会ったのか」
あいつという采の親し気な言い方に、達実の眦がピクリと反応する。
だがそれに気付かず、采は呑気に口を開いた。
「たった今、帰ったところだったからな――――しかし、よく残り香なんて分かったな? 」
「そこらじゅうプンプンしているじゃないか。気付かない方がどうかしているよ」
フンっと不愉快そうに鼻を鳴らすと、達実は『窓を開けて空気の入れ替えをしたい』と言い出した。
0
あなたにおすすめの小説
バイト先に元カレがいるんだが、どうすりゃいい?
cheeery
BL
サークルに一人暮らしと、完璧なキャンパスライフが始まった俺……広瀬 陽(ひろせ あき)
ひとつ問題があるとすれば金欠であるということだけ。
「そうだ、バイトをしよう!」
一人暮らしをしている近くのカフェでバイトをすることが決まり、初めてのバイトの日。
教育係として現れたのは……なんと高二の冬に俺を振った元カレ、三上 隼人(みかみ はやと)だった!
なんで元カレがここにいるんだよ!
俺の気持ちを弄んでフッた最低な元カレだったのに……。
「あんまり隙見せない方がいいよ。遠慮なくつけこむから」
「ねぇ、今どっちにドキドキしてる?」
なんか、俺……ずっと心臓が落ち着かねぇ!
もう一度期待したら、また傷つく?
あの時、俺たちが別れた本当の理由は──?
「そろそろ我慢の限界かも」
かわいい美形の後輩が、俺にだけメロい
日向汐
BL
過保護なかわいい系美形の後輩。
たまに見せる甘い言動が受けの心を揺する♡
そんなお話。
【攻め】
雨宮千冬(あめみや・ちふゆ)
大学1年。法学部。
淡いピンク髪、甘い顔立ちの砂糖系イケメン。
甘く切ないラブソングが人気の、歌い手「フユ」として匿名活動中。
【受け】
睦月伊織(むつき・いおり)
大学2年。工学部。
黒髪黒目の平凡大学生。ぶっきらぼうな口調と態度で、ちょっとずぼら。恋愛は初心。
ずっと好きだった幼馴染の結婚式に出席する話
子犬一 はぁて
BL
幼馴染の君は、7歳のとき
「大人になったら結婚してね」と僕に言って笑った。
そして──今日、君は僕じゃない別の人と結婚する。
背の低い、寝る時は親指しゃぶりが癖だった君は、いつの間にか皆に好かれて、彼女もできた。
結婚式で花束を渡す時に胸が痛いんだ。
「こいつ、幼馴染なんだ。センスいいだろ?」
誇らしげに笑う君と、その隣で微笑む綺麗な奥さん。
叶わない恋だってわかってる。
それでも、氷砂糖みたいに君との甘い思い出を、僕だけの宝箱にしまって生きていく。
君の幸せを願うことだけが、僕にできる最後の恋だから。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。
僕の恋人は、超イケメン!!
刃
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?
【完結】アイドルは親友への片思いを卒業し、イケメン俳優に溺愛され本当の笑顔になる <TOMARIGIシリーズ>
はなたろう
BL
TOMARIGIシリーズ②
人気アイドル、片倉理久は、同じグループの伊勢に片思いしている。高校生の頃に事務所に入所してからずっと、2人で切磋琢磨し念願のデビュー。苦楽を共にしたが、いつしか友情以上になっていった。
そんな伊勢は、マネージャーの湊とラブラブで、幸せを喜んであげたいが複雑で苦しい毎日。
そんなとき、俳優の桐生が現れる。飄々とした桐生の存在に戸惑いながらも、片倉は次第に彼の魅力に引き寄せられていく。
友情と恋心の狭間で揺れる心――片倉は新しい関係に踏み出せるのか。
人気アイドル<TOMARIGI>シリーズ新章、開幕!
運命の息吹
梅川 ノン
BL
ルシアは、国王とオメガの番の間に生まれるが、オメガのため王子とは認められず、密やかに育つ。
美しく育ったルシアは、父王亡きあと国王になった兄王の番になる。
兄王に溺愛されたルシアは、兄王の庇護のもと穏やかに暮らしていたが、運命のアルファと出会う。
ルシアの運命のアルファとは……。
西洋の中世を想定とした、オメガバースですが、かなりの独自視点、想定が入ります。あくまでも私独自の創作オメガバースと思ってください。楽しんでいただければ幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる