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Liar and liar
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(僕は、皆から敬遠されて嫌われるタイプだってのはよく分かったよ。――――采だって、いつも僕の事を目の敵にして突っ掛かって来るし。他の家の兄弟は、歳が離れていても仲がいいってのにさ! 僕たちは顔を合わせる度にケンカばっかりだ)
もしや、それはやはり自分に原因があるのだろうか?
自分は、とにかく人に嫌われるので、今までの事を鑑みると全てこっちが悪かったように思えてくる。
しかしそれならば何故、采はキスをしてきたのだろう?
結局は、そこに行き当たる。
普通は、嫌いな相手にはキスなどしない筈だ。
では、采は達実の事が好きなんだろうか?
(なんか、采の事を考えると本当に頭がグチャグチャになるんだよな。あいつ、僕のことが嫌いなのか好きなのか――――男だったら、ハッキリしろってんだ! )
考え出すと、イライラが止まらずむしゃくしゃする!
達実は先程のオメガの一件も思い出し、チッと舌打ちをした。
そんな不機嫌な様子の達実をおどおどと見遣りながら、コホンと軽く咳払いをして、コンシェルジュが遠慮がちに声を掛ける。
「結城様、到着いたしました――どうぞ」
「……うん」
達実は小さく返事をして、開いたエレベーターから一歩踏み出した。
◇
コンコンとノックの音の後に、『お客様をお連れしました』と扉の向こうから声が発せられた。
采は一つ息をつくと「どうぞ」と、返答する。
すると、ガチャリと扉が開いた。
そこには、恭しく頭を下げたコンシェルジュと、険しい表情で仁王立ちする達実がいた。
一昨日別れたばかりなのに、その美しさには息が止まりそうだ。
真紅の薔薇の棘に突き刺されたような気分になり、采は思わず苦痛を堪えるような表情になる。
(くそ! こいつは本当に――ツラだけは良過ぎなんだよっ)
長いまつげも、柔らかそうな頬も、ピンク色の唇も、采の眼には全てがキラキラと輝いて見える。
達実がオメガだったら納得するのだが、彼は自分と同じアルファだというのに――――それなのに、どうしてこんなに魅力的に見えるのだろうか?
(まったく、サギみたいなもんだよな……)
言葉が詰まらないように気を付けながら、采は口を開いた。
「――よく来たな」
とりあえず、そう声を掛けたところ、
「くせぇ」
と、吐き捨てられた。
次に、達実は形のいい鼻を指でつまんで、不快そうな表情を浮かべる。
「嫌な臭いがプンプンする。ここは最悪だな」
「嫌な臭い、だと? 」
采はその指摘に首を傾げ、達実の背後に控えているコンシェルジュに視線を向ける。
「君は、何か感じるか? 」
「え……い、いいえ。申し訳ございません、私には分かりません。気になるようでしたら、クリーニングをお呼び致しましょうか? 」
「いや――――オレも不快なにおいなど感じない。達実、お前、言い掛かりも――」
いい加減にしろよと言いかけたところ、達実の方が先に口火を切った。
「ここ、オメガのフェロモンの臭いがする。この残り香……やっぱり、エントランスで会ったヤツと同じだ」
達実の指摘に、采とコンシェルジュは『ああ』と納得した。
「そうか、あいつと下で会ったのか」
あいつという采の親し気な言い方に、達実の眦がピクリと反応する。
だがそれに気付かず、采は呑気に口を開いた。
「たった今、帰ったところだったからな――――しかし、よく残り香なんて分かったな? 」
「そこらじゅうプンプンしているじゃないか。気付かない方がどうかしているよ」
フンっと不愉快そうに鼻を鳴らすと、達実は『窓を開けて空気の入れ替えをしたい』と言い出した。
もしや、それはやはり自分に原因があるのだろうか?
自分は、とにかく人に嫌われるので、今までの事を鑑みると全てこっちが悪かったように思えてくる。
しかしそれならば何故、采はキスをしてきたのだろう?
結局は、そこに行き当たる。
普通は、嫌いな相手にはキスなどしない筈だ。
では、采は達実の事が好きなんだろうか?
(なんか、采の事を考えると本当に頭がグチャグチャになるんだよな。あいつ、僕のことが嫌いなのか好きなのか――――男だったら、ハッキリしろってんだ! )
考え出すと、イライラが止まらずむしゃくしゃする!
達実は先程のオメガの一件も思い出し、チッと舌打ちをした。
そんな不機嫌な様子の達実をおどおどと見遣りながら、コホンと軽く咳払いをして、コンシェルジュが遠慮がちに声を掛ける。
「結城様、到着いたしました――どうぞ」
「……うん」
達実は小さく返事をして、開いたエレベーターから一歩踏み出した。
◇
コンコンとノックの音の後に、『お客様をお連れしました』と扉の向こうから声が発せられた。
采は一つ息をつくと「どうぞ」と、返答する。
すると、ガチャリと扉が開いた。
そこには、恭しく頭を下げたコンシェルジュと、険しい表情で仁王立ちする達実がいた。
一昨日別れたばかりなのに、その美しさには息が止まりそうだ。
真紅の薔薇の棘に突き刺されたような気分になり、采は思わず苦痛を堪えるような表情になる。
(くそ! こいつは本当に――ツラだけは良過ぎなんだよっ)
長いまつげも、柔らかそうな頬も、ピンク色の唇も、采の眼には全てがキラキラと輝いて見える。
達実がオメガだったら納得するのだが、彼は自分と同じアルファだというのに――――それなのに、どうしてこんなに魅力的に見えるのだろうか?
(まったく、サギみたいなもんだよな……)
言葉が詰まらないように気を付けながら、采は口を開いた。
「――よく来たな」
とりあえず、そう声を掛けたところ、
「くせぇ」
と、吐き捨てられた。
次に、達実は形のいい鼻を指でつまんで、不快そうな表情を浮かべる。
「嫌な臭いがプンプンする。ここは最悪だな」
「嫌な臭い、だと? 」
采はその指摘に首を傾げ、達実の背後に控えているコンシェルジュに視線を向ける。
「君は、何か感じるか? 」
「え……い、いいえ。申し訳ございません、私には分かりません。気になるようでしたら、クリーニングをお呼び致しましょうか? 」
「いや――――オレも不快なにおいなど感じない。達実、お前、言い掛かりも――」
いい加減にしろよと言いかけたところ、達実の方が先に口火を切った。
「ここ、オメガのフェロモンの臭いがする。この残り香……やっぱり、エントランスで会ったヤツと同じだ」
達実の指摘に、采とコンシェルジュは『ああ』と納得した。
「そうか、あいつと下で会ったのか」
あいつという采の親し気な言い方に、達実の眦がピクリと反応する。
だがそれに気付かず、采は呑気に口を開いた。
「たった今、帰ったところだったからな――――しかし、よく残り香なんて分かったな? 」
「そこらじゅうプンプンしているじゃないか。気付かない方がどうかしているよ」
フンっと不愉快そうに鼻を鳴らすと、達実は『窓を開けて空気の入れ替えをしたい』と言い出した。
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