ワガママで意地悪で、どうしようもなく純愛。

亜衣藍

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「さて……どうするかな」

 アレンは、去って行く采を引き留めようかと少し思案するが、結局それは中止することにした。

 采は、アレンの前では紳士の仮面をキープしようとしていたが、相当怒り心頭だというのは見ていて直ぐに分かった。

 これ以上は、あまり逆上させるのもマズかろう。

 何といっても、憎い恋敵ではあるが――――采は、達実の義兄だ。

 下手に関係を悪くするのは得策ではない。

「タツミ……どうやら、可哀想な事に君の片思いらしいね。ふふふ、まだ私にもチャンスがあるということか」

 アレンの見たところ、あの采という男は何だかんだ言って達実を好ましく思ってはいるが、それは『兄弟』だから、そう想うのだという呪縛に囚われているようだ。


 愚かな事だ。


 あれ程に、美しく麗しい大輪の薔薇を前にして、そんなくだらない常識に雁字搦がんじがらめになっているとは。

 己の心と欲望に忠実になれば、すぐにでも、二つとない得難いビーナス達実を手に入れることが可能なのに。

 まったく、何というバカな男だ。

――――だが、わざわざライバルを煽るようなことは、言うべきではないだろう。

 自分の中の『常識』に潰されて、達実を手に入れる機会を見失えばいいのだ。

 そう、未来永劫に。

「ならば――……君に、ここは頑張ってもらうとするかな」

 そう呟くと、アレンはソファーから身を起こし、ゲスト用の隣室のドアを開けた。

 するとそこには、後ろ手に縛り上げられ、口にはボールギャグを嵌められた青年が転がっていた。

「うぅ――! 」

「ハハハ、すまなかったね。そんなに睨まないでくれ」

 笑いながらそう言うと、アレンは青年の口枷を外す。

 だがそれと同時に、青年はアレンの手に噛み付こうとしてきた。

「おっと! 」

 寸前で躱して、またアレンは笑う。

「ハハ、もう君は自由にするから、怒らないでくれよ。ああ、ほら……手も足も、全部外すから」

 言葉の通り、アレンは青年の拘束を解いた。

 しかし、長い時間自由を奪われていた身体には軋むような痛みが残っているのか、青年は顔をしかめながら恨めし気にアレンを睨み付ける。

「お前、オレをどうする気だ!? 」

「どう――とは? 」

「ちゃんと白状したじゃないか。今回の騒ぎはオレが勝手にしゃしゃり出て、あのアルファを逃がしたんだって。采は、オレのした事に直接は係わってないってさ! 」

 そう言うと、青年はその可愛らしい外見を裏切るように、剣呑な眼差しでアレンを見据える。

 青年の名前は、立野林檎。

 そう、達実を救出するのに一役買った、あのオメガである。

 彼は健気にも愛人である九条采を庇って、今回の騒ぎは全て自分一人で行ったとずっと言い張っているのだ。

「全部オレがやったんだ! 警察にでも何でも突き出せばいいだろう! 」

「――――アレン様、警察への通報は止めておりますが……このオメガ、如何なさるおつもりですか? 」

 すると、それまでずっと壁の一部のように控えていた従者が、そう訊ねてきた。

「今回の、この有り得ない暴挙。アレン様付きの従者として長年仕えてきた身としては、決して見過ごす訳にはまいりません。こいつに、他にも仲間がいるのは間違いないですし、警察に渡すか私の手で尋問するか……場合によっては、こちらで直接制裁を下すというのも提案しますが」

「おいおい、そんな物騒な事は言わないでくれ」

 アレンは鷹揚おうように首を振る。

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