ワガママで意地悪で、どうしようもなく純愛。

亜衣藍

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Love passion

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 達実は、これからどうしようか考えていた。

 元々日本へ来たのは、義父である九条凛の四十九日法要と、遺産手続きの為である。

 采が電話で言っていた最初の話では、二日ほどで全てが終わるという事だった。

 なので、大学の初めての休暇をアメリカで過ごすという計画は延期して、そして母親を北欧に一人残すことに後ろ髪を引かれながらも、達実は遠路はるばる日本へ来たのである。

 しかし実際来てみれば、煩雑な手続きは二日どころで終わる話ではなかった。

……結果、やれ騙されただの嘘つきだのと悪態をつく事態になり、采と大いにモメたのだ。


 今でも、一刻も早く北欧へ戻って、奏の身を守りたいと思う。


 何といっても、奏は四十路にはとても見えない程に若々しく、ものすごく可愛いのだ。

 達実が知る中で(自分の母親という事実を抜きにしても)最も愛らしく可憐なオメガである。

 男であれば、アルファもベータも、誰もが奏に惹かれると思う。

 華奢な手足に、小さな顔。細い首も人形のようだし、身体もフワフワとして柔らかい。

 見ているだけで、じつに心が癒される。

 奏は、達実の理想とする愛らしいオメガだ。

 そんな奏を狙う男は多く、その厄介な男共の存在を思い出すだけで、達実はキリキリと胃が痛む。

 奏のガードをしている達実がいないとなれば、これ幸いと、男共が奏に近寄って来るのは目に見えている。

 ならば、すぐに北欧へ帰らなければ!

 しかし――――ここにきて達実は、迷っていた。

 ここで日本を立ったら……もう二度と、采は自分と会ってはくれないかもしれない。

 長年心の奥で燻っていた感情を、達実は『恋情』だと認識した。

 だから達実は、迷うことなく告白して采に迫ったのだ。

「……でも、僕は――――奏みたいに可愛くない……」

 奏のように華奢でもないし、乙女のように儚げで可憐でも断じて無い。

 身長は180cmあるし、筋肉もそれなりに付いているので、可愛いとはお世辞にも言えないだろう。

 まぁ、縦にも横にも達実の上を行く体格のアレンから見れば『可愛い』のかもしれないが……しかし、そんな意見は少数だろう。

 美しいとは誰もが言うが、可愛いなんて――――アレンからしか言われたことはない。

(あのムカつくオメガの……タテだかヨコだかいうヤツの方が、悔しいけど、僕よりよっぽど華奢で可愛い)

 采も、ああいったタイプがきっと好きなんだろう。

 そう思うと、達実は悲しくなってきた。

 鏡に映る自分の姿を眺めながら、深い溜め息をつく。

 首回りも肩幅も、胸板も身長も――――お世辞にも達実は華奢とはいえない。

 アルファらしい、とてもスッキリと堂々とした体躯だ。

 達実は、その己の姿を見遣りながら、恨めし気に唸った。

「……僕はオメガとは全然違う。やっぱり、アルファなんだ。でも……僕は、采の事が好きだ――」

 この苦しい恋心を、どうすればいいのだろう?

 いっそのこと、自分の方から采を抱けばいいのだろうか?

――――でも、これだけはハッキリしている。

 達実は……采に抱かれたいのだ。

 采の、熱い命の塊を我が身に受け入れて、幸せを感じて満ち足りたいのだ。

「どうしよう、母さん……」

 頬を染め、瞳を潤ませながら呟く達実を――――もしも奏が見たならば、在りし日の、七海達樹と重ねただろう。

 達実は、今は亡き実父である、七海達樹とよく似ていた。

 その心根も、清純ピュアなところも、己の信念に忠実なところも。

 だから達実は――――七海と同じ答えを導き出していた。

「母さん――誰が何と言おうと、僕は自分の心に従う事にするよ。采は、常識だとか普通とか、そんな事にばかりこだわるけど……そんな物には何の価値もないんだって、僕があいつの目を覚まさせてやる」
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