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All for lovers
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二人で見つめ合っていると、ゴホンと軽い咳払いが聞こえた。
アレンと林檎が、やれやれと言った様子で少し離れた場所からこちらを見ている。
不意に正気に戻り、采と達実はパッと身体を離して立ち上がった。
「あ……その、アレン……」
「……良かったね、タツミ。君の想いがやっと通じたようだ」
アレンはそう言うと、羞恥心で真っ赤になる達実に向かって、パチンと音が鳴るようなウィンクをした。
「君は最高にキュートだ。私の親友であり、永遠のビーナスだよ」
「――――ごめん、アレン……君の気持ちは嬉しいけど……」
このコテージに移ってからずっと、アレンは達実のことを本当に大切な宝物のように、真綿で包むように優しく愛した。
絶えず情熱的な詩を捧げ、小鳥のようなキスを頬や首筋に落としてきた。
そうして、アレンは二度と無理強いはしないと言って、その言葉の通りに辛抱強く達実の返事を待ってくれていた。
…………好意を寄せられることは、素直に嬉しい。
でも、達実の中で答えは既に出ている。
――――達実は、やっぱり采を愛している。
達実よりずっと年上のクセに、子供のような感情をぶつけてくる純粋な彼を。
「僕は……アレンじゃなくて采が好きなんだ。僕と同じアルファだし、義理とはいえ兄弟だし、こんなの間違っているかもしれないけど」
すると、アレンは少し寂しさを滲ませた眼差しで達実を見つめた。
「間違ってはいないさ。我々アルファは、自分を信じて行動を起こすのが本能として生来備わっているんだ。なにせアルファは『支配者』の血族だ。誰のレールにも従わないこそが正常だろう」
「アレン……」
「君が自分の意思を曲げて、この私を受け入れるかどうかを真剣に悩んでいたのは知っている。私は君の優しさにつけ込んで、言葉巧みに君の心と体を手繰り寄せようとしていた……だが、本来は弱者である筈のオメガの彼が取った行動に、目を覚ましたよ」
そう言うとアレンは、いつの間にか部屋の隅へと移動して、その場を後にしようとしていた林檎を見遣った。
「彼は、自分に用意された『番』の座よりも、愛する者の幸せを優先するそうだ。大した純愛じゃないか」
アレンのセリフに、林檎はバッと振り返る。
「誰が純愛だ! 寒いこと言ってんじゃないよ! 」
「ハハハハ! ……オメガと言えば、どいつもこいつもプンプンと匂いを撒き散らして『番』の座を狙い、股を濡らして擦り寄って来る色ボケで下品な連中だと思っていたが、そんな事を考えていた私の方が――――よっぽど最低の下衆野郎だったようだ」
自嘲気に呟くと、アレンは今度は朗らかに笑った。
「私もリンゴを見習って、愛する者の幸せを後押しする事にしたよ。このコテージは、これから丸一日君たちに進呈しようじゃないか」
「えっ!? 」
「私たちは対岸に借りた、もう一棟のコテージの方へ移動するよ。ここにあるアイテムはすべて自由に使ってくれて構わない。では、また明日」
アレンはそう言うと林檎に目配せをして、戸惑う侍従やSPもコテージから引き連れ、待機させていた車へ分乗してその場を颯爽と退出した。
そうして、この広いコテージには、本当に達実と采だけが残される。
いや、正確には、采が連れてきた弁護士も一緒にだが。
――――だが、しかし。
「采さま……あの、私は急用が入りましたので、申し訳ありませんがこれで失礼します」
「な、なに? 」
「勝手ではありますが、只今タクシーを手配致しました。私は一度、事務所の方へ戻らせて頂きます。後程、改めてご連絡致しますので……それでは」
そう言うと、そそくさと弁護士も下がって行った。
さすがにこれは、采にも分かる。
皆が、気を利かしたのだと。
「あいつら……」
天を仰ぐ采に向かい、達実は戸惑ったような声音で囁いてきた。
「ねぇ、采……これから僕たち、どうしよう? 皆いなくなっちゃったよ」
アレンと林檎が、やれやれと言った様子で少し離れた場所からこちらを見ている。
不意に正気に戻り、采と達実はパッと身体を離して立ち上がった。
「あ……その、アレン……」
「……良かったね、タツミ。君の想いがやっと通じたようだ」
アレンはそう言うと、羞恥心で真っ赤になる達実に向かって、パチンと音が鳴るようなウィンクをした。
「君は最高にキュートだ。私の親友であり、永遠のビーナスだよ」
「――――ごめん、アレン……君の気持ちは嬉しいけど……」
このコテージに移ってからずっと、アレンは達実のことを本当に大切な宝物のように、真綿で包むように優しく愛した。
絶えず情熱的な詩を捧げ、小鳥のようなキスを頬や首筋に落としてきた。
そうして、アレンは二度と無理強いはしないと言って、その言葉の通りに辛抱強く達実の返事を待ってくれていた。
…………好意を寄せられることは、素直に嬉しい。
でも、達実の中で答えは既に出ている。
――――達実は、やっぱり采を愛している。
達実よりずっと年上のクセに、子供のような感情をぶつけてくる純粋な彼を。
「僕は……アレンじゃなくて采が好きなんだ。僕と同じアルファだし、義理とはいえ兄弟だし、こんなの間違っているかもしれないけど」
すると、アレンは少し寂しさを滲ませた眼差しで達実を見つめた。
「間違ってはいないさ。我々アルファは、自分を信じて行動を起こすのが本能として生来備わっているんだ。なにせアルファは『支配者』の血族だ。誰のレールにも従わないこそが正常だろう」
「アレン……」
「君が自分の意思を曲げて、この私を受け入れるかどうかを真剣に悩んでいたのは知っている。私は君の優しさにつけ込んで、言葉巧みに君の心と体を手繰り寄せようとしていた……だが、本来は弱者である筈のオメガの彼が取った行動に、目を覚ましたよ」
そう言うとアレンは、いつの間にか部屋の隅へと移動して、その場を後にしようとしていた林檎を見遣った。
「彼は、自分に用意された『番』の座よりも、愛する者の幸せを優先するそうだ。大した純愛じゃないか」
アレンのセリフに、林檎はバッと振り返る。
「誰が純愛だ! 寒いこと言ってんじゃないよ! 」
「ハハハハ! ……オメガと言えば、どいつもこいつもプンプンと匂いを撒き散らして『番』の座を狙い、股を濡らして擦り寄って来る色ボケで下品な連中だと思っていたが、そんな事を考えていた私の方が――――よっぽど最低の下衆野郎だったようだ」
自嘲気に呟くと、アレンは今度は朗らかに笑った。
「私もリンゴを見習って、愛する者の幸せを後押しする事にしたよ。このコテージは、これから丸一日君たちに進呈しようじゃないか」
「えっ!? 」
「私たちは対岸に借りた、もう一棟のコテージの方へ移動するよ。ここにあるアイテムはすべて自由に使ってくれて構わない。では、また明日」
アレンはそう言うと林檎に目配せをして、戸惑う侍従やSPもコテージから引き連れ、待機させていた車へ分乗してその場を颯爽と退出した。
そうして、この広いコテージには、本当に達実と采だけが残される。
いや、正確には、采が連れてきた弁護士も一緒にだが。
――――だが、しかし。
「采さま……あの、私は急用が入りましたので、申し訳ありませんがこれで失礼します」
「な、なに? 」
「勝手ではありますが、只今タクシーを手配致しました。私は一度、事務所の方へ戻らせて頂きます。後程、改めてご連絡致しますので……それでは」
そう言うと、そそくさと弁護士も下がって行った。
さすがにこれは、采にも分かる。
皆が、気を利かしたのだと。
「あいつら……」
天を仰ぐ采に向かい、達実は戸惑ったような声音で囁いてきた。
「ねぇ、采……これから僕たち、どうしよう? 皆いなくなっちゃったよ」
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