ヒネクレモノ

亜衣藍

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「巨乳はともかく、初絡みの相手がバラエティに不慣れというのは緊張するな」

 愚痴を言う美央に、明も困惑を返す。

 彼らは、今日収録の『深夜のゴーパラ歌広場♪』という番組の台本を眺めながら、互いに不満そうであった。

 彼等Triangleは、この番組のMC役を担当している。

 本音を言えば、どうせ共演するなら、同年代の別のアイドルの方がイジりやすいしアドリブも利く。気心が知れている分、リラックスしてのびのび楽しめるだろう。

 それなのに、相手は、バラエティ初出演で肩が凝りそうな初対面のアラサーだ。

 深夜番組だから、そんなに四角四面に振る舞わなくてもよさそうだが、こういう中途半端にキャリアのある人物とは、実際どう絡んだらいいのかMCとしては悩むところだ。

 少し考えながら、リーダーの明は口を開いた。

「でも、畠山ユウは一応は紅白歌手だ。正直言ってちょっと昔のスターとはいえ、ネームバリューはバッチリだろう。美央は嫌がっているようだが、今回共演予定だった巨乳アイドルよりは、畠山ユウの方が格は上だ」

「だから、せいぜい敬えって?」

 明の説教にうんざり顔の美央であるが、この時、それまで無言だった零が発言した。

「……ユウさんは、確かに最近はヒット曲に恵まれて無いけど、デビュー曲の『ユキヒトヒラ』は知らない人はいない名曲だよ。美央も明も、あの歌は知ってるだろう? 間違いなく実力あるシンガーなんだから、こっちもリスペクトして対応するのが筋じゃないかな」

 不意に放たれた零の真面目コメントに、美央は脱力する。

「お前……見た目100%外人のクセに、なんでそんな固いかなぁ。大体『ユキヒトヒラ』がヒットした時って、オレらが何歳の時だよ?」

 これを無視して、零はパラパラと台本を捲る。

「……筋書きでは、前半のクイズで、このユウさんはオレらにジェネレーションギャップで負けちゃって、ヒット曲『ユキヒトヒラ』のサビの部分だけ歌って笑いながら退場という流れらしいけど……ここ、ちゃんと皆でフォローしよう!」

「ふ~ん……クイズって?」

 美央の問いに、明が失笑しながら答える。

「今の高校生に流行っている、言葉当てクイズだ」

「なるほど、ありそう」

「しかし、一応芸能人だし、いくらアラサーでもそれくらいは知っていそうな気がするが」

 首をひねる明に、美央は笑って口を開く。

「だから、そこは仕込みってことでしょ」

「……大変だな、先輩は」

「畠山ユウって、そりゃあ未だにネームバリューはあるだろうけどさ。でも、はっきり言ってかなり落ち目じゃん。もしかしたら七虹プロからリストラされるかもしれないって、けっこう噂になっているし。皆も知ってるだろ?」

「おいおい、美央――」

「だからテコ入れのために、七虹プロが頑張ってゴーパラに捩じ込んできたんじゃないのぉ? オレたち若いアイドルと共演させて、これを機に日の目を見せようとか」
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