ヒネクレモノ

亜衣藍

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 あの芸能事務所は、そもそもが地回りが興した会社であったと。

「じゃあ、岸本さんから見て、ユウさんがジュピタープロに移籍したのは吉なの凶なの?」

「う~ん……難しいね。畠山ユウはバンドを組んでいるわけじゃないし……正直、董が立ったソロの歌手は事務所側としてはお荷物だ。これまで露出が少なかったせいで、新規のファンも全然育っていない。彼のようなタレントは、七虹プロから見切りを付けられても僕は驚かないよ。あんな歌手、扱いづらい事この上ない。それなのに、ジュピター側から声が掛かったという話を聞いた時は意外に思ったよ」

 きちんとマネージャーまで付けて、スケジュールの面倒まで見るとは。
 かなり異例な、破格の厚待遇だ。

「もしかしたら……やっぱり、あの噂は本当だったのかな……」

 岸本は何事か思案した様子で、フフッと笑った。
 それに、どこか嫌らしいニュアンスを感じ取り、零は険しい顔のまま岸本を睨みつける。

「何ですか、噂って?」
「う~ん……零はお子様だからな~こういう話はまだ早いんじゃないかな」
「バカにしないでよ、岸本さん! オレは五歳からこの業界にいるんだぜ。とっくに童貞も卒業しているし。同じ十六歳のガキと一緒にするなっ」

 零は、憮然として言った。
 岸本は「まぁ、確かにそうだね」と頷き返す。
 岸本は零の耳に顔を近づけると「これは公然の秘密みたいなモンだけど……」と続けた。

「御堂社長は、かなり前から畠山ユウにご執心だって噂されていたんだ。畠山が上京した当時から、何度もパトロンを申し出ていたって。今までは、畠山ユウの方が頑としてそれを拒否していたワケだけど」

 続けて、岸本は自分なりの考えを口にする。

「やっぱり、御堂社長はヤバめの人だし、そうそう簡単に借りを作ったら後が怖かったんだろうね。だから、畠山ユウは殆ど業界を干された状態だったのに、ギリギリまで御堂社長とは距離を取っていたんだろうと、僕は思うよ」

 零は無言だ。
 それはかなり当たっている気がする。
 何故なら、零もそれを疑っているからだ。
 その心中を知ってか知らずか、岸本は続けた。

「しかし、今回の騒ぎだ。七虹プロから切られた畠山ユウと、新規に契約しようなんて物好きな事務所なんて何処にもいない。だいたい扱いづらいんだよ、ああいう生粋の歌手ってのはさ」

 昭和ならいざ知らず、あのスタンスでは今の世の中じゃあせいぜいお高くとまっているとしか受け取られない。
 幾らミリオン歌手とはいえ、業界の見る目は厳しい。
 将来性があるかどうかという点では、ユウは若くしてスターになった分、今はもうさほど新鮮味は無いと、誰の目にも映っていた。

「畠山ユウの希望する条件通りの移籍先なんか、現れるワケがない。それで、さすがの孤高の歌手畠山ユウも、とうとう観念して御堂社長に縋りついたんだろう」
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