ヒネクレモノ

亜衣藍

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「い、いた……!」

 悲痛な声が上がる。
 それはそうだろう、そこは乾いていた。いきなり異物を受け入れるのは無理だ。
 舌打ちをして、零は辺りを見渡す。
 キッチンのキャビネットにオリーブオイルがあるのを見つけ、零は上体を起こした。
 この隙に、ユウは全力で抗い、上体を拘束された不自由な体のまま床を這って、玄関へ向かおうとする。
 だが、オイルを手にして戻る零の方が早かった。

「逃がしませんよ」
「ヒッ!」

 再びユウを押さえ込み、仰向けの体勢にすると、暴れるその足の狭間へ自分の膝を入れ、手にしたオイルの栓を開けた。
 それは重力に従い、ユウの股間へと流れ落ちる。

「冷たっ! き、気持ち悪い――」

 引き攣った声が上がる。
 ユウは鳥肌を立てて、苦鳴を漏らした。

「い……いやだぁぁぁぁ!」
「……仕方ないでしょう? こうでもしないと、ケガをするのはユウさんの方ですよ」

 零は冷たく言うと、オイルの滑りを借りて、深々と指を一本突き入れた。

「っ!」

 衝撃に、ユウの体が仰け反る。
 構わず、零は突き入れた指を、深く抉るように動かす。

「あ、あ、あ……ぁ」

 ユウの見開いた眼は、何も映していない。
 過ぎる衝撃に、彼は意識を保てない。

「や……」
「ユウさん――?」

 そして、零の方も次第に、ユウの反応に違和感を感じ始めていた。
 ユウの体は、本当に初心過ぎるのだ。

(ゲイの先輩と寝た時と、違い過ぎるような?)

 五歳から業界に在籍している零は、幼少時から大人に囲まれた環境で育った為、かなり早熟だった。
 初体験も、年上のモデルに誘われたのを切っ掛けにして、とうに済ましている。

 その中には男性もいたが、彼らは零の若さとテクニックに狂喜して、情熱を滾らせもっともっととせがんできた。
 このように、全身で拒否するように固まって動けない人を目の当たりにしたのは初めてだ。
 オイルを使って丁寧に解しているのに、その蕾は硬いままで、一向に花開かない。
 彼らと、ユウの反応はどこまでも全く違う。

 ただただ、蒼白のまま怯えて震えているだけだ。
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