ナラズモノ

亜衣藍

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 願いを叶えるために、この身体は捨てると。

(ユウ――今、元気でやっているか? )

 写真を眺めながら、聖は我が子の幸せを願う。

 この痛々しい首の傷は、治っただろうか?

 何度か、密かに使いをやって様子を確認させたが、いつも寂しそうにしながら一人で海を眺めていると聞いた。

 家族や親戚と一緒にいるのは見たことがない。

 笑っている様子もない。

 友達もいないようだ。

 いつも、一人ぼっちだ。

 そんな報告を聞くたびに、胸がキリキリと痛む。

 使いの者には、手紙や小遣いをユウへ渡すように持たせたが、ちゃんと受け取ってくれているだろうか?



 東京にはお前の父親がいて、いつもお前を想っているよと。



 直接会って、全部自分で確認したかったが、半ば、青菱本家の若頭に囲われつつあった聖には、それは叶わなかった。

 住まいは天黄組の顔を立て上野で許されたが、監視役を付けられ、正弘に会うにも理由を求められるようになった。

 監視役は、大学まで付いてくる始末だった。

 異様に嫉妬深い男で、聖が少しでも他に気を取られていると感づくと、数日間起き上がれないくらいに執拗に攻め立てられた。

 密かに、使いをどこかへ出していると知られた時も、死ぬのではないかというくらいに拷問まがいに犯された。

 これでは、ユウの存在など知られたら大変な事になる。

 頻繁に確認に向かわせていた使いの回数を減らし、リスクを考えて新しい写真は諦めた。

 今手元にある写真は、八年前に撮ったこの一枚きりだ。

 その、囲われ者から抜け出すのに五年が掛かった。

 正弘率いる天黄組が、再び頭角を現してくれたお陰である。

 だが――まだ、足りない。

 バブルは弾け、もう昔のように株や土地で儲けるのは不可能に近い。

 負債総額1152億円で、旅館・ホテルの倒産としては最大だった。

 七月には、百貨店大手そごうグループが民事再主法の適用を東京地裁に申請して、倒産している。

 ITバブルで、数年ぶりに景気は上向きに転じたと報道されているが、さてどこまで本当なんだか? 

 デイトレードを仕掛けたとしても、そもそも多額の元手が必要だったし、いたずらに手を出しても昔のように株価が跳ね上がるワケもなく低調だ。

 かつてのバブル期に、聖は100円の株を一千万株買い、一気に株価を吊り上げた事がある。データに引き寄せられた素人デイトレーダーが群がるように買い付け、聖は上手く利ザヤを稼いだものだ。

 だがもう、そう言った動きは市場に見られない。

 含み損など冗談ではないし、下手に塩漬けなど以ての外だ。

 仕方なしに、聖はデイトレードからはいったん手を引いている。

 しかし、カネは必要だ。

 力を振るうには、カネ無しではありえないのだから。


 だからこうして聖は持ち前の『色』を使って、資金源を獲得していた。


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