インチキで破廉恥で、途方もなく純情。

亜衣藍

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 失踪した奏が向かう場所は、青柳正嘉の元か大学かのどちらかだろうと、アテを付けた両親と馬淵によって、奏は直ぐに発見された。

――――よく覚えていないが、どうやら青柳の屋敷から少し離れた場所で、奏は首から血を流して倒れていたらしい。

 奏は、そのまま病院へと運ばれ――――その後、意識を取り戻して一度目を覚ました時に、奏と馬淵は契約を交わした。

 発情期の間だけ顔を合わせ、性交すると。


『発情期以外での性交は、オメガ男体は妊娠しません。無駄は省きましょう。あなたも当然、オメガ男体など嫌でしょうから――――それなら、気持ちの悪いバケモノ相手でも、何とか我慢できるのではないですか? 』

 そう言ったところ、馬淵は同意を返したのだ。

 この、オメガの男体というバケモノ相手でも、それなら我慢できると。


 もしもあそこで馬淵が「それは違う」と否定して、奏を番として妻に迎えたいと言っていたなら……少しは違う未来もあったかもしれないが。


 命に別状は無いと診断された奏であったが、それからひと月近くの間、彼は熱を出してうなされていた。

 泥に塗れ雨に打たれ、首の傷からはどうやら菌が入ってしまったらしい。

 高熱にうなされ苦しくて苦しくて――――でも、両親や兄弟、当然馬淵も……当たり前だが、正嘉も最後まで見舞いには来なかった。

 七海達、仲間のオメガだけが、頻繁に足を運んで様子を見に来てくれたので寂しくはなかったが……微かに期待していた人たちは、誰一人として訪れなかった。

 見舞いには来るなと、そう言い渡したのは奏本人であったが、でも、それでもつい期待してしまったのである。

 愚かだと思うが――――本当に馬鹿だったと思うが、少しだけ願ってしまった。

『ごめんよ。愛しているよ――奏』

 そう言いながら、病室の扉が開く事を。

 そして、奏は悟ったのである。

 もう二度と、人を愛すべきではないと。

 アルファやベータなど、二度と信じて期待してはならないと。


――――だから。


「――何を今さら、寝ぼけた事を言ってるんですか」

 冷たく、奏は返した。

「僕が言いたい事は一言だけです…………さようなら、馬淵さん。僕はあなたの事が嫌いでしたよ」

「っ! 」

「まさか、好かれていたとでも思ってたんですか? 」

 フンと嗤い、奏は言う。

「あなたも、散々仰っていたじゃないですか。オメガの男なんて本来なら抱きたくないと。全く、同意見ですよ。僕だって、ベータの男になんか抱かれたくなかった……! 」

 奏が夢見たのは、運命の番にして、魂の番。

 アルファの正嘉に抱かれる事である。

 そろそろ、正嘉は20歳になる頃だろう。

 5年前に会った時、すでに正嘉は奏よりも男らしく成長していた。

 身長も、今はとうに奏を追い越して立派な青年になっているだろう。

――――だが、その隣に、奏の場所はない。

 心が壊れそうな程に酷い言葉を正嘉から投げつけられ、実際に奏は絶望して、自ら命を絶とうとした。

 そして、残ったのは、この醜い傷痕だけだ。

 傷痕の残ってしまった奏に対しては、両親も馬淵も、労わりの言葉など一切なかった。

『痛かっただろう? 可哀そうに――』

 5年前にそう言って、抱き締められていたら…………これ程、心が凍る事はなかった。

 これ程、世の中に対して憎悪を滾らせることはなかっただろう。

 何度も何度も、期待してはその度に裏切られた。

 奏はもう、本当に、誰にも期待していない。

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