インチキで破廉恥で、途方もなく純情。

亜衣藍

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胸躍らせて来てみれば、相手は期待していた人物ではなく初対面のベータだ。

父母に騙され裏切られた……その事を知った奏は、Bホテルから逃げ出した。

そして着の身着のまま、恋焦がれている正嘉ヘと会いに行ったのだが、奏の純粋な想いは全く相手には通じなかったようだ。

かなり酷い事を言われて、追い払われたらしい。

運命と信じたアルファに拒絶された事が余程ショックだったのか、奏は、フォークで喉を裂いてしまった。

雨に打たれながら、歩道に蹲っている血まみれの奏を発見した時は、肝が冷えた。

命を取り留めたから良かったものの、もしもあのまま死んでいたらと思うと、本当に震えが走る。

意識を失い、病院のベッドで眠る奏を前にして、栄太は安堵の息をついたのだが――――その後が、悪かった。

奏本人を挟んで、その両親と栄太は、喧々諤々と声高に言い争ってしまったのである。

金の亡者のような相手に、倫理観を説いても何の意味もない。

奏を騙すように呼び出して、そのまま身柄を渡そうとするなど、親としての愛情は無いのかと当たり前のことを言ったところで――……。

そんな事、悪いとも思っていない相手には、どう説教しても馬耳東風だ。

だったら、相手にとって一番痛手であろう金の話を持ち出して、徹底的に懲らしめてやる!

――――そう考えてしまい、本当に栄太は金の話しかしなかった。

 それを無言のまま聞いていたらしき奏は、何かを諦め…………そして、何かを決意したようだった。

 喉が痛くて声を出せないとシーツに指で字を書き、凍り付いたような眼を栄太へ向けて来た。

 そして、奏は指を動かして字を綴ったのである。

『あなたは、僕の事を好きでないでしょう。ただ、優秀な子供が欲しいだけだ』

 凍り付いた目を向けて、まるで挑発するように書かれた文字。

 そしてつい、栄太は、売り言葉に買い言葉で言ってしまったのである。

「当たり前だ! 」

――――何度後悔しても、後悔し足りない。

 初めて会った時から――――なんと可憐で清らかな容姿なのだろうと、奏の事をとても気に入ったのに。



 一目惚れ、していたのに。



「すまなかった――――」

 深い、とても深い、心の底から言っているような真摯な謝罪の言葉だった。

 奏にも、さすがにこの言葉が嘘ではない事が伝わり、逆に困惑する。

 奏は今まで、こんなに真剣にベータから謝罪されたことはない。

 いつだったか、コンビニで襲われそうになった時も――――あの時のベータは、後日、警官に伴われて謝罪に訪れたが、あくまで形だけの謝罪しかしなかった。そして、ベータの警官も、今回は不起訴で処理する事になると一方的に言うだけだった。

 ましてや、アルファには――――一顧もされた事など、無い。



――――自分は、オメガの男体だ。



 だから、振り向いてはもらえないのか? 

 どんなに奏が恋い慕っても、思いは決して届かないのか?

 それならば――――この、目の前のベータの男の告白を受け入れるべきなのだろうか?

『望まれて結婚したほうが幸せ』

 オメガの女の子達が、そんな事を言っていたのを思い出す。

 こちら側が好きで交際を始めるよりも、相手側に望まれてから交際を始める方がずっと幸せになれると。

 それを耳にした時は、何だか駆け引きめいて嫌だなと思ったが。

 それは、本当なのかもしれない。

 少なくとも、このままずっと、正嘉に対する恋心を抱いた状態のままでいるよりも、馬淵栄太から差し出されている、この手を取った方が余程幸せになれるだろう。

 理屈抜きに、それは理解した。

 だって、栄太は本当に奏を愛しているらしい。

 気付かぬ振り、見えない振りをしていたが、いつの頃からか…………栄太が、奏に随分と優しくなったのは知っていた。

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