インチキで破廉恥で、途方もなく純情。

亜衣藍

文字の大きさ
49 / 240
18

18-2

しおりを挟む
 しかし、違うのだ。

 謝罪そのものが、全く伝わっていなかったのだ。

(ちゃんと――――これは、言葉にして伝えなかったオレのミスだ。あいつは、悪くない)

 つい、奏を恨んでしまいそうになる、自分の弱い心が許せない。

 その弱さから、つい、まどかにこぼしてしまった。

 奏は、全然悪くないのに。

 そして何やら、まどかは奏を強く糾弾したらしい――――全く、何て事だ!

 急いで追い付いて、今度こそちゃんと言葉にして、謝罪しなければ。

 栄太はアクセルを踏み、前々から聞いていた奏のアパートに向けて急ぐ。

 すると、その路上で――――歩道を歩く、奏の姿が目に入った。

 栄太は直ぐにウィンカーを出し、車を歩道へ寄せて停車させる。

 そして直ぐに窓を開け、声を掛けた。

「奏! 」

「っ!? 」

「話しを――――話を聞いてくれないかっ」

 必死になって、そう呼び止める。

 たった今、その栄太の事を考えていた奏は激しく動揺した。

(な、なんでここに!? 今までは、ホテルでしか会わなかったのに……)

 まさか、追いかけて来たのか?

 奏は声が震えるのを必死に堪えながら、口を開いた。

「ど、どうしたんです? こちらの方向に何か用でもあったんですか? 」

 半ば、答えを知っていながら、そう訊いてみた。

 すると、栄太は男らしい眉をギュッと寄せながら、押し殺したような声を漏らした。

「奏――――すまなかった。まどかは、オレの弱音を聞いて…………いや、これはただの言い訳だな。オレが悪かったから、お前もあいつも傷付けて――余計に引っ掻き回しちまった」

「あ、ああ、まどかさん……ね。お節介だけど、優しい幼馴染に恵まれて良かったですね。お互いベータなら、さぞや話が合うでしょう? いっその事、お二人でお付き合いしてはどうですか? 」

 内心の激しい動揺を誤魔化し、奏はそれだけ口にすると、パッと身を翻して先に進もうとする。

 しかし栄太は、停車した車から素早く飛び出ると、歩を進めようとする奏の腕を掴んだ。

「待ってくれ! 」

「な――なんですか? 」

「謝らせてくれ」

「……」
「最初の、初対面の時から――オレは、随分と尊大な態度を取って…………まるでお前達親子を恫喝するように接してしまった」

 5年前の、最悪だった第一印象。

――――確かに、とても嫌な感じしかしなかった。まるで奏が、ただの繁殖用に売買される人間であるかのような言い方に、ゾッとした。

 それを思い出し、奏の表情は曇る。

 栄太は、そんな奏の両肩へ手を置くと、そのまま深く頭を下げた。

「っ!? 」

「――――すまなかった。オレは馬淵の家で、力と金だけの世界で生きていたから、相手にナメられたら終わりだと徹底して叩き込まれていたんだ。そしてそのまま、まるで商売敵と渡り合う様に……お前の両親にも、お前本人にも接してしまった」

……アルファの婚約者に捨てられ、行き場をなくしたオメガだと聞いていた。

 そして、頭脳は優秀であるが……男体だと。

 そんな売れ残りのようなオメガを娶ってやるのだから、当然感謝されて然るべきだと勝手に栄太は思っていた。

 だが、このオメガは――――途方もなく純情だった。

 自分を捨てたアルファを未だに思い続け、いつか番う事を夢見て、幾度も手紙を書いては投函していたらしい。

 栄太は、そんな事実は聞かされていなかった。

 だから、待ち合わせのBホテルに奏が現われた時は、当然、馬淵家に輿入れする事を承諾しての事だと思っていた。

 しかし、奏は――――会食の相手は、馬淵栄太ではなく青柳正嘉だと信じ込んでいたらしい。



 それが、悲劇の元だった。



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

オメガの僕が、最後に恋をした騎士は冷酷すぎる

虹湖🌈
BL
死にたかった僕を、生かしたのは――あなたの声だった。 滅びかけた未来。 最後のオメガとして、僕=アキは研究施設に閉じ込められていた。 「資源」「道具」――そんな呼び方しかされず、生きる意味なんてないと思っていた。 けれど。 血にまみれたアルファ騎士・レオンが、僕の名前を呼んだ瞬間――世界が変わった。 冷酷すぎる彼に守られて、逃げて、傷ついて。 それでも、彼と一緒なら「生きたい」と思える。 終末世界で芽生える、究極のバディ愛×オメガバース。 命を懸けた恋が、絶望の世界に希望を灯す。

最強βの俺が偽装Ωになったら、フェロモン無効なのに狂犬王子に求愛されました~前世武道家なので物理で分からせます~

水凪しおん
BL
前世は日本の武道家、今世は平民β(ベータ)のルッツ。 「Ωだって強い」ことを証明するため、性別を偽り「Ω」として騎士団へ入団した彼は、その卓越した身体能力と前世の武術で周囲を圧倒する。 しかし、その強さと堂々とした態度が仇となり、最強のα(アルファ)である第一王子・イグニスの目に止まってしまった! 「お前こそ俺の運命の番だ」 βだからフェロモンなんて効かないのに、なぜかイグニスの熱烈な求愛(物理)攻撃を受ける日々に突入!? 勘違いから始まる、武闘派β×最強王子のドタバタ王宮BLファンタジー!

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

今からレンタルアルファシステムを利用します

夜鳥すぱり
BL
大学2年の鳴水《なるみ》は、ずっと自分がオメガであることを隠して生きてきた。でも、年々つらくなる発情期にもう一人は耐えられない。恋愛対象は男性だし、男のアルファに会ってみたい。誰でも良いから、定期的に安全に話し相手をしてくれる人が欲しい。でもそんな都合のいい人いなくて、考えあぐねた結果たどり着いた、アプリ、レンタルアルファシステム。安全……だと思う、評価も星5で良いし。うん、じゃ、お問い合わせをしてみるか。なるみは、恐る恐るボタンを押すが───。 ◆完結済みです。ありがとうございました。 ◆表紙絵を花々緒さんが描いてくださりました。カッコいい雪夜君と、おどおど鳴水くんです。可愛すぎますね!

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】

紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※番外編を公開しました(2024.10.21) 生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。 ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。

一軍男子と兄弟になりました

しょうがやき
BL
親の再婚で一軍男子と兄弟になった、平凡男子の話。

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

処理中です...