インチキで破廉恥で、途方もなく純情。

亜衣藍

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「なんだか、表情が明るくなったんじゃない? 」

「えっ!?  」

 急に同僚から声を掛けられ、奏は戸惑った。

「そ、そう? 何も変わらないよ? 」

「う~ん? そうかなー? 」

「それより、ほら! マウスの実験結果、レポート纏めるんだろう? あと、体組織の血小板増減の集計、ちゃんとやってる? 」

「おおっと! マズイ!! 」

 追及を逃れる為に促したのだが、声を掛けた相手は本当にそれを忘れていたのか、慌てて実験室へと戻って行った。

 それを見遣りながら、奏はフゥと溜め息をつく。

…………昨日、思ぬ告白を受けた。

 告白して来た相手は、長く奏の自由と身体を縛って来た、憎い相手――――であった筈の、馬淵栄太であった。

 栄太と会うのは、奏が発情期に入った時の3日間だけにすると、5年前に決めた。

 そのサイクルに合わせて、昨日も、5年前から定宿にしているホテルでいつものように面会した。

――――しかし奏は、今回は発情抑制剤を服用しての、面会だった。

 何故なら、栄太と会うのは、今回で終了だと告げるつもりだったからだ。

 だがそこで、奏は思いも寄らない告白を栄太から受けた。

 栄太は、ずっと奏の事が好きだったという。

 そしてずっと、奏に対して悪い事をした、酷な事をしてしまったと後悔していたらしい。

 彼がそんな事を思っていたんて、想像もしなかった。

(栄太さん……)

 今、奏の細い首には、金の鎖に通された指輪が掛かっている。

 それは、改めて自分と婚約して欲しいと言って栄太から渡された、シンプルなプラチナリングだった。

 今日は襟の有る服を着ているので、同僚達にはまだ気付かれていない。

 しかし、ルームシェアしているメンバー達には、いずれは気付かれるだろう。

 何だか、知ってほしいような、内緒にしていたいような。

 なんとも面映い感情に、奏の頬は自然と緩む。

(ああ、これが――愛される幸せっていう事なのかな? )

 初体験の感情に、奏の胸中はポッと火が付いたように暖かくなる。

 通常なら、発情期は3日程続くが、先にも言った通り、今回発情抑制剤を飲んでしまった。

 だから、今回はもう奏の身にヒート発情は起こらない。

 次のサイクルは、40日後だ。

『では、いつも通りに――――次のサイクルが来たら会いましょうか? 』

 そう言ったところ、栄太は首を振った。

 どういう事だろうと訝しむ奏に、次に栄太は言ったのだ。

『発情期とかは関係なく、普通にお前をデートに誘いたい。今日の仲直りの記念に、明後日の日曜……デートしないか? 』

 その時の言葉を思い出し、奏の頬は、また幸せに緩んだ。

(この僕が、デートを申し込まれる日が来るなんて! )

 今までずっと、オメガの男体などと蔑まれてきた身だ。

 そんな、『デートしないか』なんて、異性にも同性にも言われた事など一度もない。

 栄太の、普通の恋人に対するような接し方に、奏は本当に驚いた。

 これは全く、未知の体験だ。

(会いたいあいたいって言うのはいつも僕ばかりだったけど……それを、今度は僕が言われるなんて――――)

 嬉しくて、顔がまた自然と綻んでしまう。

(本当に、今が一番幸せだ)

――――相手は、正嘉ではないけれど。

 そこでふと、奏の表情は曇った。

(この期に及んで、まだ正嘉さまのことを考えてしまうなんて――――本当に僕ってヤツは、未練がましいオメガだな……)

 奏は、正嘉を運命だと思った。

 だが、相手は違っていたらしい。

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