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もともと5年前、それだけをセールスポイントにして、奏は正嘉ヘと再度アピールを試みようとしていた。
僕と番になってくれたのなら、優秀な子を必ず産みますからと――――発情期が訪れた事を期に、何とか両親に頼んで『青柳家と交渉してほしい』『渡りを取って欲しい』と、手紙に書いて懇願した。
青柳正嘉こそが、運命の番だと信じて。
もう、今となっては……何とも虚しい話だが。
「……また、ヤツの事を考えているのか? 」
栄太の言葉に、ハッと奏は顔を上げる。
「――あ……ご、ごめんなさい……」
目の前の人を無視して、違う男の事を考えていた。
その事に、何とはなしに罪悪感を覚え、奏はしゅんと肩を竦める。
すると、栄太の方もハッとして、一瞬でも険しい顔をした事を後悔した。
「すまない。こんなつもりじゃなかったんだが……どうにも、オレはアルファの連中が嫌いだから……恋人が少しでもヤツの事を考えていると思うと、つい……」
「い、いいえ! 今のは、僕が悪いんです。もう、正嘉さまの事は考えないようにしていたのに――」
でもやっぱり、今でもつい考えてしまう。
あの人は、今どうしているのだろうかとか。
少しは僕の事を、覚えていてくれているだろうか――とか。
そんなワケ、無いのに。
「……週末、また連絡ください。僕の頭の中を、あなたで一杯にしたいです」
そう意識せずに言った言葉は、思いの外、栄太の歓心を得たようだ。
栄太は目に見えて機嫌を直すと、ニコニコと笑って奏を手繰り寄せた。
「あ……」
チュッと、優しいキスを、奏の唇へ落とす。
「勿論、任せておけ! 週末と言わず、毎日電話をする。お前の頭の中をオレで一杯にして、あのアルファなんか二度と思い出せないようにしてやるからな」
「栄太さん――」
「そうだ、お前にプレゼントがあるんだ」
そう言うと、栄太はポケットから薄い紙袋を取り出した。
「それは……? 」
「午前中に寄ったショップでな」
どうやら、栄太は奏へと、何か密かに買い求めていたらしい。
奏は慌てて口を開く。
「そんなっ! 受け取れません! 」
今まで放っておいたプレゼントも、結局奏が受け取る事になってしまったのだ。
この上、更に贈り物など受け取れない。
すると、栄太は『分かっている、わかっている』というように頷いた。
「――――そう言うと思って、高価なものは買っていないから安心しろ」
栄太はそう告げると、これはただのスカーフだからと奏へ渡す。
「お前の、その首」
「っ!? 」
「酷い傷跡だ。でも、発情期でもない普段は、首輪なんかしたくないだろう? 」
「ええ……」
首輪をして歩くのは、発情期のオメガであると名乗りながら歩くようなものだ。
それは、首を噛まれて番いの契約を結ぶという、不測の事態を回避する為の処置である筈だが――――そうすると、興味本位で近寄ってきたり、引き摺ってどこかへ連れ込もうとするようなタチのよくない輩もやって来るのが問題であった。
何といっても、発情期のオメガは最高のダッチワイフとなってしまう。
だから、オメガは自分の正体を隠すために、発情期でもない普段の時期は、首には何も巻かないものだ。
――――だが、奏の首には酷い傷跡があったので、非常にそれは悪目立ちをしていた。
栄太なりに、それを気に掛けていたらしい。
「単色で、柔らかい色のスカーフを買ってみた。シルクだが、その位なら大した金額じゃない。……首輪だと目立つが、スカーフなら普段から使えるだろう? 受け取ってくれ」
「栄太さん……でも――」
「きっと、奏に似合う」
最後にもう一度キスをすると、栄太は車へ戻り、小さく手を挙げながら走り去って行った。
奏はそれを、頬を染めながら見送った。
(わざわざ、僕に……こんな物を買うなんて……)
ピリッと封を開いてみると、ライトグリーンが目に優しいスカーフが入っていた。
「栄太さん――」
どうしよう、嬉しい!
奏は頬を染めながら、そのスカーフに顔を埋めた。
自分の顔が、このまま幸せで溶けてしまうのではないかと思った。
だが、その様子を――――少し離れた建物の陰から、ジッと見つめている者が居たのであった。
僕と番になってくれたのなら、優秀な子を必ず産みますからと――――発情期が訪れた事を期に、何とか両親に頼んで『青柳家と交渉してほしい』『渡りを取って欲しい』と、手紙に書いて懇願した。
青柳正嘉こそが、運命の番だと信じて。
もう、今となっては……何とも虚しい話だが。
「……また、ヤツの事を考えているのか? 」
栄太の言葉に、ハッと奏は顔を上げる。
「――あ……ご、ごめんなさい……」
目の前の人を無視して、違う男の事を考えていた。
その事に、何とはなしに罪悪感を覚え、奏はしゅんと肩を竦める。
すると、栄太の方もハッとして、一瞬でも険しい顔をした事を後悔した。
「すまない。こんなつもりじゃなかったんだが……どうにも、オレはアルファの連中が嫌いだから……恋人が少しでもヤツの事を考えていると思うと、つい……」
「い、いいえ! 今のは、僕が悪いんです。もう、正嘉さまの事は考えないようにしていたのに――」
でもやっぱり、今でもつい考えてしまう。
あの人は、今どうしているのだろうかとか。
少しは僕の事を、覚えていてくれているだろうか――とか。
そんなワケ、無いのに。
「……週末、また連絡ください。僕の頭の中を、あなたで一杯にしたいです」
そう意識せずに言った言葉は、思いの外、栄太の歓心を得たようだ。
栄太は目に見えて機嫌を直すと、ニコニコと笑って奏を手繰り寄せた。
「あ……」
チュッと、優しいキスを、奏の唇へ落とす。
「勿論、任せておけ! 週末と言わず、毎日電話をする。お前の頭の中をオレで一杯にして、あのアルファなんか二度と思い出せないようにしてやるからな」
「栄太さん――」
「そうだ、お前にプレゼントがあるんだ」
そう言うと、栄太はポケットから薄い紙袋を取り出した。
「それは……? 」
「午前中に寄ったショップでな」
どうやら、栄太は奏へと、何か密かに買い求めていたらしい。
奏は慌てて口を開く。
「そんなっ! 受け取れません! 」
今まで放っておいたプレゼントも、結局奏が受け取る事になってしまったのだ。
この上、更に贈り物など受け取れない。
すると、栄太は『分かっている、わかっている』というように頷いた。
「――――そう言うと思って、高価なものは買っていないから安心しろ」
栄太はそう告げると、これはただのスカーフだからと奏へ渡す。
「お前の、その首」
「っ!? 」
「酷い傷跡だ。でも、発情期でもない普段は、首輪なんかしたくないだろう? 」
「ええ……」
首輪をして歩くのは、発情期のオメガであると名乗りながら歩くようなものだ。
それは、首を噛まれて番いの契約を結ぶという、不測の事態を回避する為の処置である筈だが――――そうすると、興味本位で近寄ってきたり、引き摺ってどこかへ連れ込もうとするようなタチのよくない輩もやって来るのが問題であった。
何といっても、発情期のオメガは最高のダッチワイフとなってしまう。
だから、オメガは自分の正体を隠すために、発情期でもない普段の時期は、首には何も巻かないものだ。
――――だが、奏の首には酷い傷跡があったので、非常にそれは悪目立ちをしていた。
栄太なりに、それを気に掛けていたらしい。
「単色で、柔らかい色のスカーフを買ってみた。シルクだが、その位なら大した金額じゃない。……首輪だと目立つが、スカーフなら普段から使えるだろう? 受け取ってくれ」
「栄太さん……でも――」
「きっと、奏に似合う」
最後にもう一度キスをすると、栄太は車へ戻り、小さく手を挙げながら走り去って行った。
奏はそれを、頬を染めながら見送った。
(わざわざ、僕に……こんな物を買うなんて……)
ピリッと封を開いてみると、ライトグリーンが目に優しいスカーフが入っていた。
「栄太さん――」
どうしよう、嬉しい!
奏は頬を染めながら、そのスカーフに顔を埋めた。
自分の顔が、このまま幸せで溶けてしまうのではないかと思った。
だが、その様子を――――少し離れた建物の陰から、ジッと見つめている者が居たのであった。
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