88 / 240
24
24-2
しおりを挟む
恵美は会場に、噂の青柳正嘉の姿を見つけた瞬間にそれを理解した。
――――私は、そこら辺の凡庸な女とは違う。
恵美はそう自負していたから、自信満々に正嘉の背に向かい、声を掛けた。
「青柳正嘉さまですよね? 初めまして、私は九条恵美と申します」
恵美の声に、振り返った正嘉は……今まで出会ったどの男よりも、極上の男だった。
敬愛している兄の凛よりも、光り輝いて見える。
思わず、その男振りに見とれそうになりながらも、恵美はどうにか微笑みを浮かべながら手を差し出したが…………。
「ふん? ……面白い事があるから来いと父から言われたが、結局は、また下らない見合いか? つまらないな。オレはもう失礼させてもらう」
なんと、正嘉は恵美の差し出した手を無視して、踵を返してしまったのだ。
慌てた様子で、青柳の関係者と恵美の付き添い達がその後を追って行ったが。
これには、唖然としてしまった恵美だ。
今まで彼女は、跪いて手を差し出されエスコートを受ける側だった。
それなのに、この男は、恵美を一瞥しただけで帰ってしまった。
何の興味も無いと言った様子で。
(そ、そんな…………バカな! )
恵美は、九条家の令嬢でありオメガの女性である。
その肩書だけでも、充分に求婚を受ける存在だ。
加えて、誰よりも美しく利発である。
この綺麗で素敵な女性と番い、生まれた子は必ず優秀な子であろう……そう期待し夢を抱いて、誰もが恵美に求愛をするのに。
正嘉は、何の興味もないという。
この一件で、恵美の自尊心は大いに傷付いた。
だが余計に、恵美は正嘉に嵌ってしまった。
――――生まれて初めて、自分を路傍の石のように切り捨てた酷い男に…………恋を、してしまったのだ。
だから彼女は、この一幕を聞き及び『青柳との婚約は見送るべきだ』と言う兄や父を説き伏せて、強引に正嘉との婚約の話を推し進めた。
しかし、父親にとっては遅くに出来た最愛の娘であり、兄の凜にとっては、年の離れた可愛い妹である。
勿論、会社経営の事を考えれば、青柳との縁は歓迎するところだが――――それより何より、恵美が幸せでなければならない。
今回は青柳の家柄と財力から選んだが、どうにも正嘉という青年は実が無いのではないか?
彼に関して聞こえてくるのは良い話ばかりではなく、あちらこちらと浮名を流しては、遊び歩いているというような醜聞もある。
――――我々は、彼の為人をもっと知ってから恵美との婚約を考えるべきだったのではないだろうか?
そう危惧した父と兄は、最後まで婚約に難色を示したが、恵美は絶対に譲らなかった。
『元々、九条の家の為になると選んだ相手でしょう? ならば、この話は絶対に推し進めるべきです! 何より私がそれを望んでいるのだから!! 』
そう強固に言われては、父と兄も折れるしかない。
それに、さすがの正嘉とて、九条家を相手にしてこれまでのような放蕩に興じる事はないであろう。
そう結論を出した父と兄は、不承不承婚約の話を承諾した。
また、相手の青柳家も、正嘉には相当ヤキモキしていたらしい。
まだ二十歳だからと言ってフラフラせずに、いい加減に青柳の跡取りなのだと腰を据えて、家の将来の為に尽力するべきだと思っていたようだ。
――――それには、正式な妻を迎えて子を設けるのが一番だろう。
その相手が九条家の令嬢であれば、不足は無い。
何にも増して、最も良い縁談となる。
青柳家の思惑と、恵美の強い意志がこのように合致して、二人の婚約がひと月前に決まった。
彼女の、年の離れた兄である九条凛は、最後までそれに難色を示していたが。
それでも、恵美の要望に押し切られて――――凜は、渋々ではあるが、妹の行く末が安泰であるよう見守る事にした。
婚姻は、これから一年後の吉日――青柳家の現総領である青柳雅彦が家督を継いだ日が選ばれた。
――――私は、そこら辺の凡庸な女とは違う。
恵美はそう自負していたから、自信満々に正嘉の背に向かい、声を掛けた。
「青柳正嘉さまですよね? 初めまして、私は九条恵美と申します」
恵美の声に、振り返った正嘉は……今まで出会ったどの男よりも、極上の男だった。
敬愛している兄の凛よりも、光り輝いて見える。
思わず、その男振りに見とれそうになりながらも、恵美はどうにか微笑みを浮かべながら手を差し出したが…………。
「ふん? ……面白い事があるから来いと父から言われたが、結局は、また下らない見合いか? つまらないな。オレはもう失礼させてもらう」
なんと、正嘉は恵美の差し出した手を無視して、踵を返してしまったのだ。
慌てた様子で、青柳の関係者と恵美の付き添い達がその後を追って行ったが。
これには、唖然としてしまった恵美だ。
今まで彼女は、跪いて手を差し出されエスコートを受ける側だった。
それなのに、この男は、恵美を一瞥しただけで帰ってしまった。
何の興味も無いと言った様子で。
(そ、そんな…………バカな! )
恵美は、九条家の令嬢でありオメガの女性である。
その肩書だけでも、充分に求婚を受ける存在だ。
加えて、誰よりも美しく利発である。
この綺麗で素敵な女性と番い、生まれた子は必ず優秀な子であろう……そう期待し夢を抱いて、誰もが恵美に求愛をするのに。
正嘉は、何の興味もないという。
この一件で、恵美の自尊心は大いに傷付いた。
だが余計に、恵美は正嘉に嵌ってしまった。
――――生まれて初めて、自分を路傍の石のように切り捨てた酷い男に…………恋を、してしまったのだ。
だから彼女は、この一幕を聞き及び『青柳との婚約は見送るべきだ』と言う兄や父を説き伏せて、強引に正嘉との婚約の話を推し進めた。
しかし、父親にとっては遅くに出来た最愛の娘であり、兄の凜にとっては、年の離れた可愛い妹である。
勿論、会社経営の事を考えれば、青柳との縁は歓迎するところだが――――それより何より、恵美が幸せでなければならない。
今回は青柳の家柄と財力から選んだが、どうにも正嘉という青年は実が無いのではないか?
彼に関して聞こえてくるのは良い話ばかりではなく、あちらこちらと浮名を流しては、遊び歩いているというような醜聞もある。
――――我々は、彼の為人をもっと知ってから恵美との婚約を考えるべきだったのではないだろうか?
そう危惧した父と兄は、最後まで婚約に難色を示したが、恵美は絶対に譲らなかった。
『元々、九条の家の為になると選んだ相手でしょう? ならば、この話は絶対に推し進めるべきです! 何より私がそれを望んでいるのだから!! 』
そう強固に言われては、父と兄も折れるしかない。
それに、さすがの正嘉とて、九条家を相手にしてこれまでのような放蕩に興じる事はないであろう。
そう結論を出した父と兄は、不承不承婚約の話を承諾した。
また、相手の青柳家も、正嘉には相当ヤキモキしていたらしい。
まだ二十歳だからと言ってフラフラせずに、いい加減に青柳の跡取りなのだと腰を据えて、家の将来の為に尽力するべきだと思っていたようだ。
――――それには、正式な妻を迎えて子を設けるのが一番だろう。
その相手が九条家の令嬢であれば、不足は無い。
何にも増して、最も良い縁談となる。
青柳家の思惑と、恵美の強い意志がこのように合致して、二人の婚約がひと月前に決まった。
彼女の、年の離れた兄である九条凛は、最後までそれに難色を示していたが。
それでも、恵美の要望に押し切られて――――凜は、渋々ではあるが、妹の行く末が安泰であるよう見守る事にした。
婚姻は、これから一年後の吉日――青柳家の現総領である青柳雅彦が家督を継いだ日が選ばれた。
0
あなたにおすすめの小説
最強βの俺が偽装Ωになったら、フェロモン無効なのに狂犬王子に求愛されました~前世武道家なので物理で分からせます~
水凪しおん
BL
前世は日本の武道家、今世は平民β(ベータ)のルッツ。
「Ωだって強い」ことを証明するため、性別を偽り「Ω」として騎士団へ入団した彼は、その卓越した身体能力と前世の武術で周囲を圧倒する。
しかし、その強さと堂々とした態度が仇となり、最強のα(アルファ)である第一王子・イグニスの目に止まってしまった!
「お前こそ俺の運命の番だ」
βだからフェロモンなんて効かないのに、なぜかイグニスの熱烈な求愛(物理)攻撃を受ける日々に突入!?
勘違いから始まる、武闘派β×最強王子のドタバタ王宮BLファンタジー!
オメガの僕が、最後に恋をした騎士は冷酷すぎる
虹湖🌈
BL
死にたかった僕を、生かしたのは――あなたの声だった。
滅びかけた未来。
最後のオメガとして、僕=アキは研究施設に閉じ込められていた。
「資源」「道具」――そんな呼び方しかされず、生きる意味なんてないと思っていた。
けれど。
血にまみれたアルファ騎士・レオンが、僕の名前を呼んだ瞬間――世界が変わった。
冷酷すぎる彼に守られて、逃げて、傷ついて。
それでも、彼と一緒なら「生きたい」と思える。
終末世界で芽生える、究極のバディ愛×オメガバース。
命を懸けた恋が、絶望の世界に希望を灯す。
【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】
彩華
BL
俺の名前は水野圭。年は25。
自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで)
だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。
凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!
凄い! 店員もイケメン!
と、実は穴場? な店を見つけたわけで。
(今度からこの店で弁当を買おう)
浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……?
「胃袋掴みたいなぁ」
その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。
******
そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。
今からレンタルアルファシステムを利用します
夜鳥すぱり
BL
大学2年の鳴水《なるみ》は、ずっと自分がオメガであることを隠して生きてきた。でも、年々つらくなる発情期にもう一人は耐えられない。恋愛対象は男性だし、男のアルファに会ってみたい。誰でも良いから、定期的に安全に話し相手をしてくれる人が欲しい。でもそんな都合のいい人いなくて、考えあぐねた結果たどり着いた、アプリ、レンタルアルファシステム。安全……だと思う、評価も星5で良いし。うん、じゃ、お問い合わせをしてみるか。なるみは、恐る恐るボタンを押すが───。
◆完結済みです。ありがとうございました。
◆表紙絵を花々緒さんが描いてくださりました。カッコいい雪夜君と、おどおど鳴水くんです。可愛すぎますね!
【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】
紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。
相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。
超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。
失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。
彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。
※番外編を公開しました(2024.10.21)
生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。
※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる