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しおりを挟む奏は、No.5―3の投薬を開始してから、逐一自身のデータを取って発情の経過を調べていた。
先日は、発情の期間以外に栄太と性交をした訳なのだが…………それによるアルファフェロモンの数値変動は微量で、やはりヒート状態のオメガの肉体とは全く異なっていた。
つまり、奏は普通の男性として、同じく同性である栄太と抱き合ったワケである。
まぁ、確かに愛さえあれば、同性間でも性交は可能なのだが、だからといって、オメガ特有の『妊娠』現象が起こるかというと――――どうもそれは無理のようだ。
女性ホルモンの変動も微妙で、劇的にオメガの発情期のように高まる事は無かった。
※女性ホルモンに関しては、これはオメガに限らず、ベータやアルファ等普通の男性でも必ずある程度の割合で保持しているホルモンである。
しかしやはり、これでは、とても妊娠は不可能だ。
では、No.5―3を続ける限り、オメガ男体は発情も妊娠も出来ないのか?
それが、この新薬最大のネックであったのだが――――この研究に七海が復帰した事から、新薬開発に一層の弾みがついた。
車椅子ではあるが、七海は目覚めてから一週間という短期間で見事研究室へと復帰を果たし、かつての様に、頼もしい皆のリーダーへと返り咲いていた。
「オメガ男体の身体が受精可能に変化するのは、感情ではなく周期の方が関係している。この定説が覆る事は無い筈だ。通常ならば、発情期が近付いて来ると体温変化にエストロゲンの変動、それによるLHサージの上昇が見られ、オメガはヒート状態を迎える。理性や感情を抜きにして、これはもう無慈悲に強制的にだ」
ここで息をつくと、七海は『君達もそうだろう? 』と視線を払う。
この研究室は、オメガの研究員で占められている。
全員が、その悩ましいオメガの習性に振り回されているワケだ。
「――――つまり、発情期になったオメガは脳を麻痺させる程の性交衝動へ駆られる事になってしまうワケだな。自我を保つことが難しくなり、その苦しみから逃れる為に、異性または同性であるパートナーの体液の摂取に本能で動くことになってしまう。発情の苦しみを止めるには、それが最も手っ取り早いからな。現状では、これを回避するためには、発情期の度に抑制剤を飲んで自室に独り籠り、肉欲の嵐が去るのを待つしかない……」
だがそれも、完璧ではない。
保険が3割利くようになったとはいえ、やはり発情抑制剤は高額だ。
安価な薬も出回っているが非常に中毒性が高く、過剰摂取による死亡事故も毎年数百人出ている。
第一、発情期の度に数日間姿を消すのでは、通常のコミュティーを形成するのが難しくなり経済的にも困窮してくる。
学校も、仕事も、何もかもが上手く回らなくなり――――そしてオメガは、相手も分からない子供を身籠り途方に暮れるしかない。
とはいえ、そこで人口の爆発的増加も起こらないし、ちゃんと受け口もあるので、今までほぼ放擲されているのだが。
アルファとアルファ、ベータとベータ。
この同族間では、子供が産まれる可能性はわずか3%だ。
しかしオメガ女体なら80%、男体なら20%の確率で身籠る。
つまり、夫婦が子供を望む場合は、オメガの存在は必須なのである。皮肉な事に、代理母出産ビジネスや養子縁組ビジネスはオメガの専売特許となっていた。
「…………だが、オレ達は子供を作る為の道具ではないし、自由に恋愛をして本当に好きな人と番いになりたい筈だろう? 」
七海の言葉に、研究員たちは相槌を打つ。
だから、前記のごく一部のオメガを除き、多くのオメガ達は発情抑制剤に縋って生きているのだから。
「奏達チームが作ろうとしている新薬は、可能性に満ちている。これはアルファフェロモンに対する免疫が常にon状態になっているオメガAフェロモンを、off状態に保つ免疫薬だ。これは現行の発情抑制剤のように中毒性もなく安全なのは保障できる。投薬した動物実験のデータを追ってみたが、オメガ特有の劇的な発情は見られない。人間にも有効だろうと予測できる。それに何より――」
そこで息をつくと、七海は決定的な事を口にする。
「先程判明したが、実験動物の1番35番、2番9番、8番45番が、ペアになり自然交配で妊娠中だと判明した」
「っ!? 」
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