115 / 240
29
29-2
しおりを挟む
「ならば、オメガも自我を保ちながら普通の恋愛をして――――自由意志で妊娠も可能の筈だと推測できる」
つまり、正しいデータを取り続け『発情期』に性交すれば、身体の方はちゃんと胤を受け入れ着床する可能性は0ではない。
好きな人と抱き合い愛を確かめあって、その身体に命を宿す。
アルファやベータの男には不可能な奇跡が、身体の変容が唯一可能な、オメガ男体だけに許される奇跡となる。
「七海先輩……」
――――では、僕にもまだ可能性があるのだろうか? この5年間は、全く妊娠の兆候はなかったけれど……。
奏の視線に気付いた七海が、研究員たちがそれぞれの仕事に戻っていくなか、車椅子を移動させてチョイチョイと手招きをした。
「? どうしました、何か――」
「……まだ奏も、望みを捨ててはいけないよ。せっかくベータの彼と番になったんだから」
微笑みながら、七海はそっと耳打ちをする。
「ベータとアルファの違いは、フェロモンの強さだけの違いだとオレは思っている。勿論、番の上書きが可能なように全てにおいてアルファ優位なのは変わらないが――――だからといって、奏が発情期に性交しても妊娠しなかったのは、番の相手がベータだった所為とはならない筈だよ」
その言葉に、奏はギクリとした。
もしや、奏が身籠らないのは、栄太がベータという事に原因があるのかと考えていた。その事を、見透かされたような気がしたからだ。
「でも、七海先輩――」
ただでさえ、こっちは妊娠し難いオメガ男体である。
……やはり…………。
「大丈夫! オレに任せておけ。可愛い後輩が悩んでいるんだから、必ず助けてやるよ」
頼もしい言葉に、奏の頬は緩む。
気休めでも、力強い言葉は嬉しい。
「ありがとうございます、七海先輩」
ホッとして柔らかい表情になる奏に、七海は苦笑しながら付け加えた。
「――――で、研究員自ら新薬の臨床研究に協力してくれるのは助かるが……少人数のチームとはいえ、番との性交の回数等プライベートな事まで検証しなければならないのは、どうにも辛いところだね」
その言葉に、奏の頬がポッと赤くなった。
しかし、ここの問題をクリアしない事には、No.5―3は重大な『副作用』を伴った新薬となってしまう。
検証は、必ず必要だ。
「……ところで、奏の現在のデータを見せてもらった。二日前から、体温に変動が出ているね。通常サイクルから計算しても、そろそろ発情期に入りつつある筈だ。自覚は? 」
「――――それが、ほとんど無いんですよね……」
「『気絶ヤギ』の症状は? 」
「それも――いつもなら、身体のあちこちが段々にチクチクしてくるので、痛みを薬で散らしている頃の筈なんですけど。今回は一切症状を感じません。僕としては助かりますが……でも、そうなると――――発情期ではないという事ですよね? 」
そう言うと、奏は困ったように眉根を寄せた。
いつもなら、発情期が近付くとフワフワと身体が浮くような感覚が訪れてきて、記憶が段々と飛ぶようになって来る。
そして身体に痛みも出てくるので、軽めの抑制剤でそれを抑えながら、栄太とスケジュールを合わせてその後はホテルへ――……。
頬を染めながら、奏は今までの、その経緯を説明した。
「ふん……」
七海は一つ頷くと、クルリと車椅子を移動させる。
そして、彼が眠りに就いてからもずっと厳重に管理されていた専用重量金庫定へ立ち入り、鍵の掛かっていたストレート缶を開けてアンプルを取り出した。
(※モルヒネ(鎮痛薬)、コカイン(麻酔薬)など麻薬および向精神薬取締法により「麻薬」指定されたものは、施設内に設けた鍵をかけた堅固な設備に保管するよう定められている)
「これは、オレがベッドで眠り続ける前に完成させた試薬だ。こいつの対応年数は5年、まだ使えるだろう。実際、オレも使ってみたが、体に副作用系の変調は無かったしな」
「それは――? 」
つまり、正しいデータを取り続け『発情期』に性交すれば、身体の方はちゃんと胤を受け入れ着床する可能性は0ではない。
好きな人と抱き合い愛を確かめあって、その身体に命を宿す。
アルファやベータの男には不可能な奇跡が、身体の変容が唯一可能な、オメガ男体だけに許される奇跡となる。
「七海先輩……」
――――では、僕にもまだ可能性があるのだろうか? この5年間は、全く妊娠の兆候はなかったけれど……。
奏の視線に気付いた七海が、研究員たちがそれぞれの仕事に戻っていくなか、車椅子を移動させてチョイチョイと手招きをした。
「? どうしました、何か――」
「……まだ奏も、望みを捨ててはいけないよ。せっかくベータの彼と番になったんだから」
微笑みながら、七海はそっと耳打ちをする。
「ベータとアルファの違いは、フェロモンの強さだけの違いだとオレは思っている。勿論、番の上書きが可能なように全てにおいてアルファ優位なのは変わらないが――――だからといって、奏が発情期に性交しても妊娠しなかったのは、番の相手がベータだった所為とはならない筈だよ」
その言葉に、奏はギクリとした。
もしや、奏が身籠らないのは、栄太がベータという事に原因があるのかと考えていた。その事を、見透かされたような気がしたからだ。
「でも、七海先輩――」
ただでさえ、こっちは妊娠し難いオメガ男体である。
……やはり…………。
「大丈夫! オレに任せておけ。可愛い後輩が悩んでいるんだから、必ず助けてやるよ」
頼もしい言葉に、奏の頬は緩む。
気休めでも、力強い言葉は嬉しい。
「ありがとうございます、七海先輩」
ホッとして柔らかい表情になる奏に、七海は苦笑しながら付け加えた。
「――――で、研究員自ら新薬の臨床研究に協力してくれるのは助かるが……少人数のチームとはいえ、番との性交の回数等プライベートな事まで検証しなければならないのは、どうにも辛いところだね」
その言葉に、奏の頬がポッと赤くなった。
しかし、ここの問題をクリアしない事には、No.5―3は重大な『副作用』を伴った新薬となってしまう。
検証は、必ず必要だ。
「……ところで、奏の現在のデータを見せてもらった。二日前から、体温に変動が出ているね。通常サイクルから計算しても、そろそろ発情期に入りつつある筈だ。自覚は? 」
「――――それが、ほとんど無いんですよね……」
「『気絶ヤギ』の症状は? 」
「それも――いつもなら、身体のあちこちが段々にチクチクしてくるので、痛みを薬で散らしている頃の筈なんですけど。今回は一切症状を感じません。僕としては助かりますが……でも、そうなると――――発情期ではないという事ですよね? 」
そう言うと、奏は困ったように眉根を寄せた。
いつもなら、発情期が近付くとフワフワと身体が浮くような感覚が訪れてきて、記憶が段々と飛ぶようになって来る。
そして身体に痛みも出てくるので、軽めの抑制剤でそれを抑えながら、栄太とスケジュールを合わせてその後はホテルへ――……。
頬を染めながら、奏は今までの、その経緯を説明した。
「ふん……」
七海は一つ頷くと、クルリと車椅子を移動させる。
そして、彼が眠りに就いてからもずっと厳重に管理されていた専用重量金庫定へ立ち入り、鍵の掛かっていたストレート缶を開けてアンプルを取り出した。
(※モルヒネ(鎮痛薬)、コカイン(麻酔薬)など麻薬および向精神薬取締法により「麻薬」指定されたものは、施設内に設けた鍵をかけた堅固な設備に保管するよう定められている)
「これは、オレがベッドで眠り続ける前に完成させた試薬だ。こいつの対応年数は5年、まだ使えるだろう。実際、オレも使ってみたが、体に副作用系の変調は無かったしな」
「それは――? 」
0
あなたにおすすめの小説
最強βの俺が偽装Ωになったら、フェロモン無効なのに狂犬王子に求愛されました~前世武道家なので物理で分からせます~
水凪しおん
BL
前世は日本の武道家、今世は平民β(ベータ)のルッツ。
「Ωだって強い」ことを証明するため、性別を偽り「Ω」として騎士団へ入団した彼は、その卓越した身体能力と前世の武術で周囲を圧倒する。
しかし、その強さと堂々とした態度が仇となり、最強のα(アルファ)である第一王子・イグニスの目に止まってしまった!
「お前こそ俺の運命の番だ」
βだからフェロモンなんて効かないのに、なぜかイグニスの熱烈な求愛(物理)攻撃を受ける日々に突入!?
勘違いから始まる、武闘派β×最強王子のドタバタ王宮BLファンタジー!
オメガの僕が、最後に恋をした騎士は冷酷すぎる
虹湖🌈
BL
死にたかった僕を、生かしたのは――あなたの声だった。
滅びかけた未来。
最後のオメガとして、僕=アキは研究施設に閉じ込められていた。
「資源」「道具」――そんな呼び方しかされず、生きる意味なんてないと思っていた。
けれど。
血にまみれたアルファ騎士・レオンが、僕の名前を呼んだ瞬間――世界が変わった。
冷酷すぎる彼に守られて、逃げて、傷ついて。
それでも、彼と一緒なら「生きたい」と思える。
終末世界で芽生える、究極のバディ愛×オメガバース。
命を懸けた恋が、絶望の世界に希望を灯す。
【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】
彩華
BL
俺の名前は水野圭。年は25。
自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで)
だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。
凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!
凄い! 店員もイケメン!
と、実は穴場? な店を見つけたわけで。
(今度からこの店で弁当を買おう)
浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……?
「胃袋掴みたいなぁ」
その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。
******
そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。
今からレンタルアルファシステムを利用します
夜鳥すぱり
BL
大学2年の鳴水《なるみ》は、ずっと自分がオメガであることを隠して生きてきた。でも、年々つらくなる発情期にもう一人は耐えられない。恋愛対象は男性だし、男のアルファに会ってみたい。誰でも良いから、定期的に安全に話し相手をしてくれる人が欲しい。でもそんな都合のいい人いなくて、考えあぐねた結果たどり着いた、アプリ、レンタルアルファシステム。安全……だと思う、評価も星5で良いし。うん、じゃ、お問い合わせをしてみるか。なるみは、恐る恐るボタンを押すが───。
◆完結済みです。ありがとうございました。
◆表紙絵を花々緒さんが描いてくださりました。カッコいい雪夜君と、おどおど鳴水くんです。可愛すぎますね!
【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】
紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。
相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。
超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。
失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。
彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。
※番外編を公開しました(2024.10.21)
生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。
※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる