インチキで破廉恥で、途方もなく純情。

亜衣藍

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「ならば、オメガも自我を保ちながら普通の恋愛をして――――自由意志で妊娠も可能の筈だと推測できる」

 つまり、正しいデータを取り続け『発情期』に性交すれば、身体の方はちゃんと胤を受け入れ着床する可能性は0ではない。

 好きな人と抱き合い愛を確かめあって、その身体に命を宿す。

 アルファやベータの男には不可能な奇跡が、身体の変容が唯一可能な、オメガ男体だけに許される奇跡となる。

「七海先輩……」

――――では、僕にもまだ可能性があるのだろうか? この5年間は、全く妊娠の兆候はなかったけれど……。

 奏の視線に気付いた七海が、研究員たちがそれぞれの仕事に戻っていくなか、車椅子を移動させてチョイチョイと手招きをした。

「? どうしました、何か――」

「……まだ奏も、望みを捨ててはいけないよ。せっかくベータの彼と番になったんだから」
微笑みながら、七海はそっと耳打ちをする。

「ベータとアルファの違いは、フェロモンの強さだけ・・・・の違いだとオレは思っている。勿論、番の上書きが可能なように全てにおいてアルファ優位なのは変わらないが――――だからといって、奏が発情期に性交しても妊娠しなかったのは、番の相手がベータだった所為とはならない筈だよ」

 その言葉に、奏はギクリとした。

 もしや、奏が身籠らないのは、栄太がベータという事に原因があるのかと考えていた。その事を、見透かされたような気がしたからだ。

「でも、七海先輩――」

 ただでさえ、こっちは妊娠し難いオメガ男体である。

……やはり…………。

「大丈夫! オレに任せておけ。可愛い後輩が悩んでいるんだから、必ず助けてやるよ」

 頼もしい言葉に、奏の頬は緩む。

 気休めでも、力強い言葉は嬉しい。

「ありがとうございます、七海先輩」

 ホッとして柔らかい表情になる奏に、七海は苦笑しながら付け加えた。

「――――で、研究員自ら新薬の臨床研究に協力してくれるのは助かるが……少人数のチームとはいえ、番との性交の回数等プライベートな事まで検証しなければならないのは、どうにも辛いところだね」

 その言葉に、奏の頬がポッと赤くなった。

 しかし、ここの問題をクリアしない事には、No.5―3は重大な『副作用』を伴った新薬となってしまう。

 検証は、必ず必要だ。

「……ところで、奏の現在のデータを見せてもらった。二日前から、体温に変動が出ているね。通常サイクルから計算しても、そろそろ発情期に入りつつある筈だ。自覚は? 」

「――――それが、ほとんど無いんですよね……」

「『気絶ヤギファインディング・ゴート』の症状は? 」

「それも――いつもなら、身体のあちこちが段々にチクチクしてくるので、痛みを薬で散らしている頃の筈なんですけど。今回は一切症状を感じません。僕としては助かりますが……でも、そうなると――――発情期ではないという事ですよね? 」

 そう言うと、奏は困ったように眉根を寄せた。

 いつもなら、発情期が近付くとフワフワと身体が浮くような感覚が訪れてきて、記憶が段々と飛ぶようになって来る。

 そして身体に痛みも気絶ヤギ出てくるので、軽めの抑制剤でそれを抑えながら、栄太とスケジュールを合わせてその後はホテルへ――……。

 頬を染めながら、奏は今までの、その経緯を説明した。

「ふん……」

 七海は一つ頷くと、クルリと車椅子を移動させる。

 そして、彼が眠りに就いてからもずっと厳重に管理されていた専用重量金庫定へ立ち入り、鍵の掛かっていたストレート缶医薬品保管容器を開けてアンプルを取り出した。

(※モルヒネ(鎮痛薬)、コカイン(麻酔薬)など麻薬および向精神薬取締法により「麻薬」指定されたものは、施設内に設けた鍵をかけた堅固な設備に保管するよう定められている)

「これは、オレがベッドで眠り続ける前に完成させた試薬だ。こいつの対応年数は5年、まだ使えるだろう。実際、オレも使ってみた・・・・・・・・・が、体に副作用系の変調は無かったしな」

「それは――? 」


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