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「オメガ男体に精子の着床を増進させるブースターだ。こいつは後孔での性交を想定して作ったから、最初から子宮が備わっている女体には効かない。あくまで、発情期のオメガ男体用だ」
「えぇ!? 」
そんな物が完成していたなんて、初耳だ!
驚いて、奏は七海を見つめる。
「いったい、いつ――――? 」
「眠りに就く、本当に直前だな。これはもう、オレの業みたいなもんかな……やっていた事が全部バレたら医学界永久追放だな」
ハハっと笑い、アンプルを奏へ渡す。
「これは最後の一本だ。レシピは破棄しているから二度と作れないし、作るつもりもない。だが、効果は保証する。何せ、ポンコツになっちまったこの身体でも可能だったからな」
そう言うと、七海は自分の下腹部を触った。
その意味を悟り、奏は今度こそ驚愕する。
「え、えぇ!? 七海先輩、もしかして――」
「4年前は……もう歳だし身体も大分壊れていたから、諦めようと思っていた。残っている余生は、その段階でおおよそ15年と計算していたが……やりようによっては、もっと延命が可能の筈だった」
残る余生を静かに穏やかに送り、師となって、優秀な後輩たちを導き育てようかと考えていた。
欲を言えば、九条にも隣にいて欲しかったが…………。
――――だが、計算は狂った。
七海は暴漢に襲われ、一層身体を壊した状態のまま、意識不明で眠りに就いた。
そうして目覚めた彼が知ったのは、自分に残る時間が、予想以上に短くなった事である。
だから七海は、賭けに出た。間際に完成させた試薬を自らに使用すると。
「……ここには、九条の子の命が宿っている。まだ着床を確認したばかりで安定期にも入っていないが――――オレは絶対に産もうと思う。これが本当にラストチャンスだな」
幾ら若々しく見えるとはいえ、七海は既に四十も半ばを超えている。
身体もとっくにボロボロだ。
たとえ薬の力を借りて妊娠する事が成功しても――――果たして、その体内で無事に子は育つことが出来るのか?
出産は可能なのか?
それに、第一…………。
「だ、ダメですよ……」
奏は蒼白になり、小さく震えながら呻くように言う。
「それでは、七海先輩は増々身体を痛めてしまいます…………ただでさえ5年の命が――――十中八九、もう――――例えそれが死産だとしても……消えてしまいます。七海先輩は、あと1年だけしか生きられなくなってしまう…………」
それを承知で、九条と番ったのか?
長い髪に隠されてよく見えないが、確かに、七海の項には『番の印』が刻まれている。
それは、奏と同じ傷痕だった。
「理事長は――」
「…………お前と同じ事を言っていたよ……『正気なのか、死にたいのか? 1分1秒でも、長く生きていてほしいと願う私の思いを分かってくれないのか』と」
だが、七海も最期に夢を見たいと思った。
愛し愛され、命を繋ぐ事を。
九条はその願いを聞き入れて、ひっそりと二人、番の契約を交わした。
――――そうして七海はオメガの絶頂を味わい、生きる事の幸せを実感した……。
「奏は、本当にいい子だな」
ニッコリと笑い、七海は手を伸ばして奏の腕をポンポンと叩く。
「お前のように優秀な後継者がちゃんと育っていると分かったから、オレは安心して研究員としての一線を退く決断が出来たんだよ。そして、自分の我が儘を通そうと決意を固める事もな……ありがとう」
「七海先輩――」
「番になった九条がアルファだから、オレが身籠る事が可能だったのか――生憎とそこまで詳しく検証する事はもう出来ない。だが、コイツはお前達にも有効の筈だ」
「ど、どうして――試薬のレシピを廃棄したんですか? それがあれば、オメガ男体が妊娠し難いという欠点を克服できるのに…………」
少なくとも、オメガ女体と同等の扱いにまで格上げされるだろうに。
すると、七海はフゥと嘆息した。
「確かに、これが認可薬となれば劇的にオメガ男体の地位も回復するだろう可能性はあるが――――オレは逆に、悪用される可能性の方が高いと判断したからな」
「えぇ!? 」
そんな物が完成していたなんて、初耳だ!
驚いて、奏は七海を見つめる。
「いったい、いつ――――? 」
「眠りに就く、本当に直前だな。これはもう、オレの業みたいなもんかな……やっていた事が全部バレたら医学界永久追放だな」
ハハっと笑い、アンプルを奏へ渡す。
「これは最後の一本だ。レシピは破棄しているから二度と作れないし、作るつもりもない。だが、効果は保証する。何せ、ポンコツになっちまったこの身体でも可能だったからな」
そう言うと、七海は自分の下腹部を触った。
その意味を悟り、奏は今度こそ驚愕する。
「え、えぇ!? 七海先輩、もしかして――」
「4年前は……もう歳だし身体も大分壊れていたから、諦めようと思っていた。残っている余生は、その段階でおおよそ15年と計算していたが……やりようによっては、もっと延命が可能の筈だった」
残る余生を静かに穏やかに送り、師となって、優秀な後輩たちを導き育てようかと考えていた。
欲を言えば、九条にも隣にいて欲しかったが…………。
――――だが、計算は狂った。
七海は暴漢に襲われ、一層身体を壊した状態のまま、意識不明で眠りに就いた。
そうして目覚めた彼が知ったのは、自分に残る時間が、予想以上に短くなった事である。
だから七海は、賭けに出た。間際に完成させた試薬を自らに使用すると。
「……ここには、九条の子の命が宿っている。まだ着床を確認したばかりで安定期にも入っていないが――――オレは絶対に産もうと思う。これが本当にラストチャンスだな」
幾ら若々しく見えるとはいえ、七海は既に四十も半ばを超えている。
身体もとっくにボロボロだ。
たとえ薬の力を借りて妊娠する事が成功しても――――果たして、その体内で無事に子は育つことが出来るのか?
出産は可能なのか?
それに、第一…………。
「だ、ダメですよ……」
奏は蒼白になり、小さく震えながら呻くように言う。
「それでは、七海先輩は増々身体を痛めてしまいます…………ただでさえ5年の命が――――十中八九、もう――――例えそれが死産だとしても……消えてしまいます。七海先輩は、あと1年だけしか生きられなくなってしまう…………」
それを承知で、九条と番ったのか?
長い髪に隠されてよく見えないが、確かに、七海の項には『番の印』が刻まれている。
それは、奏と同じ傷痕だった。
「理事長は――」
「…………お前と同じ事を言っていたよ……『正気なのか、死にたいのか? 1分1秒でも、長く生きていてほしいと願う私の思いを分かってくれないのか』と」
だが、七海も最期に夢を見たいと思った。
愛し愛され、命を繋ぐ事を。
九条はその願いを聞き入れて、ひっそりと二人、番の契約を交わした。
――――そうして七海はオメガの絶頂を味わい、生きる事の幸せを実感した……。
「奏は、本当にいい子だな」
ニッコリと笑い、七海は手を伸ばして奏の腕をポンポンと叩く。
「お前のように優秀な後継者がちゃんと育っていると分かったから、オレは安心して研究員としての一線を退く決断が出来たんだよ。そして、自分の我が儘を通そうと決意を固める事もな……ありがとう」
「七海先輩――」
「番になった九条がアルファだから、オレが身籠る事が可能だったのか――生憎とそこまで詳しく検証する事はもう出来ない。だが、コイツはお前達にも有効の筈だ」
「ど、どうして――試薬のレシピを廃棄したんですか? それがあれば、オメガ男体が妊娠し難いという欠点を克服できるのに…………」
少なくとも、オメガ女体と同等の扱いにまで格上げされるだろうに。
すると、七海はフゥと嘆息した。
「確かに、これが認可薬となれば劇的にオメガ男体の地位も回復するだろう可能性はあるが――――オレは逆に、悪用される可能性の方が高いと判断したからな」
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