インチキで破廉恥で、途方もなく純情。

亜衣藍

文字の大きさ
117 / 240
29

29-4

しおりを挟む
 七海の指摘に、奏は「あ……」と、声を漏らした。

 その指摘は、正しいと思ったからだ。

 今や、深刻な社会問題となっている人口減少。そして、後継者不足に悩む各家。

 そこに目を付けた犯罪集団が人身売買に手を出し、検挙されるのは枚挙まいきょいとまがない。しかも、明るみに出るのは本当に氷山の一角だ。

 この手の犯罪は、後を絶たないでいる。

 だから、高い確率で子を授かる事の出来るオメガの女性は、カーストではベータの下に置かれてはいるが、何だかんだ言っても重宝されて大切にされているのだ。

 しかしそこに、ベータの男性へ着床を促す、強力な薬が出回ったら?



――――ベータの男性への扱いは改善されるどころではなく、より酷いものになる可能性がある。



 首輪を付けられ閉じ込められ、牛や豚と同等の生産動物として扱われるかもしれない。

 そうして発情期の度に、試験管で保存されている精液を後孔へ突っ込まれるのだ。

 胸の悪くなるような話だが、実際にこれに近い犯罪が起こっているのは事実だ。

 七海の作った試薬ブースターはとてもいい薬の筈だが、その犯罪に使われる可能性がやはり無視できない。

 第一、今現在最下層に置かれているオメガ男体に、そうそう公平な人権など何処の誰も認めはしないだろう。

 人間とは、無意識に自分より下の存在を作り出しては、優越感に浸り心の平常を保とうとする本能がある。

 醜いし汚いが、それが人間というものだ。

「……だから、奏が手掛けている新薬こそが、これからのオメガの未来を拓く筈なんだ。オレの、この試薬じゃなくてね」

 差別の元になっているのは、やはり『発情』が根本にある。

 オメガを苦しめる、自我が崩壊したかと思うほどの乱れようが――――ベータやアルファから見たら、卑しい淫獣に映るのだろう。

 そしてまた、オメガは発情期の度にどうしても通常の生活から隔離しなければならず、それが一層の苦しみと差別を生んでいる。

 それを回避する為に、七海もずっと研究を続けていた。

 今現在使用されている発情抑制剤は強い副作用があるが、免疫薬ならば副作用は無い。

 従来身体に備わっている物質を使うのだから、安全は間違いなく保障できる。

 七海は眠りに就くまでずっと研究していたが、それを引き継いでくれた奏は、更にブラッシュアップした新薬を開発してくれた。

 七海は、本当にそれが嬉しい。

「まだまだデータが足りないが、No.5―3の経過は順調そうだ。厚生省の許可も早く降りるようにオレからも掛け合ってみるよ。臨床データを早急に集めて、上手く行くと3年後には…………」

 そこで、七海は言葉を切った。

 どう考えても、例えどんな奇跡が起こっても、七海はそこまで生きてはいない。

「な……七海、先輩…………」

 ポロポロと涙を零す奏を見上げながら、七海は困ったように微笑んだ。

   ◇

 研究所へ七海を迎えに来た九条へ、奏は問い掛けた。

「――先輩と番に、なったんですね。息子さんは何か仰ってませんか? 」

「采か……あいつは、今は恵美の方の仕事を手伝ってもらっている。だから、今あの広い屋敷には私と七海の2人きりだよ」

 フフっと柔らかく笑い、九条は言う。

「おかげで、この歳になってようやく蜜月を過ごさせてもらっている。二十代の頃に戻った気分で、とても楽しいよ」

「――――でも、七海先輩の身体は……」

 言いかけた奏へ、九条は少し寂しそうに微笑んだ。

「それが、七海の望みだからね。私は下らない詮索をして、何年も棒に振ってしまった。だから、これからの毎日を彼と一緒に過ごしたいと思っている」

「理事長…………」

「それにね、私も楽しみなんだよ。私達の果てない夢だった愛の結晶が、形となって現れるのが」

「そう――ですか……」

「ああ。毎日顔を合わせ食事をして、車椅子の七海を連れて庭を散歩するんだ。私はそれだけでも幸せだ。子供は……無事に育つかどうかは天に任せようと思う……」

 七海にプレッシャーを掛けたくない。

 ただ、幸せな夢を見ながら送ってやりたい――――。

 九条の言葉に、奏は涙を堪えながら口を開いた。

「――――全身全霊で、僕は七海先輩のサポートを最期の一瞬までします。必ず、あなた達の夢を叶えてみせます。それが、僕の……恩返しですから」

 絞り出すような声で語られた奏の誓約に、九条は目を細める。


「君は、とても……いい子だな」


 そう、七海と同じ事を言い、九条はそっと微笑んだ。



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

恋なし、風呂付き、2LDK

蒼衣梅
BL
星座占いワースト一位だった。 面接落ちたっぽい。 彼氏に二股をかけられてた。しかも相手は女。でき婚するんだって。 占い通りワーストワンな一日の終わり。 「恋人のフリをして欲しい」 と、イケメンに攫われた。痴話喧嘩の最中、トイレから颯爽と、さらわれた。 「女ったらしエリート男」と「フラれたばっかの捨てられネコ」が始める偽同棲生活のお話。

肩甲骨に薔薇の種(アルファポリス版・完結済)

おにぎり1000米
BL
エンジニアの三波朋晴はモデルに間違われることもある美形のオメガだが、学生の頃から誰とも固定した関係を持つことができないでいる。しかしとあるきっかけで年上のベータ、佐枝峡と出会い、好意をもつが… *オメガバース(独自設定あり)ベータ×オメガ 年齢差カプ *『まばゆいほどに深い闇』の脇キャラによるスピンオフなので、キャラクターがかぶります。本編+後日談。他サイト掲載作品の改稿修正版につきアルファポリス版としましたが、内容はあまり変わりません。

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

一軍男子と兄弟になりました

しょうがやき
BL
親の再婚で一軍男子と兄弟になった、平凡男子の話。

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】

紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※番外編を公開しました(2024.10.21) 生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。 ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。

ほたるのゆめ

ruki
BL
恋をすると世界が輝く。でもその輝きは身体を重ねるといつも消えてしまった。そんな蛍が好きになったのはオメガ嫌いのアルファ優人だった。発情したオメガとその香りを嫌悪する彼に嫌われないように、ひたすらオメガである事を匂わさないようにしてきた蛍は、告げることの出来ない思いに悩んでいた。 『さかなのみるゆめ』の蛍と(木佐)優人のお話です。時間軸的には『さかな・・・』のお話の直後ですが、本編主人公達はほとんど出てこないので、このお話だけでも楽しめるかと思います。けれど『さかな・・・』の方も読んで頂けると幸いです。

今からレンタルアルファシステムを利用します

夜鳥すぱり
BL
大学2年の鳴水《なるみ》は、ずっと自分がオメガであることを隠して生きてきた。でも、年々つらくなる発情期にもう一人は耐えられない。恋愛対象は男性だし、男のアルファに会ってみたい。誰でも良いから、定期的に安全に話し相手をしてくれる人が欲しい。でもそんな都合のいい人いなくて、考えあぐねた結果たどり着いた、アプリ、レンタルアルファシステム。安全……だと思う、評価も星5で良いし。うん、じゃ、お問い合わせをしてみるか。なるみは、恐る恐るボタンを押すが───。 ◆完結済みです。ありがとうございました。 ◆表紙絵を花々緒さんが描いてくださりました。カッコいい雪夜君と、おどおど鳴水くんです。可愛すぎますね!

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

処理中です...