インチキで破廉恥で、途方もなく純情。

亜衣藍

文字の大きさ
125 / 240
30

30-8

しおりを挟む
 正嘉の期待する――――意識を飛ばして悶え苦しむような、通常のオメガ男体のヒート現象は起こっていない。

 頭脳は正常で、完全にクリアーだ。

 奏が今この場で、誰かの精を欲しがって破廉恥に振舞うような要素は、何一つしてなかった。

 その身体からは強烈なフェロモンを発散してはいたが、奏本人には全く影響なく、平素のままだ。

 奏は少し苛立った様子で正嘉を見ると、ツンと別れの言葉を口にする。

「あなたが、いったい何を言いたいのは分かりませんが――――とにかく僕は、これからタクシーを呼んで、栄太さんの……馬淵さんの所へ行ってみます。それでは今度こそ、失礼します」

 奏はそう言うと、正嘉を無視して、ポケットから携帯電話を取り出しタクシーを呼ぼうとした。

 このつれない仕草に、正嘉はさすがに動揺する。

 これだけ甘い匂いをさせているのに、どうしてこのオメガは普通でいられるんだ? 

 こいつが男体の所為なのか? 

 いやしかし、何度か面白半分にオメガ男体を抱いた事もあるが、彼等も女体と同じだった。

 普段のオメガは、澄ました顔をしてアルファやベータと同格であるような顔をしているが、いざ発情すると見も世もなく悶え苦しみ、場も選ばずに股を開いては他人の体液を欲しがる淫乱だ。

 だからオメガとは、どうしようもないくらいにインチキで破廉恥な連中なのだと思っていたのに。

 肝心の、正嘉の運命である筈のオメガは――――全く正嘉を欲しがっていない。

(何故だ? どうしてだ? オレの方が先に――――)

――――限界が、来そうだ。

「待て! 」

 とうとう正嘉は、去ろうとする奏を自分から引き留めた。

 本来なら、奏の方から縋って来るのを悠々と待っている筈だったのに。

 忸怩じくじたる思いに内心で苦虫を潰しながら、正嘉は言う。

「非常に不本意だが、お前はオレの運命の番だ」

「えっ? 」

「ならば、そんな甘い匂いをさせているお前を――――これ以上、放っておくことは出来ない」

 正嘉はそう言うと、立ち去ろうとしていた奏の肩へと手を置いた。

「今のお前は、危険だ」

「――何の事ですか? 」

 言葉の意味が分からず、戸惑う奏へ、正嘉は告げる。

「そんなに甘い匂いを放っていては、野獣のようなベータや教養のないアルファが襲い掛かっても不思議じゃない。本当に、自覚がないのか? 」

――――言っているこっちの方が、もう理性を失いかけているのに。

 しかし奏は、本当に自覚など無い。

 今の自分が、どんなに甘いフェロモンを放ち男を挑発しているかなど、全く知りようもない。

 ただ不思議に思い、首を傾げるだけだ。

「さっきから一体、正嘉さまは何を仰っているのですか? 僕には理解出来ませんが…………」

「だから! 今のお前は、平凡で下らないオメガでありながら、どうしようもなく劣情を掻き立てる魔性な存在になってしまっているんだ。少しは、自覚を持て! 」

 正嘉の指摘に、奏は呆気にとられる。

「え――? な、なんですか、それは? 」

 奏は、今の自分がどんなに魅力的で蠱惑な雰囲気をかもしているかなど理解していない。

 彼にとっては、自分は普段と何も変わらない、平凡で凡庸なオメガ男体だという自覚しか持ち合わせていない。

 だから、正嘉が平静を装いながらも、どこか獰猛な雰囲気をまとい始めている事に不信感しか感じないのだ。

――――貞操の危機など、奏が感じ取る術もない。

 戸惑うばかりの奏に向かい、正嘉は叱責するように言葉を発した。

「お前が、今呼ぼうとしているタクシーの運転手が、もしも下卑なベータやアルファだったらどうする気だ!? そのままお前はどこかに連れ込まれて、強姦され兼ねないのだぞ! 」

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

オメガの僕が、最後に恋をした騎士は冷酷すぎる

虹湖🌈
BL
死にたかった僕を、生かしたのは――あなたの声だった。 滅びかけた未来。 最後のオメガとして、僕=アキは研究施設に閉じ込められていた。 「資源」「道具」――そんな呼び方しかされず、生きる意味なんてないと思っていた。 けれど。 血にまみれたアルファ騎士・レオンが、僕の名前を呼んだ瞬間――世界が変わった。 冷酷すぎる彼に守られて、逃げて、傷ついて。 それでも、彼と一緒なら「生きたい」と思える。 終末世界で芽生える、究極のバディ愛×オメガバース。 命を懸けた恋が、絶望の世界に希望を灯す。

最強βの俺が偽装Ωになったら、フェロモン無効なのに狂犬王子に求愛されました~前世武道家なので物理で分からせます~

水凪しおん
BL
前世は日本の武道家、今世は平民β(ベータ)のルッツ。 「Ωだって強い」ことを証明するため、性別を偽り「Ω」として騎士団へ入団した彼は、その卓越した身体能力と前世の武術で周囲を圧倒する。 しかし、その強さと堂々とした態度が仇となり、最強のα(アルファ)である第一王子・イグニスの目に止まってしまった! 「お前こそ俺の運命の番だ」 βだからフェロモンなんて効かないのに、なぜかイグニスの熱烈な求愛(物理)攻撃を受ける日々に突入!? 勘違いから始まる、武闘派β×最強王子のドタバタ王宮BLファンタジー!

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

今からレンタルアルファシステムを利用します

夜鳥すぱり
BL
大学2年の鳴水《なるみ》は、ずっと自分がオメガであることを隠して生きてきた。でも、年々つらくなる発情期にもう一人は耐えられない。恋愛対象は男性だし、男のアルファに会ってみたい。誰でも良いから、定期的に安全に話し相手をしてくれる人が欲しい。でもそんな都合のいい人いなくて、考えあぐねた結果たどり着いた、アプリ、レンタルアルファシステム。安全……だと思う、評価も星5で良いし。うん、じゃ、お問い合わせをしてみるか。なるみは、恐る恐るボタンを押すが───。 ◆完結済みです。ありがとうございました。 ◆表紙絵を花々緒さんが描いてくださりました。カッコいい雪夜君と、おどおど鳴水くんです。可愛すぎますね!

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】

紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※番外編を公開しました(2024.10.21) 生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。 ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。

一軍男子と兄弟になりました

しょうがやき
BL
親の再婚で一軍男子と兄弟になった、平凡男子の話。

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

処理中です...