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素知らぬふりをしていたが、怪しい臭いがプンプンする。
(委員会に申し出て、九条の横暴を訴えるか――――それとも、違う手を考えるか)
正嘉はずっとその事を考えていて、不機嫌であった。
だから尚更、馬淵という低俗なベータ等には構っていられないと判断する。
彼にとっては、奏の過去の男など興味もないのだから。
(運命でさえ無かったら、あんな――――特別美しいワケでもない男オメガなど、眼中にも入らないのにな)
全く、忌々しい事だ。
奏が運命の番と分かってからは、あの平凡な顔が脳裏に浮かんできて仕方がない。
イライラする!
「――――あの、青柳さま……それでは折り返しまた――」
「……何だ、まだいたのか? 」
物思いに沈んでいた正嘉は、一瞬周囲に人物がいる事を失念していた。
伺うようにこちらを見ている吉川と八木沢に気付き、犬を追い払うようにパパっと手を振る。
「今日だけ20時まで空けておいてやる。とにかく、馬淵を連れて来い。話はそれからだ」
正嘉の態度に眉をひそめながら、2人は退出して行った。
それを見遣りながら、第一秘書の蟇目が気掛かりそうに声を掛ける。
「よろしいのですか? 」
「何がだ? 」
「その――――お相手は、結城奏さまの元番ですし。もしも正嘉さまに害意を向けてきたら――――」
「ああ、そんな事か」
クスリと笑い、正嘉は明け透けな物言いをする。
「オレは、ヤツにとっては恋人を寝取った男になるワケか。難い恋敵という事だな? 」
「は、はい……」
「下らん」
正嘉はにべもなくそう吐き捨てると、この世で一番愛しい筈の番を罵倒した。
「オメガの男は、皆、インチキで破廉恥な連中だ。ベータの馬淵も、やがてはオレに感謝するだろう。あんな破廉恥野郎を引き受けてくれてありがとう、とな」
主人の言葉に、秘書の蟇目は何も言い返せずに、曖昧な笑みを浮かべる。
「そうですか――――では、本日のスケジュールは如何いたしましょう? 先程仰っていた通り、20時までの予定はキャンセルでいいですか? 」
「ああ。その後は、もう入れるな」
「は……しかし、九条恵美さまからお電話がありましたが――」
「何? あの女には用はない。二度と取り次ぐな」
「しかし……」
「第一、もう二度と接触するなと念書を書かせたのは兄の九条凛だぞ。それを、あの女は何を考えているのか――――まったく、呆れる話だな」
正嘉は不愉快そうに言うと、背もたれに深く背中を預けた。
そして、考えないようにしながらも……また、奏の事を考える。
不細工ではないが、美しいというには至らない容姿の青年だった。
オメガの男体は美貌が多いというが、奏はそれには当て嵌まらない平凡な顔だろう。
しかし、耳に優しい声は心地のいい方だと思う。
それに、怯えた小動物のように震えながらも、自分の意思はしっかりと表すところは意外に気に入った。
誰も彼も、アルファの中のアルファと……良くも悪くも評されている正嘉の正体を知ると、機嫌を卑屈に伺うか、反対に、やたらと攻撃的になって向かって来るかのどちらかだった。
その中で、例え正嘉を拒むような態度であろうと、奏の率直な反応は好感が持てた。
これこそが、運命の番だと直感した。
だが、だからといって、どうすればいいのか?
初めて会った時は、正嘉はまだ十にもならぬ子供だった。
次に出会った時は、青柳の家庭は完全に冷え切り、義母と父との確執が激しかった頃で……やはりまだ正嘉自身、善悪の判断も曖昧な少年であった。
しかし、今回三度目の出会いは、違う。
正嘉は、堂々とした二十歳の青年となっていた。
どこの誰と番おうと、もう誰も文句は言わせない。
これまで、周囲の進めるまま言われるままに、正嘉にとって案山子くらいの認識しかないような奴等と付き合ってきた。
(委員会に申し出て、九条の横暴を訴えるか――――それとも、違う手を考えるか)
正嘉はずっとその事を考えていて、不機嫌であった。
だから尚更、馬淵という低俗なベータ等には構っていられないと判断する。
彼にとっては、奏の過去の男など興味もないのだから。
(運命でさえ無かったら、あんな――――特別美しいワケでもない男オメガなど、眼中にも入らないのにな)
全く、忌々しい事だ。
奏が運命の番と分かってからは、あの平凡な顔が脳裏に浮かんできて仕方がない。
イライラする!
「――――あの、青柳さま……それでは折り返しまた――」
「……何だ、まだいたのか? 」
物思いに沈んでいた正嘉は、一瞬周囲に人物がいる事を失念していた。
伺うようにこちらを見ている吉川と八木沢に気付き、犬を追い払うようにパパっと手を振る。
「今日だけ20時まで空けておいてやる。とにかく、馬淵を連れて来い。話はそれからだ」
正嘉の態度に眉をひそめながら、2人は退出して行った。
それを見遣りながら、第一秘書の蟇目が気掛かりそうに声を掛ける。
「よろしいのですか? 」
「何がだ? 」
「その――――お相手は、結城奏さまの元番ですし。もしも正嘉さまに害意を向けてきたら――――」
「ああ、そんな事か」
クスリと笑い、正嘉は明け透けな物言いをする。
「オレは、ヤツにとっては恋人を寝取った男になるワケか。難い恋敵という事だな? 」
「は、はい……」
「下らん」
正嘉はにべもなくそう吐き捨てると、この世で一番愛しい筈の番を罵倒した。
「オメガの男は、皆、インチキで破廉恥な連中だ。ベータの馬淵も、やがてはオレに感謝するだろう。あんな破廉恥野郎を引き受けてくれてありがとう、とな」
主人の言葉に、秘書の蟇目は何も言い返せずに、曖昧な笑みを浮かべる。
「そうですか――――では、本日のスケジュールは如何いたしましょう? 先程仰っていた通り、20時までの予定はキャンセルでいいですか? 」
「ああ。その後は、もう入れるな」
「は……しかし、九条恵美さまからお電話がありましたが――」
「何? あの女には用はない。二度と取り次ぐな」
「しかし……」
「第一、もう二度と接触するなと念書を書かせたのは兄の九条凛だぞ。それを、あの女は何を考えているのか――――まったく、呆れる話だな」
正嘉は不愉快そうに言うと、背もたれに深く背中を預けた。
そして、考えないようにしながらも……また、奏の事を考える。
不細工ではないが、美しいというには至らない容姿の青年だった。
オメガの男体は美貌が多いというが、奏はそれには当て嵌まらない平凡な顔だろう。
しかし、耳に優しい声は心地のいい方だと思う。
それに、怯えた小動物のように震えながらも、自分の意思はしっかりと表すところは意外に気に入った。
誰も彼も、アルファの中のアルファと……良くも悪くも評されている正嘉の正体を知ると、機嫌を卑屈に伺うか、反対に、やたらと攻撃的になって向かって来るかのどちらかだった。
その中で、例え正嘉を拒むような態度であろうと、奏の率直な反応は好感が持てた。
これこそが、運命の番だと直感した。
だが、だからといって、どうすればいいのか?
初めて会った時は、正嘉はまだ十にもならぬ子供だった。
次に出会った時は、青柳の家庭は完全に冷え切り、義母と父との確執が激しかった頃で……やはりまだ正嘉自身、善悪の判断も曖昧な少年であった。
しかし、今回三度目の出会いは、違う。
正嘉は、堂々とした二十歳の青年となっていた。
どこの誰と番おうと、もう誰も文句は言わせない。
これまで、周囲の進めるまま言われるままに、正嘉にとって案山子くらいの認識しかないような奴等と付き合ってきた。
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