163 / 240
37
37-3
しおりを挟む
奏は、愛していると言ってくれた栄太の言葉を信じて、自分も彼の事を愛して行こうと決意したのだから。
その信じようとした相手から、もしも軽蔑されたなら――奏はどうすればいいのか?
不安で不安で、仕方がない。
奏は、震える手で自分の下腹部を触る。
「僕の、このお腹の――まだ形にもなっていない赤ちゃんの父親だって、栄太さんに、本当はどっちかと問い詰められたら……僕は――――」
心細いような声で不安を口にする奏を、七海は同情したように見つめた。
七海も、奏と同じオメガだ。その心情は、よく分かる。
「……オレは、色々とハンデのあるオメガの男体の身で、子供を体内に宿しただけでも大したものだと思うけれど……」
慰めの言葉を探しながらも、七海は溜め息をつく。
本来なら喜ばしい事なのに、返すがえずも、どうして奏の隣には頼りになる筈の番が寄り添っていないのだろうと思うと、悔しくて仕方がない。
いや、もしここに青柳正嘉が現われたら、奏の運命の番だろうが七海は決して許さないだろう。特製の猛獣撃退スプレーを吹き付けて、目がしばらく見えないような激痛を味合わせて十二分に痛めつけてやろうとさえ思う。
そしてまた、七海は、仕事の忙しいのを理由に奏の事をいつまでも放置している馬淵栄太も、やはり許せない。
スプレーは勘弁してやるが、必ず正座させて一時間以上は説教してやる。
本当に全く、どうしてこんなに一途で可愛い番を放っておけるのかと。
バカで無神経な男達には、本当に腹が立つ!
釣った魚には餌をやらないような男なら、お前には絶対に奏は渡さないと言ってやりたい。七海は、奏の兄弟でも親でもないが、そんな苛烈な言葉を馬淵栄太に叩き付けてやりたいと思う。
「奏――」
七海が、奏へまた何か言葉を掛けようとした時、コンコンと扉がノックされた。
「失礼します、奥様。お客様が訪ねていらっしゃいましたが」
「客? 」
いったい誰だろう?
七海の友人なら、必ず事前に電話かメールで連絡を入れる。
いきなり先方を訪ねるような真似などしない。
「名前は? 」
「その……馬淵栄太さんと仰る方です。結城奏さんはこちらですかと」
(やっとか! )
七海は呆れ、奏を振り返る。
「奏――」
『良かったな』という言葉を掛けようとしたが、それは途中で引っ込んだ。
奏の顔色は、蒼白だ。
やっと番が来てくれたことへの安堵と、正嘉によって『番の上書き』をされた事の負い目。そして何より、ブースターを使ってセックスした事により、受胎を可能にはしたが…………その胤は、いったい栄太と正嘉のどちらなのかがまだ判別できないという懊悩。
これだけの事共を、どう栄太に説明すればいいのか。
それを考えると、奏はとても喜ぶ気分にはなれない。ただ、恐怖に凍り付く。
「な、七海先輩……ぼ、ぼ、僕は…………」
カタカタと震える奏を安心させようと、七海は優しく声を掛けた。
「大丈夫だ、落ち着け。…………どうする? まだ気分が悪いようなら――――今日は馬淵には帰ってもらって、会うのはまた後日にしてもらうか? 」
「――――い、いいえ! お仕事が忙しいのに、きっと無理をしてここを訪ねてくれたに違いないから……会います」
青い顔をしながら、それでも奏は気丈に言った。
(そうだ! この事は、いつまでも黙っていられない事なんだし、早めに知らせるに越したことはない。栄太さんだって、隠される方がイヤに違いないよ)
勇気を出して、この首に刻まれた傷の説明をしようと思う。
抵抗したけれど、力の差が歴然としていて――――逆らえなかった。
『番の上書き』なんて、奏はされたくなかった。
だけど、抵抗虚しく噛み付かれ、そのショックで倒れてしまい…………気が付いたら、一人でマンションのベッドに転がっていた。
残されていたのはハンカチが一枚だけだったが、覚えのある残り香に、それが正嘉のものだと直ぐに分かった。
その信じようとした相手から、もしも軽蔑されたなら――奏はどうすればいいのか?
不安で不安で、仕方がない。
奏は、震える手で自分の下腹部を触る。
「僕の、このお腹の――まだ形にもなっていない赤ちゃんの父親だって、栄太さんに、本当はどっちかと問い詰められたら……僕は――――」
心細いような声で不安を口にする奏を、七海は同情したように見つめた。
七海も、奏と同じオメガだ。その心情は、よく分かる。
「……オレは、色々とハンデのあるオメガの男体の身で、子供を体内に宿しただけでも大したものだと思うけれど……」
慰めの言葉を探しながらも、七海は溜め息をつく。
本来なら喜ばしい事なのに、返すがえずも、どうして奏の隣には頼りになる筈の番が寄り添っていないのだろうと思うと、悔しくて仕方がない。
いや、もしここに青柳正嘉が現われたら、奏の運命の番だろうが七海は決して許さないだろう。特製の猛獣撃退スプレーを吹き付けて、目がしばらく見えないような激痛を味合わせて十二分に痛めつけてやろうとさえ思う。
そしてまた、七海は、仕事の忙しいのを理由に奏の事をいつまでも放置している馬淵栄太も、やはり許せない。
スプレーは勘弁してやるが、必ず正座させて一時間以上は説教してやる。
本当に全く、どうしてこんなに一途で可愛い番を放っておけるのかと。
バカで無神経な男達には、本当に腹が立つ!
釣った魚には餌をやらないような男なら、お前には絶対に奏は渡さないと言ってやりたい。七海は、奏の兄弟でも親でもないが、そんな苛烈な言葉を馬淵栄太に叩き付けてやりたいと思う。
「奏――」
七海が、奏へまた何か言葉を掛けようとした時、コンコンと扉がノックされた。
「失礼します、奥様。お客様が訪ねていらっしゃいましたが」
「客? 」
いったい誰だろう?
七海の友人なら、必ず事前に電話かメールで連絡を入れる。
いきなり先方を訪ねるような真似などしない。
「名前は? 」
「その……馬淵栄太さんと仰る方です。結城奏さんはこちらですかと」
(やっとか! )
七海は呆れ、奏を振り返る。
「奏――」
『良かったな』という言葉を掛けようとしたが、それは途中で引っ込んだ。
奏の顔色は、蒼白だ。
やっと番が来てくれたことへの安堵と、正嘉によって『番の上書き』をされた事の負い目。そして何より、ブースターを使ってセックスした事により、受胎を可能にはしたが…………その胤は、いったい栄太と正嘉のどちらなのかがまだ判別できないという懊悩。
これだけの事共を、どう栄太に説明すればいいのか。
それを考えると、奏はとても喜ぶ気分にはなれない。ただ、恐怖に凍り付く。
「な、七海先輩……ぼ、ぼ、僕は…………」
カタカタと震える奏を安心させようと、七海は優しく声を掛けた。
「大丈夫だ、落ち着け。…………どうする? まだ気分が悪いようなら――――今日は馬淵には帰ってもらって、会うのはまた後日にしてもらうか? 」
「――――い、いいえ! お仕事が忙しいのに、きっと無理をしてここを訪ねてくれたに違いないから……会います」
青い顔をしながら、それでも奏は気丈に言った。
(そうだ! この事は、いつまでも黙っていられない事なんだし、早めに知らせるに越したことはない。栄太さんだって、隠される方がイヤに違いないよ)
勇気を出して、この首に刻まれた傷の説明をしようと思う。
抵抗したけれど、力の差が歴然としていて――――逆らえなかった。
『番の上書き』なんて、奏はされたくなかった。
だけど、抵抗虚しく噛み付かれ、そのショックで倒れてしまい…………気が付いたら、一人でマンションのベッドに転がっていた。
残されていたのはハンカチが一枚だけだったが、覚えのある残り香に、それが正嘉のものだと直ぐに分かった。
0
あなたにおすすめの小説
オメガの僕が、最後に恋をした騎士は冷酷すぎる
虹湖🌈
BL
死にたかった僕を、生かしたのは――あなたの声だった。
滅びかけた未来。
最後のオメガとして、僕=アキは研究施設に閉じ込められていた。
「資源」「道具」――そんな呼び方しかされず、生きる意味なんてないと思っていた。
けれど。
血にまみれたアルファ騎士・レオンが、僕の名前を呼んだ瞬間――世界が変わった。
冷酷すぎる彼に守られて、逃げて、傷ついて。
それでも、彼と一緒なら「生きたい」と思える。
終末世界で芽生える、究極のバディ愛×オメガバース。
命を懸けた恋が、絶望の世界に希望を灯す。
最強βの俺が偽装Ωになったら、フェロモン無効なのに狂犬王子に求愛されました~前世武道家なので物理で分からせます~
水凪しおん
BL
前世は日本の武道家、今世は平民β(ベータ)のルッツ。
「Ωだって強い」ことを証明するため、性別を偽り「Ω」として騎士団へ入団した彼は、その卓越した身体能力と前世の武術で周囲を圧倒する。
しかし、その強さと堂々とした態度が仇となり、最強のα(アルファ)である第一王子・イグニスの目に止まってしまった!
「お前こそ俺の運命の番だ」
βだからフェロモンなんて効かないのに、なぜかイグニスの熱烈な求愛(物理)攻撃を受ける日々に突入!?
勘違いから始まる、武闘派β×最強王子のドタバタ王宮BLファンタジー!
【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】
彩華
BL
俺の名前は水野圭。年は25。
自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで)
だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。
凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!
凄い! 店員もイケメン!
と、実は穴場? な店を見つけたわけで。
(今度からこの店で弁当を買おう)
浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……?
「胃袋掴みたいなぁ」
その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。
******
そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。
今からレンタルアルファシステムを利用します
夜鳥すぱり
BL
大学2年の鳴水《なるみ》は、ずっと自分がオメガであることを隠して生きてきた。でも、年々つらくなる発情期にもう一人は耐えられない。恋愛対象は男性だし、男のアルファに会ってみたい。誰でも良いから、定期的に安全に話し相手をしてくれる人が欲しい。でもそんな都合のいい人いなくて、考えあぐねた結果たどり着いた、アプリ、レンタルアルファシステム。安全……だと思う、評価も星5で良いし。うん、じゃ、お問い合わせをしてみるか。なるみは、恐る恐るボタンを押すが───。
◆完結済みです。ありがとうございました。
◆表紙絵を花々緒さんが描いてくださりました。カッコいい雪夜君と、おどおど鳴水くんです。可愛すぎますね!
【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】
紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。
相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。
超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。
失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。
彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。
※番外編を公開しました(2024.10.21)
生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。
※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる