インチキで破廉恥で、途方もなく純情。

亜衣藍

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「どうしました? 何か考え込んでいたようですが……? 」

 不安そうに首を傾げて訊いて来る奏に、栄太はゆっくりと首を振った。

「いや……何でもない。ちょっと――……思い知っただけだ」

思い知る・・・・・? 」

 奏は、そのセリフに戸惑う。

 しかし栄太は詳しい説明はせずに、ベッドサイドで待機しながらこちらを睨んでいる、車椅子の七海へ声を掛けた。

「申し訳ありませんが、七海さん。……少し席を外してください」

「なに? 」

「少し、私と奏くんの2人にさせて欲しいのですが」

「お前、奏に何を――」

「七海先輩っ」

 奏は七海の言葉を遮ると、安心させるように青白い顔でちょっと微笑んだ。

「すみません、ちょっとだけ栄太さんとお話をさせて下さい」

「奏……」

 奏にそう言われては、七海も引くしかない。

 気掛かりそうにしながらも、七海は短く『分った』と呟き車椅子を移動させる。
去り際にチラリと振り返りながら、

「もしも何かあったら、そこのブザーで直ぐに呼ぶんだぞ」

 そう告げて、退室して行った。

   ◇

「栄太さん、来てくれて…………ありがとうございます」



 二人きりになると、改めて奏はそう礼を言った。

 栄太は以前、馬淵の家からは独立してもいいと奏に言っていたが、どうやら彼の中では『馬淵家』と『馬淵コーポレーション』は別の意味を持つようだ。

 栄太みずからが一から立て直した会社は、彼にとって最も大切な生き甲斐の一つなのだろう。

 それならば、会社につめっきりになるのも致し方ない。

 本音を言えば、何よりも番である自分を優先してほしいが……きっとそれは、奏の我が儘なんだろうと、思う事にした。

(でも、僕……あれから色々あって、本当に大変だったんです。栄太さんも会社が大変だろうけど、僕だって…………)

 いっぱい、聞いてほしい。

 お腹に宿ろうとしている命の存在を、一緒になって喜んでほしい。

 そして、よくぞ一人で頑張ったと言って慰めてほしい。

 番に、縋り付いて甘えたい――――その言葉を呑み込んで、奏は健気に微笑んだ。

「会社の方、目処が付いたんですね? 」

「え? 」

「しょう――いえ、ある人から、栄太さんの会社がとても大変だと聞いていましたから。馬淵コーポレーションが会社更生法を申請するとかしないとか。そんな中で、三日前も僕の為に駆け付けてくれたし、今も、こうして……僕の元を訪ねて来てくれた」

 今、奏が『しょう』と言い掛けた名前が『正嘉』なのだろうと察し、栄太の心には影が差す。

 だが、奏がそれを知る筈がない。頬を染めながら、続けて口にする。

「会社、大丈夫になったんですね? 」

 可憐に微笑みながら、奏はそっと栄太へ手を差し出す。

「そんな遠くじゃなくて、もっと近くに来てください」

「――――奏……」

「僕、栄太さんに……良い事と、悪い事の二つを伝えなければなりません。あなたの眼を見ながら、僕はそれらを伝えたい」

 勿論、良い事は子宮に着床を確認した事だ。

 どちらの胤かはまだ判別は付かないが、いずれにせよ奏の子供だ。

 きっと栄太は喜んでくれると思う。

 悪い事は――――アルファの正嘉によって『番の上書き』をされてしまった事だ。

 だがしかし、これも栄太と一緒なら乗り越えられると思う。

 何故なら、栄太と奏は相思相愛で愛し合っているのだから!

 そこに正嘉が割り込もうとしても、2人で協力して断固として戦えば……必ず打ち勝つことが出来る筈だ。
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