インチキで破廉恥で、途方もなく純情。

亜衣藍

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「それは、僕が……途中で帰るようにと追い出したので……」

 正嘉に借りなど作りたくなかった奏は、青柳から遣わされたという人手を断り、あとは全部自分でやるからもう結構だと言って強引に帰したのだ。

 これから先は、全て自分の手で行うと意地になっていた奏は、本当に全てを、自分だけで片付けようとしていた。

……その結果、今はとんでもなく疲労困憊している。

 そんな状態にもかかわらず、気力を振り絞って、研究所にも出勤して仕事を強行していたが――――これでは、確かに胎教に良くないだろう。

 ただでさえ、オメガ男体の妊娠初期は危ういと聞いている。

 薬科が専門の奏にとっては、婦人科は専門外なので詳しくはないが、奏にもそれくらいの知識はある。

 この強行軍は自滅行為だろう。

 七海だって…………哀しいことになってしまったのだ。

 安定期に入るまでは、オメガ男体は決して無理をしてはならないのが鉄則だ。

(僕だけの身体じゃない、か……)

 妊娠した自覚が薄いせいで、おのれの意地を通す事ばかりに固執していたが、新たに宿った命の事を思えば――――こんな強行軍など愚の骨頂だろう。

 今更ながらそう自覚すると、奏は深い溜め息を吐いた。

「僕は、もう少し……人に頼る努力もしないと、いけないのかもしれませんね……」

 素直に、少し反省したように目を伏せる奏に、正嘉は――よくよく観察しないと分からない程度の変化だったが、微かに、安心したようにんだ。

「――――それでは、医者を呼んでもいいか? 」

「医者は……結構です。本当にただの疲労ですから、このまま休息を取れば大丈夫です」

 やんわりと断ると、奏は大人しくベッドに身を横たえたまま、すぅっと瞳を閉じた。

 奏は、あまり、他人に身体を見られたり触られたりするのを好まない。

 それが例え普通の医師であろうとも、極力診られるのは避けていた。

 新薬の研究に絡み、自分の身体も被検体として登録していたが――――診察は自身で行い、データだけを公表している状態だ。

 奏の身体の詳しい診察は、極々一部の、親密な仲間のオメガだけで行っている。

――――どうして、そんなに警戒するのか?

 それは、奏の、過去のトラウマが原因である。

 奏が初めて発情に陥ったとき『気絶ヤギファインディング・ゴート』の症状が全身を襲った。

 激痛で身体が自由に動かせなくなり、彼は床に転がって悶絶する事態になったのだ。

 息も出来ぬほどに、とても苦しかったのに……それをいいことに、居合わせたベータの男から危うく暴行を受けそうになった苦い記憶がある。

 それ以来奏は、自分の肌を、知らない相手へ晒すことに怯えている。

 今まで彼は、そんな内心の怯えを隠しながら――――栄太に抱かれていたのだ。

 栄太は、断じて行きずりの男ではない。

 奏の事を理解して、その上で身体を求めてくれている優しい男だった。

 心も――欲しがってくれた。

 だから、肌を晒して抱き合うのは死ぬほど恥ずかしくて怖いけれども、可能な限りそれに応えようと、奏は今まで努力して頑張ってきた。

 自分を愛してくれている栄太の希望に出来るだけ応えようと、七海から試薬ブースターまでもらって……。

 そこで、奏はハッとした。

 奏は、栄太を愛していた――……愛そうとしていた・・・・・・・・

 栄太が、一生懸命に奏へ愛情を示すので、奏もそれを受けて……努力して返そうとした。
 
 彼と同じように、自分も同等に相手を愛そうとしていた。

 今まで奏は、親からも兄弟からもかえりみられず愛されなかったから。

 だから栄太が、奏を愛しているということに本当に感動して、感謝した。

 それで奏は、恩返しをするような気持ちで栄太を受け入れ……愛そうとした。

 栄太が望むから、何としても子を身籠ろうと足掻いた。

 真っ直ぐな栄太の気持ちが嬉しくて好きだったが、それよりも、彼に対する気持ちは感謝の方が先行していた。

(こんな、誰からも愛されなかった僕を……愛してくれてありがとう。だから、僕もあなたを愛するように努力・・・・・・・します)


 5年ものあいだ、一途に奏を想っていてくれていたのが嬉しかったから……栄太を受け入れたのだ。
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