インチキで破廉恥で、途方もなく純情。

亜衣藍

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(僕は……)

 奏は、自分の心情がどうにもスッキリしなかった原因に気付き、眉根を寄せた。

 栄太を、本当の意味で愛していたのではなかった……。

 彼の気持ちが嬉しかったから、精一杯に愛そうと努力していたのだ。

 自分の心も偽って、捻じ伏せて、栄太の気持ちに応えようとしていた。

 なんて、あさましく不誠実な動機だろう。

 生まれて初めて告白されたのが嬉しくて、心も身体も全部を誤魔化して有頂天になっていただけなんて。

「――正嘉さま」

「なんだ? 」

「僕は、正嘉さまの言う通りの下等なオメガなのかもしれません。僕は、インチキで破廉恥で……」

 だが、その続きは塞がれた。

 正嘉が、小鳥のキスのような口づけを、奏の額へ落としたからだ。

 そうして、正嘉は静かに囁くように言う。

「――――オレは、オメガに対して偏見があったようだ。お前を見ていると、自分の考えが間違っていたのだと認めるしかない」

 奏は、正嘉の知るそれまでのオメガと違って、アルファやベータに依存する事を強固に嫌っている。

 常に自立しようと努力しているし、真面目に新薬研究にも取り組んでいる。

 発情期を言い訳にして面倒事から逃げようとする様子はないし、何かしらのほどこしや免除を受ける事も拒否している。

 興信所を使って調べるまでもない。

 これだけしっかりと自分の立ち位置を意識して、必死に頑張ろうとしている奏を見ていると、否応なく彼の為人ひととなりが分かるというものだ。

「お前は、途方もなく純情だ。心は真っ白で、穢れなど無い」

「そんな――」

「もう、寝ろ。ケイタリングは、あとでレンジで温めて食え。本当なら、医者を手配しておきたいが……嫌なんだろう? 」

 コクリと頷くと、正嘉はそれ以上は言わなかった。

 ただ、代わりに違う事を口にする。

「明日……11時頃に、また様子を見に来る。その時の調子次第で、研究所に行くかどうか改めて判断しよう。無理そうなら、明日一杯は休息を取る事――それでいいか? 」

「――はい」

「よし」

 そう言うと、今度はハッキリと分かるくらいに正嘉は微笑んだ。

 その端正で綺麗な顔を見上げながら、奏はふと気づく。

(そうだ――今、正嘉さまがこうやって僕に優しくしてくれているのは……正嘉さまの子・・・・・・が、僕のお腹にいるからなのかも)

 栄太の子を宿そうと試薬ブースターを試みたものの、偶然遭遇したこの正嘉に『番の上書き』をされて――――記憶は定かではないが、その後に抱かれてしまったらしいのだ。
 
 アルファに『番』にされてしまったら、もう違う男とは番えなくなる。

 全身が番以外の男を拒否してしまうからだ。

 それでも奏は、遅れて到着した栄太の為に死に物狂いで耐えて、栄太とセックスをしたが。そうして念願叶って妊娠はしたものの――――十中八九、子供は正嘉の胤・・・・・だろう。

……そう言い残して、栄太は去って行ったのだから。

(正嘉さまは、僕のお腹に自分の子が宿ったから……だからこんなに僕に優しいんだね)

――――僕が好きなんじゃない。僕が、彼の子を身籠ったから――……。

 ようやく納得して、奏は息をついた。

「正嘉さまは――やっぱりそういう下心があったんですね……」

「何の事だ? 」

「ううん……いいんです。それを分かっていても、僕はあなたを許してしまうだろうから」

 それだけ、番の力は強くなってしまっている。

 ましてや、正嘉は奏の『運命の番』だったのだから。

 しかし、突然の事故のように正嘉の番になったが、彼の親族は果たして奏を認めてくれるのだろうか? 

 オメガ男体の花嫁を、祝福してくれるのだろうか?

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