インチキで破廉恥で、途方もなく純情。

亜衣藍

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「……まだ眠っていた方が良い」

「ありがとう――でも、動いている方が気が紛れるんだ」

 気遣わし気に肩へ置かれた手の上に、七海はやんわりと自分の手を重ねてそう言った。

 かつて薔薇の花と称えられた麗しいその美貌は、やつれて痛々しい程だ。

 大輪の薔薇のように輝いていた彼は、今は病み衰え、蜻蛉のように儚く脆いように見える。

 長年に渡る愛憎と葛藤、それらを経てようやく番になったのだが、伴侶となった二人には、一緒に居られる時は残酷なほどに短い。

 それでは、せめてもと――――一縷の望みを懸けて儲けた子さえも、今はもう消えてしまった。七海もショックだったが、当然、彼の伴侶となった九条も衝撃を受けていた。

 いや、もしかしたら、これから先『番』を失って生きて行かねばならない九条の方が、悲惨なのかもしれない。

 九条の、貴族のように端麗だったおもてには、深い苦悩のあとが見て取れた。

「七海――頼むから、もうこれ以上無茶はしないでほしい。新薬開発は、もう奏くん達に任せて……」

「うん。九条の言いたい事は分かるよ。昨夜、奏と連絡を取った時も、同じ事を言われたし。でも、これは――最期のオレのケジメだから」

 微かに笑うと、七海はデータを纏めた資料を揃え、研究所へ出向く用意を進める。

 そんな七海へ、九条は慟哭するような悲壮な声で言い募った。

「七海! 君の身体は流産したばかりでダメージが残っているんだぞ。それを――」

「ゴメン。でも、実験動物の生体反応は、どうしてもこの目で確認しないと。オレが直接研究所へ行くのは、今回が最後だから……」

「しかし――」

 と、その時、執事が何やら慌てた様子で声をかけてきた。

「あの、旦那様。お客様がお見えですが……」

「客? 私は、しばらくは誰とも会わないから、キャンセルしてくれと伝えたはずだが」

「いえ、それが――旦那様と、奥様のお二人・・・にお会いしたいと」

 九条はともかく、七海にも?

 訝し気な表情で、九条は問う。

「それはいったい、何者だ? 」

「青柳正嘉さまと――――もう一方は馬淵栄太さまと名乗っております。取り敢えず、応接間へご案内致しましたが……」

 正嘉の方は以前もここへ来たことがあるので、執事やメイドは見知った存在だ。

 なので、躊躇ためらいつつも中へ通したらしい。

「青柳と、馬淵だと……」

 二人が、奏を巡って険悪な関係であろう事は、容易に察する事ができる。

 それが、どうして一緒にいるのだ? 

 普通ではないのは明白だ。

「……分かった。では、私が一人で会おう」

 そう返事をした九条に「オレも行く」と、七海が口を挟んできた。

「あいつらが二人一緒という事は、何か奏に関する話だろう。それなら、オレも気になる」

「しかし――」

 七海が、二人に対して悪い印象を抱いている事はよく分かっている。

 そんな状態で、冷静に話など聞けるものだろうか?

 躊躇う九条であったが、動いたのは七海の方が早かった。

 七海を乗せた車椅子はスーッと動いて、率先するように部屋から出て行く。 

「まったく、君は……」

 九条は嘆息しながら、あとに続いた。
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