222 / 240
45
45-2
しおりを挟む
「奏が――日本には居たくない、と……」
七海はその言葉をなぞると、ふと顔を上げた。
「今、奏はここにいるのか? 」
「ええ、いますよ」
「では、会わせてくれ」
「それは構わないのですが……しかし先程も結城博士にお話を伺ったところ、『七海先輩とも会いたくない』と言う始末で。私も困惑しているのです」
「オレとも会いたくない、だと? 」
それは大変だ。
奏は、相当錯乱しているとみて間違いない。
(無理もないな……可哀想に……)
七海は俯いてキュッと唇を噛むと、円子へ再び視線を戻す。
「いいから、黙って案内しろ! 」
強い口調で言う七海に肩をすくめて、円子は九条に『どうします? 』と、目線で合図を送った。
すると、九条は嘆息しながら「彼の言う通りにしてほしい」と答えた。
「何にせよ、ちゃんと膝を突き合わせて話しをしない事には答えなど出ない。私は、七海のやりたいこと全てを、出来るだけサポートするつもりだ。だから……」
「オーケイ、分かりましたよ」
円子は両手を肩まで上げると、降参だというように溜め息をついた。
「――――どちらにせよ、こっちは有能なブレーンさえ据えてくれれば満足な話です。日本側と揉める気はないので、出来るだけスムーズに話を進めてほしいですね。言っておきますが、なにも我々は人攫いをする気はないのですから」
拉致監禁など、そもそもリスクが高過ぎる。
無頼な真似など、したくはないのが本音である。
A.Kアジア支部の代表を務める円子としては、可能な限り穏便に話を進めたい。
「それでは、あちらの別棟へどうぞ。彼は、特別室で休息を取ってもらっています。残念ですが、その――」
「流産して気落ちしているのだろう? ……流産と言っても……まだ人の形も成していなかっただろうが……」
奏の子宮に着床を確認したのは、つい先日だ。
具体的に子供の話をするには、まだ早い段階であった。
それでも、産まれてくる我が子の事を想い、奏は様々な夢想をしたであろうが。
(可哀想に……番が傍でしっかりと支えてやるのが本当なのに、あんな頼りにもならないような馬鹿野郎どもが相手では――――奏が気の毒としか言いようがない)
七海の中では、栄太も正嘉も最悪の部類に入る男だ。
あんなに素直で純情な奏を身勝手に翻弄し、悲しませるなど以ての外だ。
(誰が何と言おうと、オレは絶対に許さない)
悔し気にギリリと歯を食いしばる七海を見遣りながら、九条は小さく『仕方がないな』と溜め息をついていた。
◇
「奏っ! 」
「七海先輩……」
杖をつきながら歩み寄る七海を見上げ、奏は、真っ赤に泣きはらした目に再び涙をためた。
「先輩、車椅子は……歩いても大丈夫なんですか……? 身体は――」
「オレの事より、お前の方だ。奏、なんて可哀想に……」
七海も目を潤ませながら、ベッドに上体を起こす奏をひしっと抱き締めた。
「――――聞いたよ。悲しい事になってしまったね」
「はい……」
優しい七海の言葉に、また涙が止まらなくなる。
「ぼ、僕のせいなんです……もっと、ちゃんと身体の事を考えないとダメだったのに……それなのに、無茶ばっかりして。馬鹿だから、徹夜なんかして……」
「お前のせいじゃない」
七海はそう言い、奏を抱き締める腕に力を入れる。
「馬淵栄太と、青柳正嘉が悪いんだ。あいつらは、ただの我が儘なガキだ。自分の我ばかり押し通そうとして、肝心のお前の事は考えもしない。まったく、どうしようもない男共だ! 」
七海はその言葉をなぞると、ふと顔を上げた。
「今、奏はここにいるのか? 」
「ええ、いますよ」
「では、会わせてくれ」
「それは構わないのですが……しかし先程も結城博士にお話を伺ったところ、『七海先輩とも会いたくない』と言う始末で。私も困惑しているのです」
「オレとも会いたくない、だと? 」
それは大変だ。
奏は、相当錯乱しているとみて間違いない。
(無理もないな……可哀想に……)
七海は俯いてキュッと唇を噛むと、円子へ再び視線を戻す。
「いいから、黙って案内しろ! 」
強い口調で言う七海に肩をすくめて、円子は九条に『どうします? 』と、目線で合図を送った。
すると、九条は嘆息しながら「彼の言う通りにしてほしい」と答えた。
「何にせよ、ちゃんと膝を突き合わせて話しをしない事には答えなど出ない。私は、七海のやりたいこと全てを、出来るだけサポートするつもりだ。だから……」
「オーケイ、分かりましたよ」
円子は両手を肩まで上げると、降参だというように溜め息をついた。
「――――どちらにせよ、こっちは有能なブレーンさえ据えてくれれば満足な話です。日本側と揉める気はないので、出来るだけスムーズに話を進めてほしいですね。言っておきますが、なにも我々は人攫いをする気はないのですから」
拉致監禁など、そもそもリスクが高過ぎる。
無頼な真似など、したくはないのが本音である。
A.Kアジア支部の代表を務める円子としては、可能な限り穏便に話を進めたい。
「それでは、あちらの別棟へどうぞ。彼は、特別室で休息を取ってもらっています。残念ですが、その――」
「流産して気落ちしているのだろう? ……流産と言っても……まだ人の形も成していなかっただろうが……」
奏の子宮に着床を確認したのは、つい先日だ。
具体的に子供の話をするには、まだ早い段階であった。
それでも、産まれてくる我が子の事を想い、奏は様々な夢想をしたであろうが。
(可哀想に……番が傍でしっかりと支えてやるのが本当なのに、あんな頼りにもならないような馬鹿野郎どもが相手では――――奏が気の毒としか言いようがない)
七海の中では、栄太も正嘉も最悪の部類に入る男だ。
あんなに素直で純情な奏を身勝手に翻弄し、悲しませるなど以ての外だ。
(誰が何と言おうと、オレは絶対に許さない)
悔し気にギリリと歯を食いしばる七海を見遣りながら、九条は小さく『仕方がないな』と溜め息をついていた。
◇
「奏っ! 」
「七海先輩……」
杖をつきながら歩み寄る七海を見上げ、奏は、真っ赤に泣きはらした目に再び涙をためた。
「先輩、車椅子は……歩いても大丈夫なんですか……? 身体は――」
「オレの事より、お前の方だ。奏、なんて可哀想に……」
七海も目を潤ませながら、ベッドに上体を起こす奏をひしっと抱き締めた。
「――――聞いたよ。悲しい事になってしまったね」
「はい……」
優しい七海の言葉に、また涙が止まらなくなる。
「ぼ、僕のせいなんです……もっと、ちゃんと身体の事を考えないとダメだったのに……それなのに、無茶ばっかりして。馬鹿だから、徹夜なんかして……」
「お前のせいじゃない」
七海はそう言い、奏を抱き締める腕に力を入れる。
「馬淵栄太と、青柳正嘉が悪いんだ。あいつらは、ただの我が儘なガキだ。自分の我ばかり押し通そうとして、肝心のお前の事は考えもしない。まったく、どうしようもない男共だ! 」
0
あなたにおすすめの小説
肩甲骨に薔薇の種(アルファポリス版・完結済)
おにぎり1000米
BL
エンジニアの三波朋晴はモデルに間違われることもある美形のオメガだが、学生の頃から誰とも固定した関係を持つことができないでいる。しかしとあるきっかけで年上のベータ、佐枝峡と出会い、好意をもつが…
*オメガバース(独自設定あり)ベータ×オメガ 年齢差カプ
*『まばゆいほどに深い闇』の脇キャラによるスピンオフなので、キャラクターがかぶります。本編+後日談。他サイト掲載作品の改稿修正版につきアルファポリス版としましたが、内容はあまり変わりません。
恋なし、風呂付き、2LDK
蒼衣梅
BL
星座占いワースト一位だった。
面接落ちたっぽい。
彼氏に二股をかけられてた。しかも相手は女。でき婚するんだって。
占い通りワーストワンな一日の終わり。
「恋人のフリをして欲しい」
と、イケメンに攫われた。痴話喧嘩の最中、トイレから颯爽と、さらわれた。
「女ったらしエリート男」と「フラれたばっかの捨てられネコ」が始める偽同棲生活のお話。
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。
【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】
紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。
相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。
超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。
失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。
彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。
※番外編を公開しました(2024.10.21)
生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。
※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。
ほたるのゆめ
ruki
BL
恋をすると世界が輝く。でもその輝きは身体を重ねるといつも消えてしまった。そんな蛍が好きになったのはオメガ嫌いのアルファ優人だった。発情したオメガとその香りを嫌悪する彼に嫌われないように、ひたすらオメガである事を匂わさないようにしてきた蛍は、告げることの出来ない思いに悩んでいた。
『さかなのみるゆめ』の蛍と(木佐)優人のお話です。時間軸的には『さかな・・・』のお話の直後ですが、本編主人公達はほとんど出てこないので、このお話だけでも楽しめるかと思います。けれど『さかな・・・』の方も読んで頂けると幸いです。
今からレンタルアルファシステムを利用します
夜鳥すぱり
BL
大学2年の鳴水《なるみ》は、ずっと自分がオメガであることを隠して生きてきた。でも、年々つらくなる発情期にもう一人は耐えられない。恋愛対象は男性だし、男のアルファに会ってみたい。誰でも良いから、定期的に安全に話し相手をしてくれる人が欲しい。でもそんな都合のいい人いなくて、考えあぐねた結果たどり着いた、アプリ、レンタルアルファシステム。安全……だと思う、評価も星5で良いし。うん、じゃ、お問い合わせをしてみるか。なるみは、恐る恐るボタンを押すが───。
◆完結済みです。ありがとうございました。
◆表紙絵を花々緒さんが描いてくださりました。カッコいい雪夜君と、おどおど鳴水くんです。可愛すぎますね!
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる