インチキで破廉恥で、途方もなく純情。

亜衣藍

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最終章

最終章-3

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 未成熟だった幼虫が、一夜にして艶やかな蝶へと成長したかのようだ。

 戸惑いの色を浮かべている男達の様子に気付いたか、奏はフッと優しく微笑んだ。

 そうして、彼は最初に栄太へ視線を向けると、ゆっくりと口を開いた。

「栄太さん――――僕は、あなたに言ったセリフを訂正しなければなりません」

「? 」

「あなたが僕の事を愛したから、僕もそれに応えようとしたと……本当の意味であなたを愛していたのではなかったと言いましたが、それは間違いでした。……確かに、僕はあなたを――――愛していました」

「か……奏っ! 」

 たまらず一歩踏み出そうとした栄太であるが、奏の表情に気付き動作を止める。

 奏は、穏やかな笑みを浮かべて、静かにこっちを見ていた。

 そうして、栄太は察した。

(――――そうか、全ては、もう過去になってしまったんだな……)

 今更ながら思い知ると、栄太は寂しそうに微笑んで、小さく息を吐いた。

 次に奏は正嘉に視線を移すと、微かに苦笑を浮かべる。

「正嘉さま、僕は……あなたに恋をしていました。それは、僕達が実際に出会うより、ずっとずっと前からです」

 青柳と結城の家の間で契約が結ばれ、奏は幼くして青柳の次期当主の婚約者に定められた。

 この世に誕生して間もない男児の婚約者にされ、その理不尽さに気付く事も無く、奏は唯々繰り返し、母と教育係のメイドから言われたのだ。


『あなたは、大きくなったら青柳家の次期当主、正嘉しょうかさまへ輿入れするのですよ。ですから、キチンとした教養を身に付けて、誰よりも美しくならねばいけませんよ』


 それは、子供の頃から、絶え間なく呪文のようにずっと言われていた言葉だ。

 奏はそれを疑う事の知らない雛鳥のように信じて、夢を見た。

「僕は、青柳正嘉という素敵なアルファの婚約者と結ばれて、相思相愛となって、幸せな家庭を築くのだと夢想していました。――――でもそれは、勝手な思い込みに過ぎませんでした。事実あなたは、僕の事など見向きもしなかったし……僕の存在さえ、知ってもいなかった」

 つらい現実だったが、事実だ。

 正嘉の立場になってみると、彼の困惑もよく分かる。

 初めて顔を合わせた時は、正嘉はまだ8歳だったのだ。

 初対面の相手に急に愛情を示されても、子供だった彼は、ただ戸惑うだけだったろう。

「僕は、あなたを愛していましたが……それは、あなたを愛している自分が好きだった・・・・・・・・・・・・・・・・・から。……僕は、悲劇の主人公である自分に、どこか浸っていたのかもしれません」

「いいや、そんな事はない。お前は――」

 たまらず口を開く正嘉に、奏は『自虐ではないです』と首を振る。

「でも、これだけは確かです。僕は――――あなた達二人をそれぞれに、違う形で愛していました」

――――夢の中で出会った、名もない子供も愛していた。

「……九条理事の言葉を借りるなら、少なくとも僕は、つらい事もたくさんあったけれど、なんて好い人生だったと胸を張って言えると思います」



 愛して憎んで、恋して、夢を見て。



 これだけの波乱万丈な人生など、どこの誰にも体験できないだろう。

「いつだって僕は、退屈とは程遠い充実した日々を送ったんですから……」

 ニッコリと笑って、奏はそう告げた。

 九条はその晴れやかな表情を見遣りながら、ああこれで彼等もそれぞれのしがらみを乗り越えて次に進むことが出来るのだなと息をついた。

 すると、次に奏は何かを決心した様子でスッと表情を改めると、思いもかけない事を告げた。


「僕は、アメリカに行きます」


「っ!? 」

「九条理事を始め、ヤン助教にも親身になって色々奔走して頂きましたが、僕はそう決断しました」

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