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9 living hell
9-1
しおりを挟む「その胸……気になっていたが、やはりずいぶんと雑な縫合痕だ。もしかして、マトモな医者に掛らなかったのか?」
不意に投げ掛けられた言葉に、ジンは反応が遅れた。
なんと返そうかと数秒迷ったが、相手にはもうお見通しだったらしい。
微かに溜め息をつくと、優雅な仕草で伸ばされた手が、服の上からジンの胸へと触れてきた。
「どこの医者に掛かったのかは知らんが、外科ならまだしも、もしもこれが内科だったら――ちゃんと再検査をした方が良いだろうな」
「そんな金、ねぇよ」
「オレから採取した生体データを売ったら、金が入るんじゃないのか?」
「……」
確かに、その通りだ。
だがジンの目的は、金ではない。
復讐だ。
「――ここから先は、黙っていろ」
強張った声に、聖は眉をひそめる。
そうしている内に、どこかへ着岸したらしい軽い衝撃が、船体へ走った。
二人が乗っていたのは、小型のクルーザーだ。
今朝がた真壁から電話が掛ってきたのだが、丁度その同じタイミングで、聖のマンションを訪れた者たちがいた。
どうやらジンが、無事に聖を『懐柔』したものと判断しての、ショーへの正式な迎えだったらしい。
それなら最初から、問答無用で聖を拉致する方法もあっただろうに。
そんな簡単な手法を取らず、わざわざターゲットを懐柔するとは、何ともまだるっこしい手を使うものだと感じたが――ジンの口から語られた内容に「なるほどな」と、聖は感心した。
日本では、被害者から被害届が出されない限りは事件として立件されず、警察は基本的に動かない。
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