彼が恋した華の名は:3

亜衣藍

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9 living hell

9-3

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「そうか――」

“そいつとオレ、今はどっちが好きだ?”

 つい、青臭いベタな疑問をぶつけたくなってしまい、聖は言葉を濁した。

 それを知ったところで、どうしようという気だ?

 これじゃあまるで、三流の安っぽいメロドラマのようだ。

(相変わらず、オレはバカだな)

 表情を曇らせて嘆息すると、ジンが何を思ったか、腕を伸ばして聖をギュッと抱き締めて来た。

 そうして耳に聞こえのいい甘い言葉を囁くでもなく、己に都合のいいだけの謝罪を口にするでもなく。

 ただ真摯に、ジンは呟いた。

「……最初は、とことん、あんたを利用しようと思っていた。だけど今は――正直に言うと、迷っている」

「迷う?」

「ショーに出演して、生体データを採取したら、それで本当にあんたは解放されるんだろうか」

「……」

「あんたが今まで相手にしてきた奴等は、上流階級と言われる部類の連中が多いんだろう。多分それもあって、今回のターゲットの中にあんたの名前が入っていたんだと思う。男共を惑わす『傾国の美女』の噂は、奴等の間じゃあ有名らしい」

 聖もそれは自覚があるだけに、否定は出来ない。

 一層力を込めて、ジンは聖を抱き締める。

「綺麗で魅力のある人間の遺伝子が欲しいだけならまだしも。もしも奴等が欲を出して、このままあんたを拉致したらと想像すると……」

 そこで息をつくと、ジンは呻くような声をもらした。

「……さっきも言った通り、最初はあんたを利用するつもりだったけどさ……」

 幾度か肌を合わせる内に、やはり情が湧いてきた。

――――このままこの男を見殺しにするには、心苦しい。

「ジン……」

 触れ合う身体から伝わって来る想いに、聖は何か言おうと口を開きかけたが。
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