彼が恋した華の名は:3

亜衣藍

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9 living hell

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 慇懃無礼に会釈をしたと思ったら、次に男は手を差し伸べて来た。

「御堂聖様、竹野仁様、下船の準備は無事完了しました。さぁ、どうぞ」

 ゴクリと息を呑み、聖とジンは一瞬だけ目を合わせると小さく頷いた。

「――ああ」

「足元、少々揺れますのでお気をつけて」

 先導する男にみちびかれるまま、クルーザーに取り付けられたタラップを渡り、二人は桟橋へと降りる。

 個人が所有している小島との事だが、思いの外しっかりと整備されているようだ。

 二人を運んだクルーザー以外にも、既に客が来ているらしい。

 中型程度の船と、小型船が二艘停泊していた。

 二人の視線に気づいたようで、案内役の男は説明を始めた。

「今回のショーは、AHIRUの顧客の中でも特にVIPの方々のみが出席されるそうです。お客様は総勢7名。出演者のお名前は伏せさせて頂きますが、御堂様の他には、元パリコレモデルで現在は〇ホテルチェーン会長の愛妾であるA様と、ハーバード大学をスキップしてオックスフォードでも学んだB様の、2名です。いづれも、容姿端麗で優れた頭脳の持ち主ですね。御堂様は、規約に倣ってここではC様とお呼びさせて頂きます」

「三人を競りにかけるというワケか?」

 聖の問いに、男はニコリと微笑んだ。

「いえいえ、当店では人身売買のような非合法な事はしませんよ。あくまでショーに出演し、ランウェイを歩くだけで結構です。……別室で、基礎検診・・・・は受けて頂きますが」

 大義名分を建て前にして、そこで血液や精液を採取するのだろう。

 ランウェイは、サンプルの品定めの為のお披露目というワケか。

(まったく、法の抜け道を突きまくった商売だな)

 呆れて嘆息する聖であったが、ジンの方は硬い表情のまま、男へ向かい詰問をした。

主催者・・・の安蒜昂輝は、さすがに姿を現すんだろうな?」

「オーナーですか?」

「そうだ。それ以外、誰がいるって言うんだ。オレはAHIRUの服の仕事がしたかったからマーメイド企画と契約して、ファッション誌『moveα』の専属モデルまでしたんだ。だけど、肝心の安蒜オーナーにはとうとう会えず仕舞いだった」
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