彼が恋した華の名は:3

亜衣藍

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9 living hell

9-6

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 そうなのだ。

 ジンは安蒜と会うために今まで様々な手を使ったのだが、どうしても安蒜本人と顔を合わせる事は叶わなかった。

 二年前、モデルとしてこの業界へ強引に潜り込んだのは、彼なりに考え出した最終手段だったのだが――――しかし、やはり安蒜は姿を見せず、ジンは焦燥を深めていた。

 そんな折、手駒にしようと誑し込んだ豊川安生の息子からAHIRUのシークレット・ショーの存在を耳にし、貴重な情報を手に入れることが出来た。

“AHIRUシークレット・ショーには、スポンサーの豊川安生とデザイナー兼オーナーの安蒜昂輝も必ず出席する”

 そう聞き及び、AHIRUのエージェントの一人を捜し出して接近し、上手く奴等の欲しがっているリストの情報を手に入れ、やっと組織へ潜入する切っ掛けを掴んだと思ったのだが。その矢先に、あの刃傷沙汰が起こった。

 万事休すかと思ったが、それがまさか起死回生のチャンスに繋がるとは。

 だがそれもこれも、この場に本当に安蒜昂輝が姿を見せないなら意味が無い。

「なぁ、どうなんだよ?」

「オーナーは忙しい方で、世界中を飛び回っておりますから……」

「だが、シークレット・ショーの時は必ずオーナーも立ち会うって聞いているぞ。安蒜昂輝は、ここに来るんだろうな?」

 豊川安生の方は、既に居場所を把握している。

 ジンが誑し込んだ豊川のバカ息子が、あの刃傷沙汰の後も懲りずに、未だにせっせと情報を流してくれているので、いつでも奇襲する事は可能だ。

 問題は安蒜あひるの方だ。

 ヤツは常に移動しているので場所を特定する事が出来ず、復讐を遂げるには今のままでは難しい。

 だからジンは、このシークレット・ショーを最後のチャンスと思って、全てを賭けた。

 リストに載っていたジュピタープロダクションの社長『御堂聖』に狙いを絞り、接近して誘惑し、見事この島まで連れて来た……。

 チクリと胸が痛んだが、ジンは平静を装って男へ詰め寄った。

「こっちの苦労も分かってくれよ。かの有名な『傾国の美女』を落とすのに、どれだけ苦労した事か。少しはオレだって、良い思いをしたって良いだろうが」
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