彼が恋した華の名は:3

亜衣藍

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後日談

Eternal-10

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 これに対し、綾瀬は苦虫を潰したような表情で、タバコを咥えた。

「……まぁ、当事者でない限りは忘れちまうだろうな。そう言うオレだってそうだ。もしもこの案件の担当がオレだったら、もっと早く思い出したかもしれないが」

 そう言いながら咥えたタバコへカチリと火を点け、フゥと煙を吐き出す。

 綾瀬は、今回の騒動の元になった数日前の新聞を手に取り『今日と同じ日に起こった過去の出来事』というミニコーナーへ目線を落とした。

――――それは十五年前。

 エリートキャリアだった綾瀬が、警視に就任したばかりの頃か。

 肩書は立派だが、まだまだ経験不足の青二才だった綾瀬は覚えなければならない事も多く、日々悪戦苦闘していた。

 そんな時期に、この事件は発生した。

「反社会的勢力による組織的戸籍売買摘発に絡み、未成年児童保護――だがそれにより人工的に誕生したデザイナーベビー児童の架空の戸籍が暴露される事となり、両親に逮捕状が請求……の、後がうやむやになったんだよな……」

 綾瀬の追懐に、佐々木も頷き返す。

「ええ、そのニュースだったら何となく覚えています。デザイナーベビーっていう聞きなれない単語もセンセーショナルで、テレビで特集も組んだりして。それもあってか、一時的に世論も騒然としましたよね? でも――」

「政治家の汚職事件と、大物芸能人も絡んだ麻薬取締法違反がほぼ同時期に発生して、直ぐに世間の関心もそっちに移ったのさ。……そう言うオレも、汚職事件の対応に追われて、戸籍売買なんてありふれていたヤクザのしのぎ・・・には係わらなかったしな」

 それに、人工的に子供を作るという事に関しては倫理上問題はあるが、不妊に悩む女性を救うという大義も有り、一概に『悪』と断じる事も出来ないのが実情だ。

 故に、法の整備もほとんど進んでおらず、立件するのは難しいというのもあった。

「ただ、昔の知り合いに照会してもらって分かったことだが――――ヤクザの手口は相当に巧妙で悪質だったらしい。戸籍売買に、外国人を顧客に巻き込んでいたんだ」

 その外国人の一人が、フロランスだった。

 日本国籍を得る近道は、日本人と婚姻関係を結ぶことだ。

 だから、日本国籍が欲しかったフロランスは、安蒜の甘言に乗ってしまったのだ。
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