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会社設立に必要な諸々の条件を全部揃えても、経済振興局の許可が下りなければ、結局何も出来ないのだ。
そして、その非の打ちどころのない書面を全て揃えて会社設立の申請をして、それが不許可であった場合でも――――その『不許可』の理由は決して教えてもらえない。
一昔前だったら、裏から手を回して各関係者へ賄賂を渡せば、書面の申請は簡単に通ったのだが…………。
パナマ文書の流出に伴い、タックスヘイヴンに対する風当たりは世界各国で相当強くなっている。
今となっては、小金程度の心づけだけでは、どこも動いてくれなくなってしまった。
なかなか、そう易々と一筋縄では行かないのである。
さてここで日本の国内事情が絡んでくる。
日本国内では暴対法の締め付けが年々強くなり、もうこれまでのようにヤクザは動けなくなってしまった。
土地も家も買えず、事務所用の物件を借りる事さえできない。新たに会社を設立する事は、国内ではもう難しい。
携帯電話も銀行口座も持つことは不可能になった。それだけで、検挙の対象にされてしまうのだから(口座等は債権者から買い取る事もあるが、とにかく効率が悪い)
反社会勢力の烙印を押された身としては、もうかつてのような権勢を振るう事は不可能であるので、どうしても海外での企業形態が必要になった。
『海外』の会社であれば、日本の法律の外で動けるからだ。
しかもナモ公国では、法律が甘く資金洗浄に寛容だ。
現地の銀行に口座を開設し、最低でも日本円で5億円の資産の証明をすることが必要だったが――――兎にも角にも、海外経由なら、カネの流れもスムーズな訳だ。
こうして現在では、ヤクザの世界も随分とグローバルなものへと変わっていた。
――――そしてそれが、聖がこの国で活動をする事に至った経緯だ。
この国では、依然として大公一族の力が根強い。
その資産も桁違いであるので、大公のポケットマネーだけでF1も開催される程だ。
国営カジノも、ホテルの多くも、大部分が大公一族の出資で成り立っている。
それが、絶対君主制の気風が未だ強く残っている、理由の一つでもある。
国も違えば、国王一族の身内が借金で破産したり、横領で逮捕され裁判沙汰になる王家もあるというのに、ここではそれはあり得ない。
権力、金、名声。
ナモ大公であるヘイマン・ルドー・ナモが、それら全てを握っているのだから。
つまり、この国では、先の書類一つにしても、大公一族に連なる者の口利きさえあれば不可にならない、強力なコネとなる訳だ。
――――小役人に賄賂を渡すよりも、よほど確実に!
天黄組が活路を見出すために、このナモ公国へと目を向けたのだが、それもこれも聖の力なくしては、何も出来なかった原因はそこに強く起因している。
聖は、足抜け分の最後の奉公だと言って、天黄組の為に身体を使って働いてくれた。
恨み言の一ついうワケでもなく、ただ淡々と成果を上げては、次々と後進へと残りの業務を順調に引き継いでいった。
天黄組としては、本当に聖には頭の上がらないところだろう。
それから、二年が経つのだが――――。
まだ聖の事を、この国の権力者たちは忘れてはいない。
現に、事ある毎にこの国からは聖の元へ招待状が届いているし、逆に日本へと、何人も王侯がお忍びで来日している。
彼らは、聖を東洋の妖花と褒めそやし、ひっきりなしに誘っているらしいが…………。
(御堂さん……あなたは、罪作りな人だ…………)
真壁は、溜め息をつくしかない。
聖は、あらゆる男の心を奪い、それに振り返る事なく去って行く。
勿論、それは真壁の心もだ。
ユウに言わせれば、聖は、真壁の事を特別視してくれているらしいが――……。
それが本当なら――――叶う事なら、この手に抱き締めてもう誰にも触れさせたくはない。自分だけのものにして、一生を捧げて愛したい。
如何せん恐れ多くて、とても実行には移せないまま、もう何年も過ぎてしまったが。
(御堂さん……あなたが望めば、オレは幾らでもこの命を懸けてあなたを愛するのに)
そして、その非の打ちどころのない書面を全て揃えて会社設立の申請をして、それが不許可であった場合でも――――その『不許可』の理由は決して教えてもらえない。
一昔前だったら、裏から手を回して各関係者へ賄賂を渡せば、書面の申請は簡単に通ったのだが…………。
パナマ文書の流出に伴い、タックスヘイヴンに対する風当たりは世界各国で相当強くなっている。
今となっては、小金程度の心づけだけでは、どこも動いてくれなくなってしまった。
なかなか、そう易々と一筋縄では行かないのである。
さてここで日本の国内事情が絡んでくる。
日本国内では暴対法の締め付けが年々強くなり、もうこれまでのようにヤクザは動けなくなってしまった。
土地も家も買えず、事務所用の物件を借りる事さえできない。新たに会社を設立する事は、国内ではもう難しい。
携帯電話も銀行口座も持つことは不可能になった。それだけで、検挙の対象にされてしまうのだから(口座等は債権者から買い取る事もあるが、とにかく効率が悪い)
反社会勢力の烙印を押された身としては、もうかつてのような権勢を振るう事は不可能であるので、どうしても海外での企業形態が必要になった。
『海外』の会社であれば、日本の法律の外で動けるからだ。
しかもナモ公国では、法律が甘く資金洗浄に寛容だ。
現地の銀行に口座を開設し、最低でも日本円で5億円の資産の証明をすることが必要だったが――――兎にも角にも、海外経由なら、カネの流れもスムーズな訳だ。
こうして現在では、ヤクザの世界も随分とグローバルなものへと変わっていた。
――――そしてそれが、聖がこの国で活動をする事に至った経緯だ。
この国では、依然として大公一族の力が根強い。
その資産も桁違いであるので、大公のポケットマネーだけでF1も開催される程だ。
国営カジノも、ホテルの多くも、大部分が大公一族の出資で成り立っている。
それが、絶対君主制の気風が未だ強く残っている、理由の一つでもある。
国も違えば、国王一族の身内が借金で破産したり、横領で逮捕され裁判沙汰になる王家もあるというのに、ここではそれはあり得ない。
権力、金、名声。
ナモ大公であるヘイマン・ルドー・ナモが、それら全てを握っているのだから。
つまり、この国では、先の書類一つにしても、大公一族に連なる者の口利きさえあれば不可にならない、強力なコネとなる訳だ。
――――小役人に賄賂を渡すよりも、よほど確実に!
天黄組が活路を見出すために、このナモ公国へと目を向けたのだが、それもこれも聖の力なくしては、何も出来なかった原因はそこに強く起因している。
聖は、足抜け分の最後の奉公だと言って、天黄組の為に身体を使って働いてくれた。
恨み言の一ついうワケでもなく、ただ淡々と成果を上げては、次々と後進へと残りの業務を順調に引き継いでいった。
天黄組としては、本当に聖には頭の上がらないところだろう。
それから、二年が経つのだが――――。
まだ聖の事を、この国の権力者たちは忘れてはいない。
現に、事ある毎にこの国からは聖の元へ招待状が届いているし、逆に日本へと、何人も王侯がお忍びで来日している。
彼らは、聖を東洋の妖花と褒めそやし、ひっきりなしに誘っているらしいが…………。
(御堂さん……あなたは、罪作りな人だ…………)
真壁は、溜め息をつくしかない。
聖は、あらゆる男の心を奪い、それに振り返る事なく去って行く。
勿論、それは真壁の心もだ。
ユウに言わせれば、聖は、真壁の事を特別視してくれているらしいが――……。
それが本当なら――――叶う事なら、この手に抱き締めてもう誰にも触れさせたくはない。自分だけのものにして、一生を捧げて愛したい。
如何せん恐れ多くて、とても実行には移せないまま、もう何年も過ぎてしまったが。
(御堂さん……あなたが望めば、オレは幾らでもこの命を懸けてあなたを愛するのに)
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