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「っ!! 」
「当然、だろ? 」
ニッと笑うと、聖はムッとした様子で、つんとそっぽを向いた。
そんな仕草を見ると、何とも言えない気分になる。
憎たらしいが、やっぱり――オレは、こいつに弱い。
この指に光る指輪が本物であれば良いのにと、そんな事を思った。
◇
せっかくのチャンスを、またしても逃してしまった。
今日一日、ユウはずっと不機嫌だった。
マネージャーの真壁は今日、聖のスケジュールに付き合って朝から席を外している。
代わりに、ジュピタープロの中堅スタッフの一人が、真壁の代役にユウのマネを担当していた。
昨日は韓国のボーイズユニットViVacaと対談だったが、今日はヨーロッパのバンドと対談だ。
それにジャケット用の撮影と、今日は今日で忙しい。
風光明媚で知られる、ナモ公国の街を観光する時間は勿論、零と会う時間など一切ない。
ユウはイライラとストレスが溜まり、カメラマンの「笑ってください」に対応できなくて、何度も撮り直してしまった。
そして結局、ますます時間は無くなって行く。
(ああ、もう! これじゃあ、電話も出来やしない! )
不機嫌なユウに、同行していたスタッフの森合が、気掛かりそうに語りかけてきた。
「どうしました、ユウさん? 」
「別に! 」
「今日の撮影、押しましたからねぇ……お疲れ様です」
ユウの不機嫌の原因は、ジャケットになかなかカメラマンのOKが出ず、何回も衣装替えして何度も撮り直したせいだと思っている森合である。
まさか、昨夜恋人と逢瀬を楽しもうとした矢先に、真壁に中断されての欲求不満だとは思わない。
「今夜は――ああ、社長と会食ですね……っかし、まさかユウさんが、社長のご子息だとは……」
今更ながらの事実に、ジュピターでは中堅としてそれなりに長く勤めていた森合は唸る。
確かに、それなら合点がいくのだ。
3年前に、一回目の『社長のご乱心』があった。
それは、落ち目歌手だったこの畠山ユウを、ジュピタープロへ破格の待遇で移籍させた上に、なんと、当時稀に見る画期的なイベントだと世間の話題を浚っていたMHJへ、無理に出場させようとしたのだ。
当然、スタッフ一同大反対だったのだが、聖はそれを無視して強行した。
それが何故だったのか、真実を知った今だったら、納得だ。
全ては、我が子の為だったのかと。
「――社長は、ああ見えて苦労した人ですからねぇ……」
古くからいるスタッフなら、知っている。
聖は、組と芸能事務所の二足の草鞋を履き、事務所のタレントを護りながら仕事を取る為に、自ら身体を使っていた。
――――当時は、ただそれを、見て見ぬ振りをして遣り過ごさねばならなかった、スタッフの一人であった森合は、申し訳なくて聖に頭が上がらない。
挙句、薬物事件の時は組の抗争に巻き込まれて、危うく三途の川を渡る所だった。
看板女優や俳優の降板で、事務所の背負った莫大な借金を完済するために奔走し、果ては、強面のヤクザ相手に丁々発止と渡り合っていた聖。
身体を張って、死に物狂いでジュピタープロを守ってくれた。
そして、長年ヤクザ資本だと影口を叩かれていたジュピタープロを、完全に自らの自己資金で買い取り、聖は自分も足を洗って、真っ新なものへと生まれ変わらせる事に成功させた。
どうしてあんなに必死になっていたのか――……それもこれも、ユウの為だったのか。
何て、激しくて優しい人なんだろう。
人情派の森合は、心底、聖に心酔していた。
「社長には、常日頃会社もスタッフもお世話になってますよ。ユウさんも、あんな綺麗で素敵なお父さんで嬉しいでしょう? 僕なんて……お腹も出ているし頭の毛も薄いんで、娘に嫌われちゃってますよ。ハハハ、社長と歳は変わらないんですがねぇー」
「当然、だろ? 」
ニッと笑うと、聖はムッとした様子で、つんとそっぽを向いた。
そんな仕草を見ると、何とも言えない気分になる。
憎たらしいが、やっぱり――オレは、こいつに弱い。
この指に光る指輪が本物であれば良いのにと、そんな事を思った。
◇
せっかくのチャンスを、またしても逃してしまった。
今日一日、ユウはずっと不機嫌だった。
マネージャーの真壁は今日、聖のスケジュールに付き合って朝から席を外している。
代わりに、ジュピタープロの中堅スタッフの一人が、真壁の代役にユウのマネを担当していた。
昨日は韓国のボーイズユニットViVacaと対談だったが、今日はヨーロッパのバンドと対談だ。
それにジャケット用の撮影と、今日は今日で忙しい。
風光明媚で知られる、ナモ公国の街を観光する時間は勿論、零と会う時間など一切ない。
ユウはイライラとストレスが溜まり、カメラマンの「笑ってください」に対応できなくて、何度も撮り直してしまった。
そして結局、ますます時間は無くなって行く。
(ああ、もう! これじゃあ、電話も出来やしない! )
不機嫌なユウに、同行していたスタッフの森合が、気掛かりそうに語りかけてきた。
「どうしました、ユウさん? 」
「別に! 」
「今日の撮影、押しましたからねぇ……お疲れ様です」
ユウの不機嫌の原因は、ジャケットになかなかカメラマンのOKが出ず、何回も衣装替えして何度も撮り直したせいだと思っている森合である。
まさか、昨夜恋人と逢瀬を楽しもうとした矢先に、真壁に中断されての欲求不満だとは思わない。
「今夜は――ああ、社長と会食ですね……っかし、まさかユウさんが、社長のご子息だとは……」
今更ながらの事実に、ジュピターでは中堅としてそれなりに長く勤めていた森合は唸る。
確かに、それなら合点がいくのだ。
3年前に、一回目の『社長のご乱心』があった。
それは、落ち目歌手だったこの畠山ユウを、ジュピタープロへ破格の待遇で移籍させた上に、なんと、当時稀に見る画期的なイベントだと世間の話題を浚っていたMHJへ、無理に出場させようとしたのだ。
当然、スタッフ一同大反対だったのだが、聖はそれを無視して強行した。
それが何故だったのか、真実を知った今だったら、納得だ。
全ては、我が子の為だったのかと。
「――社長は、ああ見えて苦労した人ですからねぇ……」
古くからいるスタッフなら、知っている。
聖は、組と芸能事務所の二足の草鞋を履き、事務所のタレントを護りながら仕事を取る為に、自ら身体を使っていた。
――――当時は、ただそれを、見て見ぬ振りをして遣り過ごさねばならなかった、スタッフの一人であった森合は、申し訳なくて聖に頭が上がらない。
挙句、薬物事件の時は組の抗争に巻き込まれて、危うく三途の川を渡る所だった。
看板女優や俳優の降板で、事務所の背負った莫大な借金を完済するために奔走し、果ては、強面のヤクザ相手に丁々発止と渡り合っていた聖。
身体を張って、死に物狂いでジュピタープロを守ってくれた。
そして、長年ヤクザ資本だと影口を叩かれていたジュピタープロを、完全に自らの自己資金で買い取り、聖は自分も足を洗って、真っ新なものへと生まれ変わらせる事に成功させた。
どうしてあんなに必死になっていたのか――……それもこれも、ユウの為だったのか。
何て、激しくて優しい人なんだろう。
人情派の森合は、心底、聖に心酔していた。
「社長には、常日頃会社もスタッフもお世話になってますよ。ユウさんも、あんな綺麗で素敵なお父さんで嬉しいでしょう? 僕なんて……お腹も出ているし頭の毛も薄いんで、娘に嫌われちゃってますよ。ハハハ、社長と歳は変わらないんですがねぇー」
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