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ユウは、真剣な表情で、そう碇へ問い掛けた。
それには、子供の戯れではない、ヒヤリとするような真剣なものを含んでいた。
聖に取っては、ユウはいつまでも可愛い子供であろうが、実際は違う。
ユウも、もう34になる大人の男であった。
その男が、真剣な顔になって自分を試している。
天黄組トップ――――ここまで上り詰めた身分を捨てるのか、組を抜けた聖を選ぶのか。
(さすがに誤魔化しが利きそうもないな。こういう所は、聖の子供ってだけはあるという事か……)
碇はそう実感し、しばらく迷ったのちに、口を開いた。
「オレは――」
だが、
「オレは! 誰より御堂さんを慕ってます! 」
いち早く、そう断言した男がいた。
ユウを始め、全員の視線が一点に集まる。
「――――真壁……」
か細い声が、聖の口から洩れた。
「お前、もうそんな質の悪い冗談は――」
だが、真壁は無言のまま、真摯な眼差しを聖へ注ぎ、静かに思いの丈を口にする。
「言わせてください。オレは、あなたを愛しています。誰よりも、あなた一人だけを――ここでそれを言うのはルール違反だと重々承知していますが、もう耐えられません。あなたは、カタギになった筈だ。綺麗な身体になった筈なのに……それなのに――――また、組の為に――無理をするつもりですか?そんなのはもう、止めてください。金で解決するなら、オレもこの国の銀行に10万ドル貯めています。それをそっくり組へ渡しますから、何とか、それで先方に手を打ってもらいましょう」
真壁は、サイエン・ルドー相手に、これから聖が身体を開いて、ベッドの上で組への事業交渉をするのを阻止したいと願っていた。
――――平気なワケが無いのだ。
聖はいつだって弱音の一つも口にしないが、好きでもない男に抱かれるのは辛いに決まっている。
かつて――――青菱史郎と想いを通じ合った時期――――その期間、聖はどんなに誘われても、たとえ宥め賺されても、決して他の男と寝なかった。
恋人に、聖は健気に操を立てていたのだろう。
当の青菱史郎の方は、それに気付きもしなかったのか、好きなように気の向くままに若い女や玄人の女と寝ていたようだが。
聖はそんな史郎に、愚痴の一つも文句の一言も言わなかったが――――真壁の方は、その話を聞く度に怒りが怒髪天を突きそうになったものだ。
どうして、こんなに美しく純粋な人が……あの悪魔にいいように身体だけでなく、心までも弄ばれるのかと。
真壁は、いつも叫び出しそうになるのを堪えていた。
あの悪魔が、塀の向こうに消えてくれて一番清々しているのは、実は真壁だった。
――――しかし、あいつが違い内に出所してくる。
その事にもっともピリピリしているのは、誰であろう、真壁だった。
願う事なら、このまま聖には、碇や青菱史郎が所属する後ろ暗い世界からは遠ざかっていて欲しい。
「御堂さん! 碇組長! どうか、頼みます。ここでオレがこんな事を言うのは御法度だと重々承知していますが――このナモ公国を、どうかこのまま出国してはくれないでしょうか? 」
「真壁――」
「オレの金は、そっくりそのまま碇組長へ渡します! 今回はそれで、相殺してくれませんか!? 」
頭を下げて懇願する真壁は、純粋に、ただもう聖の事しか考えていない。
聖を抱いてみたいとか、寝てみたいとか、そういう欲は一切合切越えて――ただ本当に、真壁は御堂聖という男が心底好きなのだ。
だからもう、これ以上、聖が辛い思いをするのは真壁は耐えられない。
「お願いします! 」
それには、子供の戯れではない、ヒヤリとするような真剣なものを含んでいた。
聖に取っては、ユウはいつまでも可愛い子供であろうが、実際は違う。
ユウも、もう34になる大人の男であった。
その男が、真剣な顔になって自分を試している。
天黄組トップ――――ここまで上り詰めた身分を捨てるのか、組を抜けた聖を選ぶのか。
(さすがに誤魔化しが利きそうもないな。こういう所は、聖の子供ってだけはあるという事か……)
碇はそう実感し、しばらく迷ったのちに、口を開いた。
「オレは――」
だが、
「オレは! 誰より御堂さんを慕ってます! 」
いち早く、そう断言した男がいた。
ユウを始め、全員の視線が一点に集まる。
「――――真壁……」
か細い声が、聖の口から洩れた。
「お前、もうそんな質の悪い冗談は――」
だが、真壁は無言のまま、真摯な眼差しを聖へ注ぎ、静かに思いの丈を口にする。
「言わせてください。オレは、あなたを愛しています。誰よりも、あなた一人だけを――ここでそれを言うのはルール違反だと重々承知していますが、もう耐えられません。あなたは、カタギになった筈だ。綺麗な身体になった筈なのに……それなのに――――また、組の為に――無理をするつもりですか?そんなのはもう、止めてください。金で解決するなら、オレもこの国の銀行に10万ドル貯めています。それをそっくり組へ渡しますから、何とか、それで先方に手を打ってもらいましょう」
真壁は、サイエン・ルドー相手に、これから聖が身体を開いて、ベッドの上で組への事業交渉をするのを阻止したいと願っていた。
――――平気なワケが無いのだ。
聖はいつだって弱音の一つも口にしないが、好きでもない男に抱かれるのは辛いに決まっている。
かつて――――青菱史郎と想いを通じ合った時期――――その期間、聖はどんなに誘われても、たとえ宥め賺されても、決して他の男と寝なかった。
恋人に、聖は健気に操を立てていたのだろう。
当の青菱史郎の方は、それに気付きもしなかったのか、好きなように気の向くままに若い女や玄人の女と寝ていたようだが。
聖はそんな史郎に、愚痴の一つも文句の一言も言わなかったが――――真壁の方は、その話を聞く度に怒りが怒髪天を突きそうになったものだ。
どうして、こんなに美しく純粋な人が……あの悪魔にいいように身体だけでなく、心までも弄ばれるのかと。
真壁は、いつも叫び出しそうになるのを堪えていた。
あの悪魔が、塀の向こうに消えてくれて一番清々しているのは、実は真壁だった。
――――しかし、あいつが違い内に出所してくる。
その事にもっともピリピリしているのは、誰であろう、真壁だった。
願う事なら、このまま聖には、碇や青菱史郎が所属する後ろ暗い世界からは遠ざかっていて欲しい。
「御堂さん! 碇組長! どうか、頼みます。ここでオレがこんな事を言うのは御法度だと重々承知していますが――このナモ公国を、どうかこのまま出国してはくれないでしょうか? 」
「真壁――」
「オレの金は、そっくりそのまま碇組長へ渡します! 今回はそれで、相殺してくれませんか!? 」
頭を下げて懇願する真壁は、純粋に、ただもう聖の事しか考えていない。
聖を抱いてみたいとか、寝てみたいとか、そういう欲は一切合切越えて――ただ本当に、真壁は御堂聖という男が心底好きなのだ。
だからもう、これ以上、聖が辛い思いをするのは真壁は耐えられない。
「お願いします! 」
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