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フゥと溜め息をつきながら、真壁は車を運転していた。
聖から、今日もユウのマネージャー業務を命じられたのだが、そのユウ本人からきつい一言を貰ってしまった。
『あなたは、本当に御堂聖の忠犬のままで終わる気なんですか? 』
グサッと胸に突き刺さる一言だ。
言われたことを忠実に守り、実行する。
そうやって、今まで聖の信用を得てきた。
誰よりも頼れる右腕として信頼されていると、真壁は自負している。
それで、真壁は充分の筈だった。
『それが、本当に満足なんですか? 』
正面からユウに問い質され、言葉に詰まった。
何故か「当たり前です」と、反論が出来ない。
戸惑う真壁に向かい、ユウは衝撃の一言を投じた。
『オレは――正直に言うと、御堂さんには真壁さんを選んで欲しいと思っています』
『っ! 』
『あの大柄な人も良いですが……でも、あの人は裏の業界の人でしょう? 御堂さん、せっかく足を洗ったのに――……あの人と付き合うとなると、いつ何時、また争いに巻き込まれるとも限らない。そう考えると、オレとしては……可能なら、カタギの人が伴侶になってほしいと思っています』
いや、それは違う。
今回は、聖は特別ユウの為に、ナモ公国へ渡航したのだ。
この国の、権力者達の執拗な求婚を躱すために、碇には聖の婚約者という事になってもらっているに過ぎない。
その代わりに、碇の仕事を今回だけフォローする約束で……。
『でもあの人は、本気で御堂さんの事が好きですよ』
『っ!? 』
『だから、言ってるんです。あなたは、このまま忠犬でいいんですかって』
『そ――それは……』
『昨夜、真壁さんは言ったじゃないですか。御堂さんに、愛しているって! 』
確かに、言った。
思わず、口走ってしまった。
ずっと胸に秘めておこうと思っていた、その想いを。
しかし、聖はまるでそれが冗談だったかのように振舞い、真壁には引き続きユウのマネージャーを続けろと命令しただけだった。
そう言われては――もう、逆らう事など出来ようはずがない。
唯々諾々と、こうして今日もユウの元へとマネージャーとして訪れたのだが……。
『本当にこのまま、オレのマネージャーを続ける気なんですか? 御堂さんに命令されたから? ずっと、それを実行するつもりなんですか? 』
立て続けの質問攻めに、真壁は狼狽える。
真っ直ぐなユウの視線は、誤魔化すことが出来ない浄玻璃鏡のようだ。
『お、オレは――御堂さんの事は、亡き兄から託された……』
『そんな建前はどうでもいい。真壁さんが、どう思っているのかが問題だ。昨夜の告白は嘘だったんですか? 』
こう言われては、正直に言うしかなかった。
好きか嫌いかなんて、もうそんな次元はとっくに超えている。
苦しみ、涙する姿もたくさん見てきた。
喜び、幸せに包まれて笑っている姿も見てきた。
芸能事務所の冷徹なトップとして、厳しく冷酷な面を見せたところも知っている。
――――全部全部、誰よりも長く傍にいて、ずっと見て来たのだから。
あの、寂しがり屋で、溢れる愛を持て余している……可哀想な男を。
知らず知らずのうちに、口が開いていた。
『オレは…………あの人の半身になりたいです』
『半身? 』
聖の悲しみも苦しみも、全て分かち合って背負いたい。
自分が――自分だけは、ずっと傍で支えてやるからと言って、少しでも楽にさせてやりたい。
決して裏切る事は無い半身だと言って、安心させてやりたい。
――――だから、もう泣く事はないのだと言いたい。
真壁の、魂を込めた告白を聞くと、ユウはニッコリと笑った。
『だったら――あなたは、こんな所にいるべきじゃあない』
フゥと溜め息をつきながら、真壁は車を運転していた。
聖から、今日もユウのマネージャー業務を命じられたのだが、そのユウ本人からきつい一言を貰ってしまった。
『あなたは、本当に御堂聖の忠犬のままで終わる気なんですか? 』
グサッと胸に突き刺さる一言だ。
言われたことを忠実に守り、実行する。
そうやって、今まで聖の信用を得てきた。
誰よりも頼れる右腕として信頼されていると、真壁は自負している。
それで、真壁は充分の筈だった。
『それが、本当に満足なんですか? 』
正面からユウに問い質され、言葉に詰まった。
何故か「当たり前です」と、反論が出来ない。
戸惑う真壁に向かい、ユウは衝撃の一言を投じた。
『オレは――正直に言うと、御堂さんには真壁さんを選んで欲しいと思っています』
『っ! 』
『あの大柄な人も良いですが……でも、あの人は裏の業界の人でしょう? 御堂さん、せっかく足を洗ったのに――……あの人と付き合うとなると、いつ何時、また争いに巻き込まれるとも限らない。そう考えると、オレとしては……可能なら、カタギの人が伴侶になってほしいと思っています』
いや、それは違う。
今回は、聖は特別ユウの為に、ナモ公国へ渡航したのだ。
この国の、権力者達の執拗な求婚を躱すために、碇には聖の婚約者という事になってもらっているに過ぎない。
その代わりに、碇の仕事を今回だけフォローする約束で……。
『でもあの人は、本気で御堂さんの事が好きですよ』
『っ!? 』
『だから、言ってるんです。あなたは、このまま忠犬でいいんですかって』
『そ――それは……』
『昨夜、真壁さんは言ったじゃないですか。御堂さんに、愛しているって! 』
確かに、言った。
思わず、口走ってしまった。
ずっと胸に秘めておこうと思っていた、その想いを。
しかし、聖はまるでそれが冗談だったかのように振舞い、真壁には引き続きユウのマネージャーを続けろと命令しただけだった。
そう言われては――もう、逆らう事など出来ようはずがない。
唯々諾々と、こうして今日もユウの元へとマネージャーとして訪れたのだが……。
『本当にこのまま、オレのマネージャーを続ける気なんですか? 御堂さんに命令されたから? ずっと、それを実行するつもりなんですか? 』
立て続けの質問攻めに、真壁は狼狽える。
真っ直ぐなユウの視線は、誤魔化すことが出来ない浄玻璃鏡のようだ。
『お、オレは――御堂さんの事は、亡き兄から託された……』
『そんな建前はどうでもいい。真壁さんが、どう思っているのかが問題だ。昨夜の告白は嘘だったんですか? 』
こう言われては、正直に言うしかなかった。
好きか嫌いかなんて、もうそんな次元はとっくに超えている。
苦しみ、涙する姿もたくさん見てきた。
喜び、幸せに包まれて笑っている姿も見てきた。
芸能事務所の冷徹なトップとして、厳しく冷酷な面を見せたところも知っている。
――――全部全部、誰よりも長く傍にいて、ずっと見て来たのだから。
あの、寂しがり屋で、溢れる愛を持て余している……可哀想な男を。
知らず知らずのうちに、口が開いていた。
『オレは…………あの人の半身になりたいです』
『半身? 』
聖の悲しみも苦しみも、全て分かち合って背負いたい。
自分が――自分だけは、ずっと傍で支えてやるからと言って、少しでも楽にさせてやりたい。
決して裏切る事は無い半身だと言って、安心させてやりたい。
――――だから、もう泣く事はないのだと言いたい。
真壁の、魂を込めた告白を聞くと、ユウはニッコリと笑った。
『だったら――あなたは、こんな所にいるべきじゃあない』
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