キラワレモノ

亜衣藍

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 運転する車の前に飛び出してきた、日本人の少年の訴えを聞き入れ、すぐさま警察へ直行した真壁である。

――――今にして思えば、黙ってその場で、携帯電話で警察に通報すればよかったと心底後悔している。

 しかし、その時の真壁は、とにかく聖の元へと向かおうと必死だったので、その道沿いにある警察署へこの少年を送り届け、倉庫に残った少年の保護を頼んだら、自分はそのまま車を走らせようと考えてしまった。

 径と名乗る少年が、昨夜、木箱から本物そっくりの銃器が出てきてびっくりしただの、ギャングがやって来ただの色々身振り手振りを交えて喋っていたが、真壁はとにかく聖の事で頭が一杯だったので、

「分かった分かった。それは全部、警察署で喋ってくれ。日本語の分かる署員の一人くらいは、いるだろう」

 と、その言い分を右から左に流してしまった。

 このセキュリティのしっかりしている筈のナモ公国で、そんな銃器がそう易々と手に入るワケが無い。

 ファッションショーと音楽イベントが重なり、ナモ国内の流通はかなり混雑しているが、だからといって、それに紛れて銃器を密輸など――マンガでもあるまいし、幾ら何でも不可能だ。

 きっと、この子供は何か勘違いをしているんだろう。

 それが、どうして拉致られたのかは知らないが――――。

 それよりとにかく、今は聖の元へ駆け付けなければ。

――――真壁の頭の中は、それ一色だった。

 もしも本当に、銃器の密輸が可能な人物となると――――当然、この国でもトップクラスの権力者となるのだが…………あの時、その可能性を少しでも考えればよかった。

 何度後悔しても、後悔し足りない。

 真壁は、径を警察署へ届けた時に、仲間の少年もまだ閉じ込められているようなので、直ぐに保護してやってくれと言い残し、直ぐにその場を離れようとした。

 だが、そうは行かなかったのである。

「少し手続きがあるので、お待ちください」

 笑顔で語り掛けてくる巨漢の警官に構わず、真壁はその場を去ろうとした。

 だが、振り返った先にも、同じくガタイのいい警官が3人、行く手を塞ぐように立ちはだかっているではないか。

 さすがに不穏な雰囲気を感じ取り、足を止める真壁。

 辺りには、ピリっとした緊張感が走る。

「――――待てと、言っている。お前をこのまま解放しては、ボスにオレ達が制裁される」

 その声に、

「あっ!! その声! あんた達、オレ等を拉致った連中じゃないか! 」

 径の指摘に、即座に真壁は事情を察し、相手の出方を待たずに、渾身の右ストレートとフックのコンビネーションで2人を瞬殺する。

 残りは、あと2人!

「っ! 」

 しかし2人の巨漢は、その体格に似合わぬ機敏な動作で、真壁の動きを封じてきた。

 奇妙なダンスのようでいて、広い間合いを取るこの格闘技は――――。

(カポエイラ、だと!? )

 驚愕に、真壁の顔は引き攣る。

 それはつまり、足技に特化した格闘技の名前だ。

 聖も得意とするキックボクシングとはまた違った、アクロバティックなダンスの要素もある、ブラジル発祥の格闘技である。

――――拳を使う真壁のボクシングとは、非常に相性の悪い技だ。

 警官の一人が、床に転がるように上体を預けると、丸太のような足が、空気を薙ぎ倒すように襲い掛かって来た。

 咄嗟にバックステップでそれをやり過すも、背後にはもう一人いる。

 足を使われては、届くリーチが違い過ぎる。

「グッ!! 」

 足技の一撃を脇腹に喰らい、耐え切れずによろめく。

 そうなるともう、真壁には不利な展開しか残っていなかった。

 足の脛を、今度は正面から払われる。次に、また腹に一発もらい――――。

(御堂さん――! )
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