キラワレモノ

亜衣藍

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 血腥い事は嫌いだ――――それを聞いた時、内心焦ったサイエンである。

 勿論、日本の子供などどうでもいい。聖が望むなら、さっさと帰すだけだ。

 問題は、もう一方の本丸の方である。

――――部下には、王子と侯爵が会場に居たら、そのまま狙撃しろと言ってある。

 邪魔者は、この二人だけだ。

 下手に生かしておくよりも、始末した方がよっぽど都合がいい。

 王族二人がテロリストの銃弾に倒れたら、上に下にと大騒ぎになるが、実質警察組織は既にサイエンが抑えている。

 多少強引でも、サイエンの力を以ってすれば、騒ぎを鎮静化させる自信がある。

 適当なスケープゴートを選んで罪を着せ、あとは死人に口なしで始末してしまえばいいだけだ。

 その次は、それこそ本当に死人に口なしであらゆる罪を二人に被ってもらい、当然発生するであろう多額の賠償金も、二人の財産から没収する算段だ。

 王子と侯爵には、共に数人の妻がいるが、それらはサイエンの敵ではない。

 邪魔者を消したら、後は如何様にも出来る。

 自分には、それだけの権力があるのだから。

 そして、地位と栄誉と財産を我が物とし、伴侶として永久に聖を傍に置く。

 サイエンは、そう計画してた。

 だが――――。

   ◇

「フロントロウから、あいつらが消えていたというのか!! 」

 サイエンの剣幕に恐れおののきながら、狙撃手は頷いた。

「はい。マナ王子と、アーカム侯爵は直前に席を立ったようです」

「クソッ! 」

 忌々し気に、サイエンは床を蹴った。

(あいつら! どこまでも悪運の強い連中だ!! )

 しかし、どっちにしろ計画は変わらない。

 このまま奴等の不手際を追及して、王位継承権から追い落とす。

 それは、最初から決めていた事だ。

「ふん。今回のナモ・コレもそうだが、それ以上に、明日のMHJの方が大打撃になる筈だ。事前に契約を結んでいるから、オレに対する損害賠償は発生しないが、相手はドン・カルロが率いているカンパニーだ」

「ま、全くその通りです! MHJが中止となれば、数億ドルの金が無駄になるワケですし、相当な恨みを買うに違いありません」」

 サイエンの言葉に追従して、部下は同意を返す。

 これに、サイエンは愉快そうに目を細めた。

「ククク…………マフィアに狙われて、あのぬるま湯に浸かっている連中が果たして無事で済むかどうか、見物だな。こっちは高みの見物をさせてもらうか」

 そうなるとむしろ、王子と侯爵を殺さなくて良かったかもしれない。

 奴等の、右往左往する様が見られるのだから。

「――――ミドーは、どうしている? 」

「はい。お休みのようです」

「そうか…………」

 クスリの量を増やしたのが効果こうか覿面てきめんだったのか、今朝の聖は凄まじいほどの色香だった。

 本当に全てを搾り取られた。

 腰砕けになる程に夢中になり、最後の方はこっちが先にノックダウンされた。

 しかし同時に、サイエンは、自身が10代の小僧に戻ったかのような無尽蔵のみなぎりを感じている。あの無二の肉体を思い出しただけで、もう勃起しそうだ。

 散々搾り取られたと思ったのに、早くもまた、彼を抱きたくなっている。

(ミドーを手に入れたのは偶然だったが……今回はもしかしたら、これが一番の成果かもな)

 全く、いいタイミングで渡航してくれたものだ。

 あの大男ヤクザの会社設立は、約束通りに協力してやろう。各方面に口利きしてやってもいい。

 しかし、それまでだ。

 御堂聖は、決して手放さない。

 彼には、このまま毎日、自分の相手をしてもらおう。
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