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最終章
最終章-1
しおりを挟むさて、時は少し戻る。
真壁が碇へと、聖から託されたカメオのペンダントを渡したところまでだ。
――――そう、碇が反撃開始だと言ったのは、これを手に入れたからであったのだ……。
◇
「そろそろ、ウチのヤツを返してもらおうか? 」
堂々とした碇の体躯にやや気圧されながらも、サイエンは不敵に笑った。
ここは、サイエンの屋敷内の、応接間だ。
碇は聖を救出するために、姿を隠して潜んで来るような真似などしなかった。
白川と真壁を引き連れ、正々堂々と、正面からここを訪れたのだ。
なかでも特に、真壁はさっき解放したばかりだった為に、サイエンの部下達は少なからず動揺した。解放された男が直ぐに戻って来たのだから、それは当たり前の反応だろう。
しかもその男は、今現在滞在中の、ボスの賓客の舎弟である筈だ。
これは何か、あるのではなかろうか?
屋敷の警護を任されていた彼らは、咄嗟にそう判断した。
その為、訪ねてきた3人を直ぐに追い返したりはせずに、動揺しつつも、応接間へと丁寧に案内した次第だ。
丁度その時サイエンは会見で席を外していたから、屋敷へ残った彼等だけで、そう判断して動いたのだが――――もしもその場にサイエンがいたら、絶対に碇は屋敷に入れるなと言ったであろう。
そう、聖のフィアンセなど、断じてここに入れるワケがない。
それなのに――――……。
(本当に、オレの部下は無能ばかりだな)
内心苦々しく思いながら、サイエンは碇の追及をやんわりと躱す。
「おや? ミドーなら、このままこの屋敷へ留まると、オレの求婚を受け入れてくれたが? お気の毒だが、君はどうやら振られたようだよ? 」
そう言うと、「お客人はお帰りになるようだ」と、サイエンはパチリと指を鳴らした。
すると、物陰から物騒な雰囲気の男達がスッと姿を現した。
「――これでなかなか、オレも敵が多くてね。ボディーガードは常にこうして控えているんだ。勿論、彼等は銃を携帯している…………妙な考えは捨てる事だ。このまま大人しく帰った方が利口だぞ」
「ほぅ? 」
「そうそう、君の会社の事なら、ミドーからもお願いされているからね。そっちはしっかりと手を貸してやろう。資金洗浄に使えるように、別に口座も用意してやる。ハハハ、これはかなりの大盤振る舞いだな……まぁ、美しいミドーと引き換えなら充分お釣りがくるが」
会話はそれで終わりという様に、サイエンは腰を上げる。
「それでは、カジノで遊んだら日本へ帰るといい。ミドーはここに置いてな」
そのまま応接間を後にしようとしたが――――だが、その足が止まった。
『今日行われる【ナモ・コレ】で、ちょいとした騒ぎを起こす。テロリストをでっち上げて、その責任を目の上のタンコブ共に押し付けるんだ』
「っ! 」
その音声に、サイエンはバッと振り返った。
「なっ……!? 」
「驚いたか? 」
驚愕に目を見開くサイエンに、碇は不敵に微笑み返す。
『……実質、邪魔者はアーカムとマナだけだ。ヤツらの監督責任を徹底的に追及して、とことん追い詰めてやる。そして、この騒ぎの代償として王位継承権から後退させれば、自然と次の王位はオレに回って来る』
続けて流れてくる音声は、間違いなくサイエン本人の物だ。
それは、聖とベッドで交わした会話だった筈だが――――。
「――まさか、ミドーが? いつだ!? 」
すると、真壁の顔が、火が点いたように真っ赤になった。
それを見て、サイエンは一瞬で理解した。
「そうか……やけに情熱的な別れ方をしたと思っていたが…………! 」
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