年の差ブルドッグ

りもーとみかん

文字の大きさ
10 / 14
年の差ブルドッグ

マダムアゲイン

しおりを挟む
恵子さんの知り合いに、美代子さんという女性がいます。
「知り合いが栃木の別荘を貸してくれる」
という恵子さんの言葉を鵜呑みにして、ゴールデンウィークに一泊旅行へ行きました。
その別荘を貸してくれたのが美代子さんです。
ところが着いてみると別荘どころか、田んぼに囲まれた美代子さんの自宅…
そんなオチも今では楽しい思い出になりました。

僕がアルバイトをする喫茶店「ぶさねこ」には様々なお客さんが来店します。
おしゃべりな大先輩、麻里さんに愚痴を聞いてもらいたくて来る常連さん…
店長は若貴ブームの波に乗ったお客さんと意気投合し、酔って暴れる客や無銭飲食など歓迎されざる者も稀にいました。
毎日賑やかな雰囲気の中で仕事を終えると、その足で僕は定時制高校に通います。
8月に入っても暑さは容赦なく、滲み出る汗と付き合いながら今日も「ぶさねこ」に出勤しました。
アルバイトが終わる17時まであと1時間…
今は高校も夏休みなので、忙しければ残業をすることもあります。
サングラスをかけた女性のお客さんが来たのはそんな時間でした。
淡いブルーのワンピースが上品な山の手マダム…
そんな佇まいに早速、店長と麻里さんの井戸端会議が始まります。
「お金持ってそう…」
「地上げ屋の刺客よ…」
「イヤーッ、店長…命狙われるんじゃ?」
そんなヒソヒソ話に
「2人ともテレビの見過ぎですよ…お水持っていきます」
カウンター越しに
「高校生に怒られたわ…」
「ナオ君が一番しっかりしてるかもね…うふふ」
僕は振り向いて
「全部聞こえてますよ」
お水を出して注文を伺うと
「ナオくん、あはは…久しぶり」
サングラスを下にずらした顔に見覚えが…
声をかけてきた女性が美代子さんだとすぐにわからなかったのは、施した化粧のせいです。
こんなとこで美代子さんに会えるなんて…
思わぬお客さんに笑いが止まりません。
「あはは…どうしたんですか?」
「うん、仕事の都合でね…東京まで来たの」
「そうなんですね…あぁ、なんか飲みますか?」
アイスコーヒーを注文すると、その様子を見ていた店長が
「ナオ君の知り合い?」
そう聞かれて
「はい、3ヶ月前にお泊まりでセックスしまくった女性です」
とも言えず
「あ、えっとぉ…その…親戚のおばさんです」
咄嗟にそんな返事をしました。
「あら、そうなの…今お客さん少ないからさ、ちょっと話してくれば?」
店長は言ってくれましたが
「でも仕事中だし、これで時給もらうのも…」
「用事があって来たのかもしれないよ?」
横から麻里さんが声をかけます。
「そしたらナオ君、今日はもう上がる?あとは麻里ちゃんと2人で大丈夫だから…」
そんな店長のお言葉に甘えてタイムカードを押し、美代子さんが座るテーブルでジュースをいただきました。
「ねぇ店長…意外とナオ君の彼女だったりして」
「ってことは私にもあんな若い彼氏できるかな?」
2人から一番遠い席に移動しながら
「全部聞こえてますよ」

美代子さんは仕事の関係で昨日、東京に来たと話してくれました。
そういえば恵子さんも言ってました。
美代子さんは仕事で東京にはよく来るって…
一体どんな仕事なのか僕にはわかりませんが詮索する気もなく、敢えて聞くこともありません。
「ここ、よくわかりましたね?」
「だって恵子さんに聞いたもん」
仕事のついでとはいえ、わざわざ会いにきてくれたことが素直に嬉しかったです。
「恵子さんの職場からここ、近いのね」
「えぇ、前はよく来てくれたんですけど…」
美代子さんは納得したように頷きながら
「うんうん、ナオくん目当てで通ってたんでしょ?2人で会える関係になったら来る必要もないもんね」
まぁ、そういうこと…
なのか僕にはわかりませんが、それよりも栃木での人に言えないような思い出話なんかされたら…
店長と麻里さんがいる中で少しドキドキしていました。
「あの、美代子さん…場所変えてもいいですか?」
僕の言葉にニンマリと笑う美代子さんが
「落ち着かないんでしょ?ホテルでも行く?」
まるで心を見透かされたような返事…
「ウソよ、ウソ…私、19時にはここ出ないといけないから…残念だけどね」
期待して一瞬でも胸が高鳴った自分が恥ずかしい…
「店長、駅までおばさん送ってきます」
「あら、もう帰るの…コーヒーは私の奢りだから代金はいいよ」
「ナオ君の給料から引いとくって…あはは」
麻里さんが茶化すと
「楽しそう…また寄らせてもらいますね」
美代子さんの挨拶で「ぶさねこ」を後にしました。

夕方になっても夏のおてんとうさまは、まだまだ頑張っています。
駅前のファミレスに入る頃にはTシャツも汗ばんでいました。
「ナオくん、お腹空いてたら好きなの食べて…」
うーん、お腹は空いてないけど
「美代子さんの目玉焼き、食べたい…」
栃木に行った際、美代子さんが朝食にと作ってくれた目玉焼き…
「あら、覚えてたの?」
忘れません。
3人で食べた目玉焼き…
美代子さんは少し嬉しそうな顔で
「また遊びに来なよ…好きなだけ作ってあげる」
「それじゃ美代子さん…」
僕は耳打ちしようと身を乗り出し、彼女の耳元に顔を寄せたとき
「お待たせしました」
ウェイトレスの声…
驚いた僕は思わず
「はいっ!」
大声で返事をしてしまいました。
「プッ…ちょっとナオくん…どうしたの?」
吹きだす美代子さん…
「あ、いや…なんでも…あはは」
苦笑いする僕に
「午前中…恵子さんに会ったの」
恵子さんとお喋りしたら時間がいくらあっても足りない…
そんな話をする美代子さんの表情もなんだか物足りなさそう…
「忙しそうに見えたから…却って悪いことしたかも」
多忙な恵子さんと思うようにお喋りできなかったのかもしれません。
「ナオの様子見てきて…」
恵子さんにお願いされ喫茶店の場所を聞き、僕を尋ねてくれたと言ってました。
「僕の様子を?なんで?」
「なんかね…先月会ったとき様子がおかしかったって…心配してたよ」
僕には思い当たる節がありません。
それとも自覚のないまま、恵子さんに心配でもかけていたのでしょうか…
「毎週、電話で話してるし…いつもと変わりませんよ」
美代子さんは僕の顔を見て
「そうねぇ、見るからに元気そうだもんね」
安心した表情…
「あ、ほら…恵ちゃん、自分が疲れてるから僕のこともそう見えたんじゃなくて?」
「そりゃ疲れるよね…仕事しながら手当たり次第、若い男と遊んでたら…」
ああぁぁぁ…!しまったああぁぁ…!
美代子さんのそんな顔を一瞬ですが、僕は間違いなく見ました。
「若い男…?」
「あ、いや…違うの…昔よ!昔の話よ!」
口を滑らせた人間は身振り手振りがデカくなるお手本のように、美代子さんは上半身で何かを伝えようと必死です。
「恵ちゃんの?昔…ですか?」
「うん!そうそう!昔の話!ナオくんと知り合うずーっと前の話!」
美代子さんはさっきから、目を見て話してくれません。
「昔から…男なら誰でもよかったんでしょ?」
「違うって!ナオくんのこと大事じゃなきゃ、様子見てきてなんて言わないじゃん!」
「そんな心配、ナオくんにしか絶対しないよ!」
慰めてるのか恵子さんを庇っているのか…
口数が多くなるほど、美代子さんの言葉が見え透いた嘘にしか聞こえません。
「社長の恵ちゃんが僕みたいな貧乏人、相手にする訳ないのにね…」
「そんなことないって…好きだから声かけられたんでしょ?恵子さんに…」
「ううん、こいつチョロそう…とか思いながらからかってるだけ…」
美代子さんは幾度となく僕に話しかけますが、あまり耳に入ってきませんでした。
「勘違いしないでください…僕らは恋人同士でも何でもないから」
恵子さんとはもともと割り切った関係です。
恵子さんが僕以外の男と何をしようが関係ありません。
そんな性欲を満たすだけの関係…
自分に言い聞かすように、何度も心の中で繰り返しました。
嫉妬する気持ちもありません。
少なくとも出会った頃は…
「うん…なんか、ごめんね…」
うつむく美代子さんが呟きました。
「ううん、美代子さんのせいじゃないの…」
むしろ美代子さんにとってはもらい事故のようなもの…
「聞かなかったことにします…今の話、恵ちゃんには言わないでくださいね」
あーっ、もう…こういう重っ苦しい空気大っ嫌い!
叫びたい気持ちを抑えて、美代子さんを駅まで送ります。

傾く夏の夕日は終わりを告げているようで、恵子さんがもの凄く遠くに行ってしまうような不安が僕を支配していました。
不安で不安でたまらない…
40歳も年上の割り切ったおばさんに、この感情はどこから湧いてくるのか不思議…
途中、人がまばらな公園で美代子さんの手を引き無理やり抱きしめます。
「ちょ、ちょっとナオくん…ダメ、こんなとこで…」
そんな言葉を無視して強引に唇を重ねました。
美代子さんには申し訳ないんですが、人の温もりを感じられれば誰でもよかった…
手当たり次第、男を抱く恵子さんと同じで誰でもよかった…
恵子さんは自分のことを
「汚い女…」
だと言いますが、そんなことを言い出す恵子さんの気持ちが少しだけわかりました。
そんな僕も汚い男です。
薄汚れた醜い男なんです。
「ナオくん、わかってると思うけど…恵子さんに本気になったらダメよ」
忠告する美代子さんの視線は、僕の目から離れません。
「思い出したんだけどさ…ファミレスで私に耳打ちしようとしたじゃん」
僕が耳打ちするタイミングでウェイトレスの邪魔が入り、聞けなかったことを思い出したようで
「あれ…なんて言いたかったの?」
美代子さんのそんな言葉に
「えっと…なんだっけ?忘れました…んふふ」
「なーんだ、エッチな話かと思って期待したのに…」
本気になりかけてる恵子さんへの気持ちといい、すべて見透かされたような美代子さんの言葉にドキドキ…
彼女を駅で見送ったあと、無性に恵子さんに会いたくなりました。
「きっと忙しいよ…邪魔するのやめよ…」
そんな声が夏の夜空に消えていきます。

「恵ちゃん…なんでここに?」
「あんたが会いたいって言ったんだろ?」
それにしても恵子さんの周りにいる男たちは…
いったい誰?
「ほら、貧乏人!こっち来な…」
「ちょっと…恵ちゃん?」
「イヤならいいよ…あんたの代わりならいくらでもいるんだから…」
えっ?この男たちのこと?
「あはは…あんたじゃなきゃダメな理由がないのよ」
指を差し嘲笑する恵子さん…
「恵ちゃん、おかしい!いつもの恵ちゃんじゃないよ!」
「いつものって…あんた、私の何を知ってるの?」
全裸の恵子さんに大蛇が絡みつきます。
「ナオ、こっちに来な…抱いてやるから…ほら」
「イヤ…恵ちゃんヤダ!恵ちゃん!恵ちゃんってば!」
口を開け牙を剥く大蛇は、今にも僕を呑み込みそう…
「ほら、早く…ナオ、こっち来るんだよ…ナオ、ナオ…早く…」

「ナオ…ナオ!早く…早く起きなっ!」
「ブワっ!」
えぇ…っと!朝…?母ちゃん…?
タオルケットをめくる僕に
「そろそろバイト行く時間じゃろ?」
夢…
うわぁ…変な夢見た…
「あんた寝言で、けいちゃんけいちゃん言いよったけど…」
広島出身の母は今でも時たま、広島弁が顔を出します。
「彼女でもできたん?いるならウチ連れてきな」
「そんなのいないよ…いても呼べるような家じゃないじゃん」
狭い団地に家族5人暮らしですから…
17歳の僕にはそんな生活が恥ずかしく思えました。
「母ちゃんもわざわざ広島から出てきて、なんでこんな貧乏な生活してんの?」
「知らんよ、父ちゃん追っかけてきたらここに着いたんだから…」
両親に限らず、人の昔話を聞くのが大好き…
勝手に想像しちゃうんです。
「追いかけるほどの魅力ある?父ちゃんに?」
「なけりゃ一緒にならんよ…ほら、早くご飯食べな」
勉強しないと父ちゃんみたいになるよ…
お酒にギャンブルに日頃から反面教師にしてる、そんな父を追いかけてまで家庭を築く母…
夫婦ってわからない…
僕自身、自分のことすらわからないのに、人の気持ちが理解できるハズもありません。
「若気の至りってやつ…でも後悔はしとらんけ…いってらっしゃい!」
そんな母の言葉で今日も一日が始まります。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

熟女教師に何度も迫られて…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
二度と味わえない体験をした実話中心のショート・ショート集です

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

真面目な女性教師が眼鏡を掛けて誘惑してきた

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
仲良くしていた女性達が俺にだけ見せてくれた最も可愛い瞬間のほっこり実話です

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…

処理中です...