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年の差ブルドッグ
年上小町ドキッ
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恵子さんとの約束で週に一度、必ず電話をしていました。
話す内容と言えば
「いつ、どこで、何時に…」
性欲を満たすための簡単な連絡事項のみで、それらは多忙な恵子さんの都合を優先して決められます。
決して一方的に押しつけてくる訳ではなく、僕は会いたいがために彼女の都合に合わせるようにしていました。
それほど彼女の存在は、僕の生活の中心になりつつあります。
まぁ、どっちにしても休日はヒマなんですけどね…
毎週金曜日になると恵子さんの声を聞くため公衆電話を利用する僕は、美代子さんに会ったその週もいつものように電話をかけました。
「いつ会える?」
「いつでも…恵ちゃんの都合でいいよ」
「たまにはナオが決めてよ」
たまにはどころか僕が決めて…
なんて言われたのは初めてです。
「恵ちゃん忙しいんだから…僕が合わせるよ」
「忙しくないってば…ナオの都合に合わせるから決めて…」
何気ない会話ですが、僕の都合に合わせるなんて言い出すこと自体、今日の彼女はおかしい…
「日曜日でもいい?」
「明後日?いいよ…」
午後から友達との約束を思い出したのは、そのすぐ後でした。
「恵ちゃん、ごめんなさい…午前中しか会えないけど…いいですか?」
「うん、ナオが決めてくれたから…ってかその敬語やめてって言ったでしょ?」
あはは…そうでした。
前回会ったとき、彼女とそんな約束しましたね。
「久しぶりに恵ちゃんのクリームシチュー食べたい」
「それじゃ…腕によりをかけて作るか?朝食抜いてくるんだよ?」
電話越しに聞こえる恵子さんの声は、なんだか嬉しそう…
「はい、お腹空かせていきます」
「だから…敬語っ!」
夏の陽射しは恵子さんの早起きと同様、朝から手加減しません。
まだ朝の8時です。
倉庫代わりに彼女が借りている、いつものマンションへ…
「暑かったでしょ?部屋冷えてるよ」
「恵ちゃん…かわいい」
エアコンの冷たい空気に安心するよりも先に、髪を結んだエプロン姿の彼女がいつもより美しく見えました。
「ヤダ、なに見てんのよ…そこ座って」
「んふ…だって今日の恵ちゃん、かわいいんだもん」
恵子さんは少し照れくさそうに
「いつもはブスってこと?」
「そっ、そうじゃなくて!今日はとくに…」
「そう…惚れ直したか?」
はにかんだ笑顔でキッチンに立つと、ほんのり香るクリームシチューを皿によそる彼女…
「惚れて…いいのかな…」
言葉の持つ力は想像以上で、何気ないひと言に空気が変わることもあります。
良くも悪くもそれは一瞬です。
「ん?なんか言った?」
「あ、いや…なにも…」
「冷めないうちに食べて…おかわりもあるから」
美味しそうなクリームシチューを頬張ると
「美味しい…うん、やっぱ美味しい!」
向かいに座った恵子さんは笑いながら
「うふふ…今日は言わないのね」
「なにを?」
「だってほら、いつもあーんして…って甘えてくるじゃん」
美味しすぎて忘れてました。
でも、本当はクリームシチューじゃなくてもいいんです。
忙しい中、僕のためにスーパーでジャガイモを買いニンジンを買い…
もしかしたら僕のことを思い浮かべながら、煮込んでいたかもしれません。
もちろん僕が都合のいいように想像してるだけで現実はわかりませんが、そんな彼女の姿を勝手に想像したら…
僕のために何かをしてくれるのが無性に嬉しいんです。
結果じゃなくて、そこまでの過程が凄く嬉しいんです。
「恵ちゃん、食べさせてあげる…あーんして」
シチューを掬ったスプーンを差し出すと
「フーッてして…熱いからフーフーして」
楽しそうに微笑む恵子さん…
「んもう…恵ちゃん、いつもいつも甘えないで…」
「いつもいつも甘えてんのお前だろ!」
こんなたわいない会話ですら心地よく感じました。
僕は息を吹きかけたスプーンを恵子さんの口元に運びます。
「うん、美味しい…ナオが食べさせてくれたから余計美味しいわ」
「ほんとに?いっぱい作ったからたくさん食べて…」
「ありがと…ってお前作っとらんやろ!」
恵子さんのツッコミも日に日にキレが増してきました。
「もう、お腹いっぱいだわ…食べ過ぎたよ」
「恵ちゃん、もっと太っていいよ…コロコロしてる方がかわいい」
彼女は笑いながら
「あはは、あんたも変わってるね…デブなおばさんがいいんだ?」
「うん、好き…」
僕が正直に返事をすると
「あんたにかわいい、とか言われても複雑だよね」
「なんで?」
「だって…デブなおばさんがかわいく見えるんでしょ?微妙じゃん」
うん、確かに僕の褒め言葉は人を傷つけるかもしれない…
「恵ちゃん、ここ座って…」
「なに?どうしたの?」
カーペットに横座りする恵子さん…
「いつも忙しそうだからさ…」
石のように硬くなった彼女の肩を揉み始めると
「ちょっと何よ…ほんと、どうしたの?」
柄にもないことをすると、喜ぶよりも不安になるようで
「ナオ、なんか気持ち悪いよ…あぁ、でも気持ちいい…」
「あはは…恵ちゃん、どっち?」
「下心あるんでしょ?絶対…」
そんなものありません。
僕が勝手にしたくなっただけです。
「この前、美代子さんに会いました」
「そう…抱いたの?」
「ううん、抱いてません…」
恵子さんは肩を揉む僕の手を握って
「残念だったわね…」
美代子さんが、恵子さんに会うも忙しそうで心配していたと伝えると
「せっかく来てもらったのにあまり時間がなくて…悪いことしちゃった」
彼女が申し訳なさそうに呟きます。
「でも2人、仲が良さそう…」
「ナオにもいるでしょ?友達は大切にしないと…」
恵子さんの都合最優先で動く僕を
「ナオは絶対断わらないよね…嬉しいけどたまに心配になるよ」
「僕…恵ちゃんに心配かけるようなことした?」
「あんたは優しいから、心配になるんだよ…」
優しくしたら心配するの?なんで?
意味がわからなくて聞き返しました。
「ほら、家族とか友達と一緒にいる時間、奪ってるんじゃないかな…と思って」
バイトをして高校にも通って…
「いくら若くても疲れるでしょ?」
彼女の返事も僕にはあまりピンときません。
何よりも大切な恵子さんと一緒にいたいだけなのに…
彼女の都合に合わせて会うことが、僕にとっては当たり前だと思っていました。
そんな僕の気持ちを、少しだけ否定されたような言葉に
「飽きたのかな…一緒にいたくないのかな…」
なぜかひねくれた解釈になります。
冷静に考えればそうはなりませんけど
「遊びたい年頃じゃん…私は二の次でいいから」
その時の僕は彼女のそんな心遣いを素直に受け入れられず、モヤモヤしたまましばらく引きずってしまいました。
「あとさ…あんた」
僅かに首を傾けた恵子さんは
「私とあんたは不釣り合いとか、私に僕は相応しくないとか…二度と言わないで」
いつになく冷たい口調でした。
「だって社長がなんで貧乏人の相手してくれるの?おかしいじゃん」
「だってじゃないの…ナオ、あんた勘違いしないで…」
肩揉みする手が自然と止まります。
「私たち、夫婦でも恋人でもないじゃん…」
よりによって一番言われたくない人に言われるなんて…
僕は何も言い返せませんでした。
「体だけの割り切った相手に相応しいとか相応しくないとか…そんなの求めてないよ」
「貧乏人の相手するのがおかしい?おかしくないよ…寝るだけのあんたが貧乏だろうが金持ちだろうが、そんなの私に関係ないじゃん」
なんか段々と腹が立ってきました。
恵子さんにじゃなく自分に…
それでも言い返せないのは、彼女が間違ったことを言ってないから…
「恵ちゃん、もういいよ…」
精一杯振り絞って出た言葉がひと言だけとは情けない…
「よくない、私は私の都合であんたを利用してるだけ…性欲のはけ口に利用してるだけだから…」
なんで40も年の離れたこんなおばさん、好きになったんだろ…
「恵ちゃん…もういいってば…」
しかし恵子さんは止まりません。
「出会った頃はそう思ってたよ…コイツもどうせすぐ逃げるんだろうなと思ってたよ」
なんでこんなデップリとしたおばさんに夢中になってんだろ…
「ナオは優しいんだよね…優しすぎるんだよ」
シミだってシワだってあるし…
「他の男と違う…もう、離れられないんだよ…」
オッパイは垂れてるし、お腹なんて贅肉だらけ…
「だからさ、私とあんたは不釣り合いとか、私に僕は相応しくないとか絶対に言わないで」
平気でウンコとかオシッコもするし…
「私のこと嫌いになったのかと思った…適当に理由つけて別れたいのかと思った」
でも、そんな彼女を嫌いになれない…
「あんまり不安にさせないで…」
恵子さんは一度も振り返ることなく背を向けたまま…
僕は思わず後ろから抱きしめました。
「ちょっとナオ、痛い…痛いってば」
気持ちに任せて強く抱きしめると
「ムフッ…うふふ…」
笑い出す僕に
「笑わないでよ…いい雰囲気なんだから」
だって、お互いの言葉をお互いが勝手な思い込みで誤解していたなんて…
ありったけの力でさらに強く抱きしめます。
「ちょ、ちょっとあんた、痛いからやめて…痛いって」
おかしいやら嬉しいやらでもう、抱きしめるというよりは締め上げる僕に
「イテーっつってんだろ!テメェ!いい加減にしろっ!あはは…」
じゃれ合う時間がとても幸せに感じました。
「美代子さんになんか言われたんでしょ?」
はい、確かに口を滑らせた美代子さんに言われました。
恵子さんが手当たり次第、男と遊んでるって…
ただ、僕と出会う前の話だとも言っていました。
それが嘘か本当かはわかりません。
しかし、恵子さんと美代子さんの仲が気まずくなるのは僕が望むものではありません。
「ううん、なんにも…」
とぼける僕に
「そう…あんたはやっぱり優しいね」
ううん、優しいのは恵子さんの背中…
顔を寄せると落ち着くというか、とても安心しました。
「ナオ、アイスあるんだ…食べる?」
棒アイスを差し出した彼女は
「ひとつしかないから、あんた食べな」
「恵ちゃんは?」
「いいから…食べな」
ペロペロと舐める僕を見て、美味しそうに見えたのか
「ひと口ちょうだい…」
「ダメ、これは僕がもらったやつ」
断固拒否すると
「ケチ!少しくらいいいじゃん」
強引に奪い取ったアイスを舐め始めます。
僕が舐めていた棒アイスを無邪気に頬張る恵子さん…
そんな彼女の仕草に一瞬ドキッとしました。
「あ…間接キッス…」
今さら驚く関係でもないのに…
いつもはもっと激しく不潔な淫行を繰り返しているのに…
恵子さんの姿を見ていたら不思議とドキドキします。
色欲をそそられるものではなく、ただただ愛おしい…
「なに見てんの?ムラムラしてきた?」
「全然ムラムラしない…」
思わず失笑する恵子さんは
「プッ…アイス食べたから怒ってんの?」
そこで僕、気付きました。
「あ!ムラムラさせるためにわざと食べたでしょ?」
ははーん、そうですか…そういうことですか…
「大人はね、思ってても言わないの…そういうこと」
いくら背伸びをしたところで、40歳も年上の彼女には到底敵いません。
所詮、ガキはガキです。
「もう少し大人になったほうがいい?」
無知な僕が恵子さんに向けたこんな質問は、まったく意味がありません。
「そのままでいいよ…ナオはそのままでいいの」
内心、ホッとしました。
大人になれと言われても大人になることがどういうことかまったく理解できず、どう振る舞っていいのかもわからないのですから…
「だってさ…私がアイス食べたときのナオの顔ったら…」
彼女は笑いながら
「あの驚いた顔…かわいかったよ」
茶化すような本音のような、なんともいえない微笑みを浮かべています。
今日は午後から友達と約束があって、性的な交わりはできそうにありません。
「肉体関係だけで繋がってる僕らがセックスしなくなったら…終わるのかな?」
ふと呟くと
「それはあんた次第…私は終わらせるつもりないよ」
僕だって同じです。
性交がなくても、これだけ一緒にいたいと思えるんですから…
「うん、なんか難しく考えるの苦手…」
「そうね…あ、そろそろ友達のとこ行く時間じゃない?」
恵子さんとの時間はあっという間に過ぎていきます。
「駅まで送ってあげようか?」
彼女は言いますが、そんなことされたらまだまだ一緒にいたくなりそうで…
「ううん、大丈夫…」
一緒にいたい…
と言っても今日の恵子さんは
「ダーメ!」
そう言うに決まっています。
性欲のみで繋がっていた関係なのに、性欲のないデートは初めて…
満足できないどころか僕の華やぐ心は口の中でとろけるクリームシチューのように、夏の青空に優しく溶けていきました。
話す内容と言えば
「いつ、どこで、何時に…」
性欲を満たすための簡単な連絡事項のみで、それらは多忙な恵子さんの都合を優先して決められます。
決して一方的に押しつけてくる訳ではなく、僕は会いたいがために彼女の都合に合わせるようにしていました。
それほど彼女の存在は、僕の生活の中心になりつつあります。
まぁ、どっちにしても休日はヒマなんですけどね…
毎週金曜日になると恵子さんの声を聞くため公衆電話を利用する僕は、美代子さんに会ったその週もいつものように電話をかけました。
「いつ会える?」
「いつでも…恵ちゃんの都合でいいよ」
「たまにはナオが決めてよ」
たまにはどころか僕が決めて…
なんて言われたのは初めてです。
「恵ちゃん忙しいんだから…僕が合わせるよ」
「忙しくないってば…ナオの都合に合わせるから決めて…」
何気ない会話ですが、僕の都合に合わせるなんて言い出すこと自体、今日の彼女はおかしい…
「日曜日でもいい?」
「明後日?いいよ…」
午後から友達との約束を思い出したのは、そのすぐ後でした。
「恵ちゃん、ごめんなさい…午前中しか会えないけど…いいですか?」
「うん、ナオが決めてくれたから…ってかその敬語やめてって言ったでしょ?」
あはは…そうでした。
前回会ったとき、彼女とそんな約束しましたね。
「久しぶりに恵ちゃんのクリームシチュー食べたい」
「それじゃ…腕によりをかけて作るか?朝食抜いてくるんだよ?」
電話越しに聞こえる恵子さんの声は、なんだか嬉しそう…
「はい、お腹空かせていきます」
「だから…敬語っ!」
夏の陽射しは恵子さんの早起きと同様、朝から手加減しません。
まだ朝の8時です。
倉庫代わりに彼女が借りている、いつものマンションへ…
「暑かったでしょ?部屋冷えてるよ」
「恵ちゃん…かわいい」
エアコンの冷たい空気に安心するよりも先に、髪を結んだエプロン姿の彼女がいつもより美しく見えました。
「ヤダ、なに見てんのよ…そこ座って」
「んふ…だって今日の恵ちゃん、かわいいんだもん」
恵子さんは少し照れくさそうに
「いつもはブスってこと?」
「そっ、そうじゃなくて!今日はとくに…」
「そう…惚れ直したか?」
はにかんだ笑顔でキッチンに立つと、ほんのり香るクリームシチューを皿によそる彼女…
「惚れて…いいのかな…」
言葉の持つ力は想像以上で、何気ないひと言に空気が変わることもあります。
良くも悪くもそれは一瞬です。
「ん?なんか言った?」
「あ、いや…なにも…」
「冷めないうちに食べて…おかわりもあるから」
美味しそうなクリームシチューを頬張ると
「美味しい…うん、やっぱ美味しい!」
向かいに座った恵子さんは笑いながら
「うふふ…今日は言わないのね」
「なにを?」
「だってほら、いつもあーんして…って甘えてくるじゃん」
美味しすぎて忘れてました。
でも、本当はクリームシチューじゃなくてもいいんです。
忙しい中、僕のためにスーパーでジャガイモを買いニンジンを買い…
もしかしたら僕のことを思い浮かべながら、煮込んでいたかもしれません。
もちろん僕が都合のいいように想像してるだけで現実はわかりませんが、そんな彼女の姿を勝手に想像したら…
僕のために何かをしてくれるのが無性に嬉しいんです。
結果じゃなくて、そこまでの過程が凄く嬉しいんです。
「恵ちゃん、食べさせてあげる…あーんして」
シチューを掬ったスプーンを差し出すと
「フーッてして…熱いからフーフーして」
楽しそうに微笑む恵子さん…
「んもう…恵ちゃん、いつもいつも甘えないで…」
「いつもいつも甘えてんのお前だろ!」
こんなたわいない会話ですら心地よく感じました。
僕は息を吹きかけたスプーンを恵子さんの口元に運びます。
「うん、美味しい…ナオが食べさせてくれたから余計美味しいわ」
「ほんとに?いっぱい作ったからたくさん食べて…」
「ありがと…ってお前作っとらんやろ!」
恵子さんのツッコミも日に日にキレが増してきました。
「もう、お腹いっぱいだわ…食べ過ぎたよ」
「恵ちゃん、もっと太っていいよ…コロコロしてる方がかわいい」
彼女は笑いながら
「あはは、あんたも変わってるね…デブなおばさんがいいんだ?」
「うん、好き…」
僕が正直に返事をすると
「あんたにかわいい、とか言われても複雑だよね」
「なんで?」
「だって…デブなおばさんがかわいく見えるんでしょ?微妙じゃん」
うん、確かに僕の褒め言葉は人を傷つけるかもしれない…
「恵ちゃん、ここ座って…」
「なに?どうしたの?」
カーペットに横座りする恵子さん…
「いつも忙しそうだからさ…」
石のように硬くなった彼女の肩を揉み始めると
「ちょっと何よ…ほんと、どうしたの?」
柄にもないことをすると、喜ぶよりも不安になるようで
「ナオ、なんか気持ち悪いよ…あぁ、でも気持ちいい…」
「あはは…恵ちゃん、どっち?」
「下心あるんでしょ?絶対…」
そんなものありません。
僕が勝手にしたくなっただけです。
「この前、美代子さんに会いました」
「そう…抱いたの?」
「ううん、抱いてません…」
恵子さんは肩を揉む僕の手を握って
「残念だったわね…」
美代子さんが、恵子さんに会うも忙しそうで心配していたと伝えると
「せっかく来てもらったのにあまり時間がなくて…悪いことしちゃった」
彼女が申し訳なさそうに呟きます。
「でも2人、仲が良さそう…」
「ナオにもいるでしょ?友達は大切にしないと…」
恵子さんの都合最優先で動く僕を
「ナオは絶対断わらないよね…嬉しいけどたまに心配になるよ」
「僕…恵ちゃんに心配かけるようなことした?」
「あんたは優しいから、心配になるんだよ…」
優しくしたら心配するの?なんで?
意味がわからなくて聞き返しました。
「ほら、家族とか友達と一緒にいる時間、奪ってるんじゃないかな…と思って」
バイトをして高校にも通って…
「いくら若くても疲れるでしょ?」
彼女の返事も僕にはあまりピンときません。
何よりも大切な恵子さんと一緒にいたいだけなのに…
彼女の都合に合わせて会うことが、僕にとっては当たり前だと思っていました。
そんな僕の気持ちを、少しだけ否定されたような言葉に
「飽きたのかな…一緒にいたくないのかな…」
なぜかひねくれた解釈になります。
冷静に考えればそうはなりませんけど
「遊びたい年頃じゃん…私は二の次でいいから」
その時の僕は彼女のそんな心遣いを素直に受け入れられず、モヤモヤしたまましばらく引きずってしまいました。
「あとさ…あんた」
僅かに首を傾けた恵子さんは
「私とあんたは不釣り合いとか、私に僕は相応しくないとか…二度と言わないで」
いつになく冷たい口調でした。
「だって社長がなんで貧乏人の相手してくれるの?おかしいじゃん」
「だってじゃないの…ナオ、あんた勘違いしないで…」
肩揉みする手が自然と止まります。
「私たち、夫婦でも恋人でもないじゃん…」
よりによって一番言われたくない人に言われるなんて…
僕は何も言い返せませんでした。
「体だけの割り切った相手に相応しいとか相応しくないとか…そんなの求めてないよ」
「貧乏人の相手するのがおかしい?おかしくないよ…寝るだけのあんたが貧乏だろうが金持ちだろうが、そんなの私に関係ないじゃん」
なんか段々と腹が立ってきました。
恵子さんにじゃなく自分に…
それでも言い返せないのは、彼女が間違ったことを言ってないから…
「恵ちゃん、もういいよ…」
精一杯振り絞って出た言葉がひと言だけとは情けない…
「よくない、私は私の都合であんたを利用してるだけ…性欲のはけ口に利用してるだけだから…」
なんで40も年の離れたこんなおばさん、好きになったんだろ…
「恵ちゃん…もういいってば…」
しかし恵子さんは止まりません。
「出会った頃はそう思ってたよ…コイツもどうせすぐ逃げるんだろうなと思ってたよ」
なんでこんなデップリとしたおばさんに夢中になってんだろ…
「ナオは優しいんだよね…優しすぎるんだよ」
シミだってシワだってあるし…
「他の男と違う…もう、離れられないんだよ…」
オッパイは垂れてるし、お腹なんて贅肉だらけ…
「だからさ、私とあんたは不釣り合いとか、私に僕は相応しくないとか絶対に言わないで」
平気でウンコとかオシッコもするし…
「私のこと嫌いになったのかと思った…適当に理由つけて別れたいのかと思った」
でも、そんな彼女を嫌いになれない…
「あんまり不安にさせないで…」
恵子さんは一度も振り返ることなく背を向けたまま…
僕は思わず後ろから抱きしめました。
「ちょっとナオ、痛い…痛いってば」
気持ちに任せて強く抱きしめると
「ムフッ…うふふ…」
笑い出す僕に
「笑わないでよ…いい雰囲気なんだから」
だって、お互いの言葉をお互いが勝手な思い込みで誤解していたなんて…
ありったけの力でさらに強く抱きしめます。
「ちょ、ちょっとあんた、痛いからやめて…痛いって」
おかしいやら嬉しいやらでもう、抱きしめるというよりは締め上げる僕に
「イテーっつってんだろ!テメェ!いい加減にしろっ!あはは…」
じゃれ合う時間がとても幸せに感じました。
「美代子さんになんか言われたんでしょ?」
はい、確かに口を滑らせた美代子さんに言われました。
恵子さんが手当たり次第、男と遊んでるって…
ただ、僕と出会う前の話だとも言っていました。
それが嘘か本当かはわかりません。
しかし、恵子さんと美代子さんの仲が気まずくなるのは僕が望むものではありません。
「ううん、なんにも…」
とぼける僕に
「そう…あんたはやっぱり優しいね」
ううん、優しいのは恵子さんの背中…
顔を寄せると落ち着くというか、とても安心しました。
「ナオ、アイスあるんだ…食べる?」
棒アイスを差し出した彼女は
「ひとつしかないから、あんた食べな」
「恵ちゃんは?」
「いいから…食べな」
ペロペロと舐める僕を見て、美味しそうに見えたのか
「ひと口ちょうだい…」
「ダメ、これは僕がもらったやつ」
断固拒否すると
「ケチ!少しくらいいいじゃん」
強引に奪い取ったアイスを舐め始めます。
僕が舐めていた棒アイスを無邪気に頬張る恵子さん…
そんな彼女の仕草に一瞬ドキッとしました。
「あ…間接キッス…」
今さら驚く関係でもないのに…
いつもはもっと激しく不潔な淫行を繰り返しているのに…
恵子さんの姿を見ていたら不思議とドキドキします。
色欲をそそられるものではなく、ただただ愛おしい…
「なに見てんの?ムラムラしてきた?」
「全然ムラムラしない…」
思わず失笑する恵子さんは
「プッ…アイス食べたから怒ってんの?」
そこで僕、気付きました。
「あ!ムラムラさせるためにわざと食べたでしょ?」
ははーん、そうですか…そういうことですか…
「大人はね、思ってても言わないの…そういうこと」
いくら背伸びをしたところで、40歳も年上の彼女には到底敵いません。
所詮、ガキはガキです。
「もう少し大人になったほうがいい?」
無知な僕が恵子さんに向けたこんな質問は、まったく意味がありません。
「そのままでいいよ…ナオはそのままでいいの」
内心、ホッとしました。
大人になれと言われても大人になることがどういうことかまったく理解できず、どう振る舞っていいのかもわからないのですから…
「だってさ…私がアイス食べたときのナオの顔ったら…」
彼女は笑いながら
「あの驚いた顔…かわいかったよ」
茶化すような本音のような、なんともいえない微笑みを浮かべています。
今日は午後から友達と約束があって、性的な交わりはできそうにありません。
「肉体関係だけで繋がってる僕らがセックスしなくなったら…終わるのかな?」
ふと呟くと
「それはあんた次第…私は終わらせるつもりないよ」
僕だって同じです。
性交がなくても、これだけ一緒にいたいと思えるんですから…
「うん、なんか難しく考えるの苦手…」
「そうね…あ、そろそろ友達のとこ行く時間じゃない?」
恵子さんとの時間はあっという間に過ぎていきます。
「駅まで送ってあげようか?」
彼女は言いますが、そんなことされたらまだまだ一緒にいたくなりそうで…
「ううん、大丈夫…」
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