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第1章 死神編
第11話 3人の候補
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ギルド本部
「……《死神》には逃げられたか」
重々しい空気の中、ギルドマスター・ハイドは片手で顔を覆いながら、残念そうに呟いた。
それでもその声には、どこか底知れない読みの深さがにじんでいる。
「そう落ち込まないでください。収穫はあります」
横に立つ《白金の盾》のリーダー・ジェイルが言葉を挟んだ。
「収穫?」
ハイドの目が鋭く細められる。
「はい。ガイと共に《死神》と思われる者と遭遇した現場に、ドラゴンの首を断ち切った跡がありました。……ですが、俺たちが会った時、彼女──つまり受付嬢ルリは武器を持っていなかった」
「つまり?」
「……創造したか、あるいは巧妙に隠し持っていた、ということになります」
「ふむ……隠し持つメリットはなんだ?」
ハイドの問いに、ジェイルは口を閉じた。即答できるほど簡単な話ではない。
「……俺はな、それだけじゃない気がするんだ」
間を空けて、ハイドが視線を向ける。
「《死神》には、特別な能力があると?」
「……どうしてそう思うんです?」
ジェイルが尋ねると、ハイドは静かに机に並べられた資料の一枚を示した。
「お前たちがダンジョンで会った“受付嬢ルリ”だがな。あの時間帯、別の職員たちと街の外れで食事していたと報告があった」
「……! まさか、本人が?」
「ああ。直接確認済みだ。本人にも聞いたし、同行していたギルド職員たちからも証言は取ってある」
「……つまり、同じ時間に“2人のルリ”が存在していたと」
「そうだ。つまり、どちらかが偽物だ。で……」
ハイドは目を細める。
「偽物が誰かなんて、答えは一つだな?」
「……俺たちの前に現れたのが、偽物のルリ。すなわち、《死神》ということですか」
「ようやく、ここまで来たな」
そう言ってハイドは机を軽く叩く。怒りではなく、むしろ満足気な音だった。
「状況は良くないのに……顔が明るいですね?」
「そりゃそうさ。ようやく“範囲”が絞れた」
「ターゲットが、いると?」
「ああ――《ジェシカ・シンプソン》《ハルア・ダンパー》《エリナ・ロア》の3人だ」
ジェイルとガイが顔を見合わせる。
「……なぜその3人に?」
「変身系のスキルや魔法は、適性がなければ扱えない。そして、錬金術──つまり武器創造もだ。両方に適性のあるギルド職員は、現在その3名だけだ」
「……確かに、両方できる者は少ない」
「だから、この3人を重点的にマークする。お前たちには調査を任せる。動きがあったら即報告だ」
「了解です」
* * *
だが、それから数日──
ジェシカ、ハルア、エリナの3人を監視し続けても、《死神》である決定的な証拠は掴めなかった。
「……なんでだ。これだけ調べて何も出てこないなんて」
監視報告をまとめながら、ガイが思わず呟いた。
「……ターゲットが違う、ということか?」
ジェイルも表情を曇らせる。そのとき、ふと彼の脳裏に疑念が浮かんだ。
「……一つ、気になることがある」
「なんだ?」
「なぜ《死神》は、“受付嬢ルリ”の姿に変身したんだ?」
「……?」
ガイは眉をひそめる。
「他にももっとベテランの職員はいる。なぜよりによって、新人のルリだったのか?」
「……そうか」
その問いに、ハイドは何かを理解したように頷いた。
「つまり……《死神》とルリには、“私的な接点”があるということだ」
「なら、ルリに《死神》の正体を聞き出せば──」
「それは恐らく、無理だな」
ハイドは即座に否定した。
「彼女も、お前たちと同じ。正体は知らないはずだ。……ただ、信頼している。それだけでいいんだ」
「じゃあ……次は、どうしますか?」
「そんなの決まってるだろ。──今度こそ、正体を突き止める」
ハイドは立ち上がり、命じた。
「作戦は追って通達する。今日は疲れただろう。休め」
「……了解です。連絡、待ってます」
ジェイルとガイは一礼し、ギルドマスターの部屋を後にした。
誰も知らぬ仮面の正体。
その“輪郭”が、少しずつ浮かび上がりつつある。
そして、それは同時に、サティ・フライデーという偽りの仮面が、やがて剥がされる日が近づいていることも意味していた──。
「……《死神》には逃げられたか」
重々しい空気の中、ギルドマスター・ハイドは片手で顔を覆いながら、残念そうに呟いた。
それでもその声には、どこか底知れない読みの深さがにじんでいる。
「そう落ち込まないでください。収穫はあります」
横に立つ《白金の盾》のリーダー・ジェイルが言葉を挟んだ。
「収穫?」
ハイドの目が鋭く細められる。
「はい。ガイと共に《死神》と思われる者と遭遇した現場に、ドラゴンの首を断ち切った跡がありました。……ですが、俺たちが会った時、彼女──つまり受付嬢ルリは武器を持っていなかった」
「つまり?」
「……創造したか、あるいは巧妙に隠し持っていた、ということになります」
「ふむ……隠し持つメリットはなんだ?」
ハイドの問いに、ジェイルは口を閉じた。即答できるほど簡単な話ではない。
「……俺はな、それだけじゃない気がするんだ」
間を空けて、ハイドが視線を向ける。
「《死神》には、特別な能力があると?」
「……どうしてそう思うんです?」
ジェイルが尋ねると、ハイドは静かに机に並べられた資料の一枚を示した。
「お前たちがダンジョンで会った“受付嬢ルリ”だがな。あの時間帯、別の職員たちと街の外れで食事していたと報告があった」
「……! まさか、本人が?」
「ああ。直接確認済みだ。本人にも聞いたし、同行していたギルド職員たちからも証言は取ってある」
「……つまり、同じ時間に“2人のルリ”が存在していたと」
「そうだ。つまり、どちらかが偽物だ。で……」
ハイドは目を細める。
「偽物が誰かなんて、答えは一つだな?」
「……俺たちの前に現れたのが、偽物のルリ。すなわち、《死神》ということですか」
「ようやく、ここまで来たな」
そう言ってハイドは机を軽く叩く。怒りではなく、むしろ満足気な音だった。
「状況は良くないのに……顔が明るいですね?」
「そりゃそうさ。ようやく“範囲”が絞れた」
「ターゲットが、いると?」
「ああ――《ジェシカ・シンプソン》《ハルア・ダンパー》《エリナ・ロア》の3人だ」
ジェイルとガイが顔を見合わせる。
「……なぜその3人に?」
「変身系のスキルや魔法は、適性がなければ扱えない。そして、錬金術──つまり武器創造もだ。両方に適性のあるギルド職員は、現在その3名だけだ」
「……確かに、両方できる者は少ない」
「だから、この3人を重点的にマークする。お前たちには調査を任せる。動きがあったら即報告だ」
「了解です」
* * *
だが、それから数日──
ジェシカ、ハルア、エリナの3人を監視し続けても、《死神》である決定的な証拠は掴めなかった。
「……なんでだ。これだけ調べて何も出てこないなんて」
監視報告をまとめながら、ガイが思わず呟いた。
「……ターゲットが違う、ということか?」
ジェイルも表情を曇らせる。そのとき、ふと彼の脳裏に疑念が浮かんだ。
「……一つ、気になることがある」
「なんだ?」
「なぜ《死神》は、“受付嬢ルリ”の姿に変身したんだ?」
「……?」
ガイは眉をひそめる。
「他にももっとベテランの職員はいる。なぜよりによって、新人のルリだったのか?」
「……そうか」
その問いに、ハイドは何かを理解したように頷いた。
「つまり……《死神》とルリには、“私的な接点”があるということだ」
「なら、ルリに《死神》の正体を聞き出せば──」
「それは恐らく、無理だな」
ハイドは即座に否定した。
「彼女も、お前たちと同じ。正体は知らないはずだ。……ただ、信頼している。それだけでいいんだ」
「じゃあ……次は、どうしますか?」
「そんなの決まってるだろ。──今度こそ、正体を突き止める」
ハイドは立ち上がり、命じた。
「作戦は追って通達する。今日は疲れただろう。休め」
「……了解です。連絡、待ってます」
ジェイルとガイは一礼し、ギルドマスターの部屋を後にした。
誰も知らぬ仮面の正体。
その“輪郭”が、少しずつ浮かび上がりつつある。
そして、それは同時に、サティ・フライデーという偽りの仮面が、やがて剥がされる日が近づいていることも意味していた──。
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