8 / 96
第8話 雨と秘密の喫茶店
しおりを挟む
朝から降り続ける雨が校舎の窓を叩いていた。
昼休みの教室はいつもより静かで、ざわめきの代わりに雨音が背景のBGMになっている。
私はカバンからいつものサンドウィッチを取り出して机の上に広げた。
隣では遠野が弁当箱の蓋を開けると同時に、 「わぁ、今日も豪華!」と自画自賛のような声をあげた。
「今日は卵焼きに唐揚げ、それにほうれん草の胡麻和えもあるのか。さすがだね」
「田所さんも一緒に食べる?分けてあげるよ?」
「いい、自分のサンドウィッチで足りるから」
遠野は箸を進めながら、ちらちらと私の方を見ている。
何か言いたげだが特に気にすることでもない。
私は卵サンドを一口かじり、静かに窓の外を眺めた。
雨の日は好きだ。
外に出たくなくなるくらい心が静まるから。
「田所さん、雨って嫌いじゃないんだね?」
「どうして?」
「だって、さっきからすごく落ち着いてる顔してるから」
「そりゃあ外に出なくて済むなら嫌いじゃないよ」
遠野は箸を止めてニヤリと笑う。
その顔を見て、なにか悪い予感がした。
「それなら放課後、一緒に寄り道しようよ。雨の日にぴったりな場所知ってるんだ!」
「……雨なのに?」
「だからこそだよ!」
遠野のこういう勢いには逆らえない。
案の定、昼休みの時点で私はもう観念していた。
放課後、傘を差しながら歩く商店街は雨のせいで人通りが少なく、どこか静寂に包まれている。
遠野が先頭を歩きながら時折振り返って私を待つ。
「もうすぐだよ!」
小さな路地に入ると、古い木製のドアが目に入った。
ドアの上にはアンティークなランプが灯り、レトロな雰囲気が漂っている。
「ここいいでしょ? 隠れ家的な喫茶店!」
遠野が嬉しそうにドアを開けると店内には心地よいジャズが流れ、窓際の席にはレースのカーテンが掛かっていた。
外の雨音と店内の静けさが絶妙に調和している。
「いらっしゃいませ」
柔らかな声に迎えられ、私たちは窓際の席に腰を下ろした。
木の温もりが伝わるテーブルの上にメニューが置かれている。
「田所さん、何にする?」
「……今日はホットコーヒーでいいかな」
「私はミルクティーとプリン!」
やっぱりデザートは欠かさないらしい。
遠野が注文を終えると、カバンから何かを取り出して私に見せた。
それは小さな手帳だった。
「何それ?」
「この前、面白そうだから買ってみたの。お店巡り手帳!」
遠野はにこにこしながら、すでに何件かの店名と感想が書かれたページを開いて見せてくれる。
「これ、今日の店も記録しないとね!」
「いつからそんな趣味?」
「田所さんといろんなご飯行くうちに、食べるだけじゃなくて雰囲気も楽しみたくなっちゃった!」
素直なところが彼女らしい。
遠野のことだから、食べることが中心だと思っていたけれど、こうして少しずつ新しい興味を見つけているのを見ると私も少し嬉しくなる。
「じゃあ、この店の感想もきちんと書いてよ」
「もちろん!」
そのうちに注文したコーヒーとミルクティー、そして遠野の注文したプリンが運ばれてきた。
彼女はすぐにスプーンを手に取り、勢いよくプリンに突き刺す。
「おいしい!」
「一口目で決めるの?」
「だっておいしいんだもん!」
私はコーヒーを一口飲み、温かさが喉を通っていくのを感じながら静かに息を吐いた。
窓の外ではまだ雨が降り続いている。
こうして雨の日に静かな場所で過ごすのは確かに悪くない。
「田所さん、今日は楽しいね」
「雨の日なのに?」
「雨の日だからだよ!」
遠野が屈託のない笑顔でそう言った瞬間、私の心にポツンと小さな温かいものが落ちたような気がした。
何気ない日常の中でこうして一緒に過ごす時間が思った以上に私にとって大切なものになっているのかもしれない。
「次のページにはどんな店を書く?」
「うーん、次は甘い系のカフェとか?」
「結局食べるのが中心なんだね」
遠野はケラケラと笑いながらプリンを完食した。
私も少しずつコーヒーを飲み干し、この店の静かな雰囲気をしっかりと心に刻んだ。
昼休みの教室はいつもより静かで、ざわめきの代わりに雨音が背景のBGMになっている。
私はカバンからいつものサンドウィッチを取り出して机の上に広げた。
隣では遠野が弁当箱の蓋を開けると同時に、 「わぁ、今日も豪華!」と自画自賛のような声をあげた。
「今日は卵焼きに唐揚げ、それにほうれん草の胡麻和えもあるのか。さすがだね」
「田所さんも一緒に食べる?分けてあげるよ?」
「いい、自分のサンドウィッチで足りるから」
遠野は箸を進めながら、ちらちらと私の方を見ている。
何か言いたげだが特に気にすることでもない。
私は卵サンドを一口かじり、静かに窓の外を眺めた。
雨の日は好きだ。
外に出たくなくなるくらい心が静まるから。
「田所さん、雨って嫌いじゃないんだね?」
「どうして?」
「だって、さっきからすごく落ち着いてる顔してるから」
「そりゃあ外に出なくて済むなら嫌いじゃないよ」
遠野は箸を止めてニヤリと笑う。
その顔を見て、なにか悪い予感がした。
「それなら放課後、一緒に寄り道しようよ。雨の日にぴったりな場所知ってるんだ!」
「……雨なのに?」
「だからこそだよ!」
遠野のこういう勢いには逆らえない。
案の定、昼休みの時点で私はもう観念していた。
放課後、傘を差しながら歩く商店街は雨のせいで人通りが少なく、どこか静寂に包まれている。
遠野が先頭を歩きながら時折振り返って私を待つ。
「もうすぐだよ!」
小さな路地に入ると、古い木製のドアが目に入った。
ドアの上にはアンティークなランプが灯り、レトロな雰囲気が漂っている。
「ここいいでしょ? 隠れ家的な喫茶店!」
遠野が嬉しそうにドアを開けると店内には心地よいジャズが流れ、窓際の席にはレースのカーテンが掛かっていた。
外の雨音と店内の静けさが絶妙に調和している。
「いらっしゃいませ」
柔らかな声に迎えられ、私たちは窓際の席に腰を下ろした。
木の温もりが伝わるテーブルの上にメニューが置かれている。
「田所さん、何にする?」
「……今日はホットコーヒーでいいかな」
「私はミルクティーとプリン!」
やっぱりデザートは欠かさないらしい。
遠野が注文を終えると、カバンから何かを取り出して私に見せた。
それは小さな手帳だった。
「何それ?」
「この前、面白そうだから買ってみたの。お店巡り手帳!」
遠野はにこにこしながら、すでに何件かの店名と感想が書かれたページを開いて見せてくれる。
「これ、今日の店も記録しないとね!」
「いつからそんな趣味?」
「田所さんといろんなご飯行くうちに、食べるだけじゃなくて雰囲気も楽しみたくなっちゃった!」
素直なところが彼女らしい。
遠野のことだから、食べることが中心だと思っていたけれど、こうして少しずつ新しい興味を見つけているのを見ると私も少し嬉しくなる。
「じゃあ、この店の感想もきちんと書いてよ」
「もちろん!」
そのうちに注文したコーヒーとミルクティー、そして遠野の注文したプリンが運ばれてきた。
彼女はすぐにスプーンを手に取り、勢いよくプリンに突き刺す。
「おいしい!」
「一口目で決めるの?」
「だっておいしいんだもん!」
私はコーヒーを一口飲み、温かさが喉を通っていくのを感じながら静かに息を吐いた。
窓の外ではまだ雨が降り続いている。
こうして雨の日に静かな場所で過ごすのは確かに悪くない。
「田所さん、今日は楽しいね」
「雨の日なのに?」
「雨の日だからだよ!」
遠野が屈託のない笑顔でそう言った瞬間、私の心にポツンと小さな温かいものが落ちたような気がした。
何気ない日常の中でこうして一緒に過ごす時間が思った以上に私にとって大切なものになっているのかもしれない。
「次のページにはどんな店を書く?」
「うーん、次は甘い系のカフェとか?」
「結局食べるのが中心なんだね」
遠野はケラケラと笑いながらプリンを完食した。
私も少しずつコーヒーを飲み干し、この店の静かな雰囲気をしっかりと心に刻んだ。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
プール終わり、自分のバッグにクラスメイトのパンツが入っていたらどうする?
九拾七
青春
プールの授業が午前中のときは水着を着こんでいく。
で、パンツを持っていくのを忘れる。
というのはよくある笑い話。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる