食いしん坊な親友と私の美味しい日常

†漆黒のシュナイダー†

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第78話 ショッピングとホットサンド

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 いつもより少しだけ早起きした私と遠野は都会へ繰り出していた。
 お互い気ままにウィンドウショッピングを楽しみ、春物の服や雑貨を物色していると、あっという間に昼時が近付いてくる。

「ねえ田所さん、そろそろお腹空かない?」
「うん、私もそろそろ何か食べたいと思ってたところ」

 駅前の大通りは平日ほどの混雑こそないものの、休日の賑わいが感じられる。
 行き交う人々の中にはショッピングバッグを手に笑顔を浮かべるカップルや友人同士らしき姿も目立つ。
 私たちも荷物を抱えながら、どこに行こうかと考えを巡らせていた。

「ラーメンでも良いけど、ちょっと重いかな?」
「カフェっぽいところもいいよね。せっかくだし、おしゃれな店でランチとか」

 そんなふうに話していると遠野が急に思い出したように声を上げる。

「そういえば今日って『ホットサンドを楽しむ日』なんだって!」
「え、何それ。またどこかの業界団体か会社が決めたやつ?」
「多分そんな感じ。ホットサンドの美味しさをもっと広めようみたいな、ネットの記事で見たんだよね!」

 遠野の情報網はいつもよく分からない。
 怪しい日付の記念日を次々と仕入れてくるが、それに振り回されるのはいつものことだ。
 ただホットサンドであれば手軽に食べられるし買い物の合間にちょうどいいと思い、私は素直にうなずく。

「まぁホットサンドなら食べやすいし悪くないかもね。どこかいい店あるの?」
「あるある! 有名なお店が近くにあるらしいよ! SNSでめっちゃ話題になってたから、一度行ってみたかったんだよね!」
「へぇ、初耳かも。そんなに人気なの?」
「うん、ホットサンドが絶品らしいよ。しかもお店の雰囲気もおしゃれでフォトジェニックって!」

 遠野はスマホを操作しながら地図を確認し「こっちだよ!」と意気揚々と先を歩き始める。
 私も彼女の後ろを追うように荷物を抱え直して足を速めた。

 大通りから一歩裏路地に入ると雑居ビルや個性的なカフェが建ち並ぶ一角に出る。
 その中に目当ての店があった。
 ネオンサインが控えめに光り、外観からしてすでにおしゃれな雰囲気が漂っている。

「ここだ! 意外と人がいるね」
「ほんとだ。並んでる感じだけど……まぁ大丈夫そうかな?」

 店の扉を開けると、ポップな音楽が流れ、店内にはカウンター席とテーブル席が程よく配置されている。
 平日のランチタイムほど混んではいないが客席の半分くらいは埋まっていた。
 店員さんに案内され、私たちは窓際の席に腰を下ろす。

「うわぁ、内装かわいい! インテリアとか小物のセンスがいいね」
「確かに写真映えしそう。遠野、どうせSNSに上げるんでしょ?」
「もちろん! 今日がホットサンドを楽しむ日っていうのも広めないと!」

 遠野はメニュー表を眺めながら目を輝かせる。
 どれも美味しそうなホットサンドの名前が並んでいて選ぶのに悩みそうだ。

「えーっと、ベーコンエッグのクラシックなやつもいいし、アボカドとチキンのやつも魅力的……うーん決められない!」
「私はベーコンエッグとチーズのやつでいいかな。そっちのほうが王道っぽいし」
「じゃあ私は……思い切って二種類頼んじゃおうかな。ベーコンエッグと、アボカドチキン!」
「またそんなに? いっぱい食べるねぇ……」
「ホットサンドは一つのサイズがそこまで大きくないって聞いたから、ペロッといけるよ!」

 注文を済ませて店内を見回すと、他のお客さんも色とりどりのホットサンドを頬張っている。
 アメリカンな雰囲気の中にコーヒーやオレンジジュースを片手に笑顔で会話を楽しんでいる人が多い。
 私もなんだかワクワクした気分になってくる。

 ほどなくして運ばれてきたホットサンドは、こんがりと焼き色がついたパンからチーズがとろりと溶けだし、ベーコンの香ばしい香りがふわりと鼻をくすぐる。
 サイドには少量のフライドポテトとピクルスが付いていて見た目のバランスも良い。

「わぁ、めっちゃおいしそう!」
「じゃあ、いただきますか……」

 私はそっと手に取り、軽く口を開けてかじりつく。
 カリッと焼かれたパンの食感と内部のジューシーなベーコン&とろけたチーズが絶妙だ。
 卵のふわりとした黄身の風味が後から追いかけてきて、思わず声が漏れる。

「うわっ、これは当たりだね。ホットサンドってこんなに美味しく感じたっけ?」
「でしょー! 私のも最高だよ。ほら、アボカドとチキンの組み合わせが最高……ん~幸せ!」

 遠野はすでに二種類目に手を伸ばしていて、その勢いに軽く呆れてしまう。
 もともと食欲旺盛なのは知っていたが今日も遠慮なく彼女らしさを発揮しているようだ。

「そんなに食べてお腹壊さないの?」
「全然平気! ホットサンドは軽いし、それに今日は“ホットサンドを楽しむ日”なんだよ? 堪能しないと損でしょ!」
「はいはい、わかりましたよ」

 私も負けじとホットサンドを平らげ、最後にホットコーヒーで締める。
 ちょうどいい苦みが脂っこさを中和してくれる。
 店内の雰囲気と相まって、なんとも贅沢な気分になれた。

「いやー、食べた食べた! 田所さん、もう満足した?」
「うん、十分お腹いっぱい。遠野は最初から二種類頼むなんて、相変わらずすごい食欲だね」
「えへへ。でもこの店ならもっと色んなメニュー試したいから、また今度来ようよ」
「まぁ、機会があればね」

 会計を済ませ、店を出るころには外の通りがさらに賑わっていた。
 空を見上げると春らしい暖かい日差しが差し込み、行き交う人々の足取りがどことなく軽やかに見える。

「さて、次はどうする? 買い物も一通り済ませたし……」
「展示会に行くって言ってたじゃん! ほら、あの駅ビルの催事場でやってるやつ!」
「ああ、そういえばネットで見かけたね。アート系の展示だったかな?」
「そうそう! ちょっと気になってたんだ。食後の運動がてら歩いて行ってみようよ!」

 こうして私たちはホットサンドの満足感を抱えたまま、都会の街を再び歩き始める。
 春の空気が混ざり合って、なんとも言えない心地よさが胸に残った。
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