金魚探偵

オムライス

　矢太郎は、やむをえず記者と探偵を両立することを条件に了承した。
　そよはしてやったりと言う顔でこちらを一瞥し話しを変えた

　そよは探偵事務所の名前をどうするかと、クールな態度から一変無邪気な少女の様に楽しそうだった。

　矢太郎はそんな顔は初めて見たとばかりに驚いた。探偵事務所の名を花魚と安直だな、と言いたくなる名前になった。そよは何処に事務所を借りるかなとこちらを置いてきぼりにし盛り上がっていた。その姿を見ながら矢太郎は、勝手に頼まれていたカレーライスを食べた。見た目はクールに装っているが中身は無邪気にはしゃぐ少女、まるでこの店の注文表にあるオムライスのようで矢太郎は、微笑を浮かべた。

　その後、いつのまにか事務所が決まった。そこはとても安く、矢太郎は不思議に思った。間取りも立地も悪くない、そよは事故の気配はないのでここにしたらしい。しかし何故こんなにも安いのかを確かめる事にした。収納の場も何もなく、畳も異常なしと思った時屋根の方から何かが走る音がした。矢太郎は、そよに脚立を持って来るよう頼み、屋根裏に顔を覗かせた。下からそよが大丈夫かと心配していたがその不安はすぐに消えることになった。そこは、埃臭く今にもくしゃみが出そうになったが後方から何か聞き慣れた動物の声が聞こえた。振り返ると野良猫と思われる猫がこちらを見据えていた。警戒心は最初だけだ矢太郎は、動物に好かれやすいので捕まえるのは容易だった。むかしから動物には好かれるほうだった、ともかくこの猫が原因で気味悪がられて安くなったのだから棚からぼた餅というやつだろう、この猫を飼うことができないので里親を探すと矢太郎の上司である編集長が名乗り出たので預けることにした。仕事場では見せない姿で猫に赤子でもあやす時のようなしゃべり方で少し、いやだいぶ気色が悪かった。

最初は茶色い猫かと思ったが洗うと大量の茶色い汚れた水が出てきて負担がないように出来るだけ洗った、徐々に白く艶のある毛が姿を表した。

　矢太郎の候補にオムライスと言う名前があったのは、そよは知らない。

たまには事件、事故が起こらず平和な時間があっても罰は当たらないだろう。それにこんなに異性と話すこともない、自分で言っておいて少し悲しくなるが久しぶりに心から楽しいと思える一時だった、それは、そよも一緒のことを考えていた。「お父さんと弟以外でこんなに話したの初めて、楽しかった」
二人の思考で「あの人いいなぁ」
という考えが一致した。