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悪徳の流転
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「まさか、お嬢様がこんな真似をなさるなんて……」
「お嬢様がお望みになられたことだ。それに“趣味”だというのであれば、我々がお諌めする道理もない。代々の当主も言うに憚れることはいくらでもやってこられた。みずから名を伏せて、剣闘奴隷の真似事をなされた当主もおられた」
貴賓席にはフリージアの姿はない。
闘士として、この性闘技に参加すると言い出したからだ。
メイド長と執事が観戦するのみである。
顔をしかめるメイド長に、執事が答えた。
フリージアは、闇の会合に闘士として参加するという。
エリンとの取り引きだとして。
メイド長も仰天してさすがに諌めた。あまりにも馬鹿げている、と。
しかし、フリージアは公爵家の安泰のため、エリンからの挑戦から逃げるつもりはないと譲らなかった。
執事は、その意志を尊重するとして闇の会合開催への手回しを行なった。
フリージアは仮面で素顔を隠しているが、見る者が見ればすぐ気づくであろう。
ただ、貴族が付ける仮面の意味は、ここにはやってきていないので他言無用にせよという暗黙の了解でもある。
観客たちも、その暗黙の了解として紳士協定を結んでいる。
気に入った選手をギュスターランド公爵家を通じて夜伽に指名することもあるので、共犯関係でもある。
「ギュスターランド公爵家は、代々王国の悪の部分を請け負ってきた。暗殺、陰謀、謀略……これらのために行なうのに苦痛と快楽も平然と用い、繁栄のために退廃と背徳も受け入れてきた。お嬢様みずからがこうして望んで身を投じるなら、むしろ喜ばしいことだ」
「そんな理屈……」
「お嬢様が望んだなら、家臣はそのために尽くすものだよ」
お嬢様が望むなら――。
それを言い訳として、淫靡な催しに身を委ねる主の姿を楽しもうというのではないか? そう受け取れる笑みすら湛えている。
ダークエルフは邪悪な種族されているが、まさにこれかとメイド長も呆れるしかなかった。
彼女も魔族の血を引いているとはいえ、それほどの闇にはまだ躊躇いがある。
長い寿命を持ち、代々ギュスターランド公爵家に仕えているだけに道徳も紊乱しているのだろう。
「さあ、試合が始まる。お嬢様に拍手を贈ろうではないか」
会場では、貴族令嬢Xとしてフリージアは試合に参加している。
無論、戦う闘士としてではない。
高貴な身分の令嬢が、こうしたもおよしで為すすべもなく蹂躙されて犯されるという生贄としての見世物だ。
簡単に言えば、そのやられっぷりが期待されている。
潤滑液にまみれ、感じて声を漏らし、恥辱に塗れる役だ。
獣人族の女戦士、女騎士、少年の暗殺者、さらにはモンスターを相手にして勝てるはずもない。
女同士がエロティックに絡み合う戦いも、大きな需要となっている。
モンスターが放たれれば命の危険もあり、さらには身の安全のためだとして中途半端に止めてしまっては興奮した客が暴動を起こす可能性や主催者であるギュスターランド公爵家の評判にもかかわる。
悪名は甘受するが、信用に影響する評判は気にせねばならないのだ。
観客たちの視線は、その貴族令嬢Xに集まっている。
このような催しでは、滅多に饗されることのない生贄である。
高貴な血統というのは、必然的に容姿が優れた者たちが生まれてくる。
裕福さ、権力によって美男美女を娶り、代々繰り返させる。
そしてまた、美しさを武器にするために日々の美容にも気を配る。
庶民とは栄養状態や体調管理も違い、肌や体格といった後天的なものにも影響する。
フリージアもまた、そうして磨かれた美しさを得ている。
絹地の薄い衣装は、申し訳程度のものであり、乱闘となれば、あっという間に剥ぎ取られるだろう。
身体のラインもくっきりと浮かび上がり、好色な視線を一身に浴びていた。
「恥ずかしい……」
思わず、フリージアは胸を腕で覆った。
こんな経験は、今までしようはずがない。
情欲の対象となって大勢の前で裸身を晒すなど、考えもしなかったことである。
エリンを誘惑し、奉仕させるために見せつけるのとは違う。
仮面がなければ、その場で逃げ出していただろう。
今でも逃げ出したいくらいだ。
これも、自分が申し出てエリンも体験したことである。耐えれば、エリンに約束を履行させられるのだ。
そうすれば、覚悟を示した結果として自分のものにできる。
しかし、この闘技で自分がどうなるかもよくわかっている。
さっそく、女騎士ノエルの視線が突き刺さる。
驚きののち、強い敵意と復讐の決意が向けられている。
自分が受けた辱めを、この場で晴らすつもりだろう。
それには絶好の機会だ。
「ほら、お客さんに挨拶しろ! その、おっぱいを見せつけるんだよ」
「きゃっ!」
司会が、おどおどしているフリージアの尻を叩く。
撫で回すような動きもあった。
今は、貴族令嬢Xである。
振り切るようにして、観客に向けて手を広げた。
これが、彼女自身が選んだ道なのだ、
「お嬢様がお望みになられたことだ。それに“趣味”だというのであれば、我々がお諌めする道理もない。代々の当主も言うに憚れることはいくらでもやってこられた。みずから名を伏せて、剣闘奴隷の真似事をなされた当主もおられた」
貴賓席にはフリージアの姿はない。
闘士として、この性闘技に参加すると言い出したからだ。
メイド長と執事が観戦するのみである。
顔をしかめるメイド長に、執事が答えた。
フリージアは、闇の会合に闘士として参加するという。
エリンとの取り引きだとして。
メイド長も仰天してさすがに諌めた。あまりにも馬鹿げている、と。
しかし、フリージアは公爵家の安泰のため、エリンからの挑戦から逃げるつもりはないと譲らなかった。
執事は、その意志を尊重するとして闇の会合開催への手回しを行なった。
フリージアは仮面で素顔を隠しているが、見る者が見ればすぐ気づくであろう。
ただ、貴族が付ける仮面の意味は、ここにはやってきていないので他言無用にせよという暗黙の了解でもある。
観客たちも、その暗黙の了解として紳士協定を結んでいる。
気に入った選手をギュスターランド公爵家を通じて夜伽に指名することもあるので、共犯関係でもある。
「ギュスターランド公爵家は、代々王国の悪の部分を請け負ってきた。暗殺、陰謀、謀略……これらのために行なうのに苦痛と快楽も平然と用い、繁栄のために退廃と背徳も受け入れてきた。お嬢様みずからがこうして望んで身を投じるなら、むしろ喜ばしいことだ」
「そんな理屈……」
「お嬢様が望んだなら、家臣はそのために尽くすものだよ」
お嬢様が望むなら――。
それを言い訳として、淫靡な催しに身を委ねる主の姿を楽しもうというのではないか? そう受け取れる笑みすら湛えている。
ダークエルフは邪悪な種族されているが、まさにこれかとメイド長も呆れるしかなかった。
彼女も魔族の血を引いているとはいえ、それほどの闇にはまだ躊躇いがある。
長い寿命を持ち、代々ギュスターランド公爵家に仕えているだけに道徳も紊乱しているのだろう。
「さあ、試合が始まる。お嬢様に拍手を贈ろうではないか」
会場では、貴族令嬢Xとしてフリージアは試合に参加している。
無論、戦う闘士としてではない。
高貴な身分の令嬢が、こうしたもおよしで為すすべもなく蹂躙されて犯されるという生贄としての見世物だ。
簡単に言えば、そのやられっぷりが期待されている。
潤滑液にまみれ、感じて声を漏らし、恥辱に塗れる役だ。
獣人族の女戦士、女騎士、少年の暗殺者、さらにはモンスターを相手にして勝てるはずもない。
女同士がエロティックに絡み合う戦いも、大きな需要となっている。
モンスターが放たれれば命の危険もあり、さらには身の安全のためだとして中途半端に止めてしまっては興奮した客が暴動を起こす可能性や主催者であるギュスターランド公爵家の評判にもかかわる。
悪名は甘受するが、信用に影響する評判は気にせねばならないのだ。
観客たちの視線は、その貴族令嬢Xに集まっている。
このような催しでは、滅多に饗されることのない生贄である。
高貴な血統というのは、必然的に容姿が優れた者たちが生まれてくる。
裕福さ、権力によって美男美女を娶り、代々繰り返させる。
そしてまた、美しさを武器にするために日々の美容にも気を配る。
庶民とは栄養状態や体調管理も違い、肌や体格といった後天的なものにも影響する。
フリージアもまた、そうして磨かれた美しさを得ている。
絹地の薄い衣装は、申し訳程度のものであり、乱闘となれば、あっという間に剥ぎ取られるだろう。
身体のラインもくっきりと浮かび上がり、好色な視線を一身に浴びていた。
「恥ずかしい……」
思わず、フリージアは胸を腕で覆った。
こんな経験は、今までしようはずがない。
情欲の対象となって大勢の前で裸身を晒すなど、考えもしなかったことである。
エリンを誘惑し、奉仕させるために見せつけるのとは違う。
仮面がなければ、その場で逃げ出していただろう。
今でも逃げ出したいくらいだ。
これも、自分が申し出てエリンも体験したことである。耐えれば、エリンに約束を履行させられるのだ。
そうすれば、覚悟を示した結果として自分のものにできる。
しかし、この闘技で自分がどうなるかもよくわかっている。
さっそく、女騎士ノエルの視線が突き刺さる。
驚きののち、強い敵意と復讐の決意が向けられている。
自分が受けた辱めを、この場で晴らすつもりだろう。
それには絶好の機会だ。
「ほら、お客さんに挨拶しろ! その、おっぱいを見せつけるんだよ」
「きゃっ!」
司会が、おどおどしているフリージアの尻を叩く。
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今は、貴族令嬢Xである。
振り切るようにして、観客に向けて手を広げた。
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